AG Clubに要注目!

映画学科のドロップアウト組が、自作のラップ ビデオで人気急上昇

  • インタビュー: Matthew Trammell
  • 写真: Caroline Tompkins

さほど前のことじゃない。ある晩、デイム・ダッシュ(Dame Dash)が2018年に自腹で制作、監督したインディー映画『Honor Up』をYouTubeで観ていたら、広告が入って、AG Clubの「Memphis (Remix)」のビデオが流れた。ハーレムで育った幼少期を余すことなく強暴に描いた名作を夢中になって観ていたときに、いきなり逆さになったエイサップ・ファーグ(A$AP Ferg)が画面に現れて、シルバーのグリルを光らせながら、今だに「Shabba」でざくざくカネが稼げるとラップし始めたのだ。

違う世代が一緒にラップしているのは意外だったし、見ていてとても嬉しかった。AG Clubは、ジョディ・フォンテイン(Jody Fontaine)、ベビー・ボーイ(Baby Boy)、マニー(Manny)、アイヴァン(Ivan)、10人あまりのラッパー、カメラマン、デザイナーによるヒップホップ コレクティブだ。北カリフォルニアの出身で、ほとんどが20歳そこそこの若さ。1枚のフル アルバム『Halfway Off The Porch』、ひと握りのシングル、軽快で元気のいい「Memphis」と「Columbia」の2本のビデオをひっさげて、彼らは今、レーダーに探知されそうな場所まで浮上している。じわじわとハートを掴みつつあるのは、自分たちと同世代のヒーローを求める若者たち、そしてミュージック ブログから続々とラッパーが登場した2010年代のリバイバルを歓迎する年長のヒップホップ ファンだ。

2020年にリリースされた『Halfway Off The Porch』は、スティーヴ・レイシー(Steve Lacy)がPac Divの新アルバムを出したのかと思わせる。それほどに、カリフォルニアのインディー系ラッパーの系譜とバイブがぴったり同調する。親近感があって、陽気で、だけど必要なときは痛烈で、履き慣れた部屋履きみたいにしっくり馴染む。

ユニークで新鮮なサウンドもさることながら、ビジュアルも注目に値する。例えば「Memphis」のビデオは、AG Clubからラップ ビデオ全盛時代への贈り物だ。大勢のラッパーたちがTVを念頭に置いて思う存分DIYの「スター誕生」を楽しんだ、2000年代のミュージック ビデオを彷彿とさせる。そんな先輩ラッパーたちへの敬意を目に見えるカタチにしたビデオで、AG Clubは自分たちのスタイルを明確に打ち出した。一方で、紛れもなく現代的なグループ構成は、デイムがDD172でやりたかったことだろう。AG Clubでは、ビデオ制作のチームが表に出るメンバーと同じステータスを持ち、ベビー・ボーイはソングライターとビデオ監督の役割を果たす。そして、彼らのビデオ クリップへの思い入れは、はっきりと映像に表れている。

独自の方向性でビデオを制作するようになった経緯を尋ねると、いつもクルーがたむろする家の裏のポーチで、仲間と一緒に腰を下ろしているジョディが、「バカはAirbnbビデオを作る、っていうのが仲間内の鉄板ネタなんだ」と教えてくれた。「ラッパーが歌を作る。Airbnbを借りる。カネとオンナと酒を配置して、ウィードをふかす。部屋にニガを30人詰め込む。で、ミュージック ビデオ、一丁できあがり」。みんなが笑う。「オレたち、ああいうAirbnbビデオはごめんだね」

マシュー・トランメル(Matthew Trammell)

AG Club

マシュー・トランメル:メンバーにグラフィック デザイナーと動画編集者が何人もいるって、これまでのグループにはなかったし、スゴいよね。

マニー:オレとベビー・ボーイは、ハイスクール時代から、地元のラッパーのミュージック ビデオを作ってたんだ。ベビー・ボーイはめちゃくちゃ頑張って、いっつもすごいアイデアを持ってた。だけど金欠だったな、ふたりとも。

ジョディ:AG Clubのビデオは1回も撮ったことなかったから、オレの誕生日にみんなで撮影してみようってことになってさ。で、ガレージで「Caution」を撮って出来上がりを見たら、何回も何回も見返すくらい、めちゃくちゃおもしろかった。そいで「これ、いっつもやりゃいいじゃん」ってことになったんだ。どうせ集まって歌を作るんだから、集まってビデオを撮ってもいいわけだろ。

「Memphis」のビデオはどうだったの?

ジョディ:リリースしたアルバムのなかで「Memphis」の人気が出始めた頃、アイヴァンが混じるようになって、そのアイヴァンが今オレたちのビデオ制作のメンバーになってるCAJHを連れてきたんだ。ビデオに関してはオレたちなりの計画があったけど、ヒップホップのプラットフォームのLyrical Lemonadeで働いてる知り合いがいてさ、インタビューしたいから、そのとき一緒に何か出してくれって言われたんだ。だったら、この際自分たちの計画は置いといて、その代わり、いちばん盛り上がってる「Memphis」のビデオを持ってこうってことになった。とはいっても、2週間しか時間がない。ちょうどその頃、色んなグループと比べられてて、誰かがAG ClubはPharcydeに近いものがあるって言ってた。

それを聞いたとき、Pharcydeのことは知ってた?

