ジャニー・コーンの
キャンドル夢幻郷
無常と蝋と完璧なナイフを愛するアーティストが君臨する

キャンドルは無常について多くを教える。自らを使い果たすことで光を放ち、ほぼ姿を消した名残りから新しいものが生まれる。さながら、いたいけな蝋の殉教者ではないか。
キャンドル メーカーとしてキャンドルの生涯を知り尽くしているジャニー・コーン(Janie Korn)は、蝋の世界で神を演じるアーティストだ。スタジオと化したアパートに降臨し、切り分け、芯を入れ、浸し、彫り、着色するという一連の手作業で細密なディテールをほどこし、キャンドルに命を吹き込む。キャンドル量販店の観を呈する室内には、オリーブからポール・スミス(Paul Smith)、ドールハウス、エヴァン・モック(Evan Mock)、匂い付きのメリー ジェーン シューズ、『チャイルド プレイ』のチャッキーに至るまで、豊かな空想から生まれた蝋の小像がひしめいている。柔らかそうな花綱をまとったケーキ キャンドル、満開のフラワー キャンドル、可愛いアニメ キャラクターのキャンドルは、細かく色付けした層が幾重にも重ねられている。「筆が汚れると、胸や腕になすりつけちゃうの」とコーンは言う。「だから作業着が立体地図みたいになってしまう」
作業着に付いたり、なすりつけたりしたワックスのひとつひとつが、作品の完成と次の作品の誕生を物語る。常に、消滅と誕生が隣り合っている。太陽に近づきすぎたイカロスがどうなったか…、それを思い出させるのがキャンドルだ。キャンドルは炎によって存在理由を与えられる。だからと言って、炎を恐れる必要があるだろうか? キャンドルは「ノー」と答える。そんなキャンドルの創造を、コーンが伝授する。
1.
注ぎ口のついた鍋と別の鍋を二重に重ねて、好きな蝋を溶かす。蝋にはソイ、パラフィン、ビーのほか、細かく分ければ何百種類もあるので、目的に適したものを選べばいい。ビーワックスを使うと、素晴らしい香りが広がる。
2.
芯の周囲に蝋を冷まし固める。
3.
蝋を注ぎ足し、削る。完璧な形に仕上がるまで、この作業を何度も何度も繰り返す。果てしなく続くようでも、必ずいつかは目指す向こう岸へ辿り着く。
4.
キャンドル用の染料で色付けする。アクリル絵の具は、燃えると有害なプラスチック製品だから、絶対に使わないこと!
5.
色付けが気に入らなかったら、削りとって、4を繰り返す。その点、キャンドル作りはとても寛容なアートと言える。
6.
火を灯す。置物にする。特別なお祝いやギフトに使う。

1. これは5年前に元カレから失敬したX-Actoナイフで、私にとって唯一の最高に大切な道具。キャンドルの形を作るのに、絶対手放せない。握りの部分の曲線に手がすっかり手に馴染んでいるし、刃の切れ具合も絶妙に鈍っている。国中どこへ行くにも、これを持って行く。もし洪水になったら最初に避難させる。これなしには、やっていけない。

2. キャンドル作りの過程でいちばん好きなのは、形も色もまだ大雑把だけど、頭の中に出来上がりが見え始めるとき。ここまで来たら、もうあれこれ考えずに、直感に任せる。蝋の扱い方、曲がったり、砕けたり、固まり始める温度…、今ではもうすっかり慣れているから、手が自然に動いて完成させる。

3. 蝋はとても許容力のあるおおらかな素材だけど、汚れる。エプロンに付いて固まった蝋を剥ぎ落とし、犬みたいに体をブルブルして皮膚に付いた薄片を振り払い、テーブルや床の上で固まった破片を擦り落とす作業が日常的に含まれる。

4. ウサギに色をつけて、命を吹き込んでいるところ! このときのエプロンは新しいので、私にしては比較的きれい。

5. パンデミックの直前にスタジオをアパートへ移したから、作品に埋もれて暮らす生活もほぼ3年。夢にまで出てくるけど、それも嬉しい。時々、目が覚めたら陳列棚へ行って、作品の配置を変えてちょっとした場面を作る。すると、それまでと違う作品の相互関係が見えてきて、新しいまとまりとテーマが浮かんでくる。

6. このウサギはシリーズ作品にするつもり。全部手作り。

7. これは1930年代のアメリカのアニメから思いついた新しいコレクション。子供の頃はフライシャー スタジオのアニメ作品をいっぱい見たし、それが私と私の美的感覚の形成に大きな役割を果たしたと思う。

8. 鍋にこびりついた蝋。

9. 奇妙な小さい生き物が大好き。人生を魔法の世界に変えてくれる。

10. 私の作品には、慎みのある清純なテーマも多い。例えば、昔のアニメ、子供時代の思い出、オモチャ、そしてこのメリー ジェーン シューズ。火をつけると、そういうものの儚さ、儚さを感じさせる理由を考え始める。このメリー ジェーン シューズには、マリッサ・ザッパス(Marissa Zappas)が調香したレザーとパウダーの香りをつけた。

11. ほとんどは私自身の永久収蔵品。つまり、手放したくないってこと。特に気に入っているのは、実物大のドールハウス、チェダー ブロッコリ スープ キャンドルが入ったブレッド ボウル、サフディ兄弟(Safdie brothers)の肖像。

12. 夢は、いつか、全部の作品をギャラリーへ持ち込んで、祭壇みたいなのを作って、全部に火をつけて、集団生贄の儀式をやること。キャンドルは儚いものだし、儚さがキャンドルの美しさでもある。命と同じように、あっという間に消えてしまう。消え去るまで、束の間存在するだけのキャンドルを私は作る。
- 写真: Molly Matalon / Jones MGMT