ジョディ:ああ、「Passing Me By」は知ってたしビデオを観たこともあったけど、あんまし気にはしてなかった。それにしたって、あんな有名なグループと比べられるって、スゴい光栄だもんな。「Memphis」は、「North Memphis niggas, North Memphis niggas」をサンプリングしたのもそうだけど、もともとが、南部、メンフィス、ヒップホップへ敬意を表した歌なんだ。ヒップホップらしいフィーリングを感じさせる歌。過激で、聴いてるヤツも一緒にアガる歌。だから、Pharcydeと似てるって言われたことだし、どうせならヒップホップそのものをシャウトする動画にしようって決めたんだ。で、改めてPharcyde「Drop」や「Passing Me By」や「Running」のビデオを観てみたら、めちゃくちゃ良かった。あの頃のビデオって、超絶クレイジー、マジ最高。だから、そういうクラシックなビデオにAG Clubらしいひねりを足すことにした。逆回しとか、逆さ吊りとか、Hot Boyzのクルマとか、そのまんまのコピーじゃないけど、尊敬の気持ちで使ってることをわかってもらう。

Jody 着用アイテム(左) :シャツ(Andersson Bell) Baby Boy 着用アイテム (右) :ブーツ(Amiri)ポロ(JW Anderson)トラウザーズ(Bottega Veneta)ベレー(Daniel W. Fletcher)

「Drop」のビデオを制作したスパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)なんかは、当時のほとんどの動画監督と違って、君たちが今やってるようなことを始めた走りだよ。そういう古いビデオを観ながら自分たちのビデオ作りを考えるのは、どんな感じだった? 今は、当時にはなかったテクノロジーを使えるわけだし。

アイヴァン:オレたちには、ああいう有名なグループほど使えるものもカネもなかったから、そこは創造力で補うしかなくてさ。逆さに写すシーンは、ホームセンターで30ドルの棒を買ってきて、クルーが支えて、そこへベビー・ボーイが逆さにぶら下がったんだ。

ジョディ:膝を棒にひっかけて、ぶらんって。

マニー:動きを逆回しにするシーンも別撮りしたけど、あれは大変だった。Pharcydeの場合は、逆回しにしても、口の合わせ方を教える専門家がいたからな。

ジョディ:逆回しはベビー・ボーイのひとり勝ちだった!

マニー:ああ、ダントツ。みんな練習する時間が足りなかったのに、「あいつ、一体どうやったんだ?!」って場面がある。

ベビー・ボーイ:任天堂DSを持ってたからだって。

[全員が笑う]

それ、どういう意味?

ベビー・ボーイ:オレが子供の頃遊んでたDSって、自分の声を録音して逆に再生できるオプションがあったんだよ。それで、よく反対に喋る練習してたから。

[全員が笑う]

ジョディ:それ初耳。スゴい、いいじゃん。

DSでそんなことができるとは、まったく知らなかった。

ベビー・ボーイ:古いやつね、最初のモデル。今はもう無理。スイッチだとできないよ。

「Columbia」のビデオでは、青いエイリアンにされちゃってるね。あのアイデアでいけると思ったのは、いつ頃?

ベビー・ボーイ:アイデアを本書きしてるときは、いつもそれでいけると思ってる。問題は予算。「Columbia」のビデオは、メイクアップ アーティストを頼まなきゃいけなかったし、ロケに行く必要もあったし、色んなものをレンタルしなきゃいけなかった。別のアイデアもあったけど、そっちはもっと目玉が飛び出るくらい高くついたから。

制作とか本書きとか、そういう知識があったの? 映画を勉強したメンバーがいるとか?

ベビー・ボーイ:オレとマニーは、一緒のハイスクールで、動画制作の授業を取ったんだ。そこで必要なことはほぼ全部習ったね。動画制作の基本、そのほかに脚本、書き方、絵コンテ、編集まで、ビデオを作るのに必要なこと全部。

それ全部を1年間で勉強したの?

ベビー・ボーイ:マニーは3年、オレは2年。

その後、大学へ行こうとか映画を作ろうとか、思わなかった?

ベビー・ボーイ:続きはおかしな話なんだ。オレとマニーは一緒のコミュニティ カレッジへ入学して、映画学科へ進んだ。だけどそれがどうしようもない授業でさ。頭のいい人がハイスクールで勉強した以上のことを教えてくれるんだろうと思ってたら、実際は、ハイスクールの最初の1年で習ったことの繰り返し。これじゃ通ってもしょうがないと思って、ふたりとも、課題だけ提出することにしたわけ。それでしばらくは上手くいったんだ。ちゃんとプロジェクトを提出して、すごくいい点を貰って。けど授業にはちっとも出てこないから、講座担任のバカ親爺が目の敵にするようになってさ。学期の終わりに最終課題の短編映画を提出したら、オレたちに面と向かって、自分のクラスでそんなものを作れる生徒はまだひとりもいないはずだと言いやがった。オレたちが書いたことも、編集したことも、頭から嘘呼ばわり。「私のクラスの生徒にこれが作れるはずはない」ってメールに書いてきて、結局落第。単位をもらえなかった。そんな学校、クソくらえだ。学校へ行かなくても、ビデオは作れる。

Jody 着用アイテム(左) :カーディガン(Acne Studios)T シャツ(Acne Studios)トラウザーズ(Acne Studios) Baby Boy 着用アイテム(右) :セーター(Andersson Bell)

それ、おかしいんじゃない?! 教える立場にある人間が、生徒を嘘つき呼ばわりするなんて。

ベビー・ボーイ:教師としての程度がわかるよな。偉そうにしてたけどよ。

大問題だよ。

ベビー・ボーイ:それでオレたちは今ビデオの世界にいるんだから、気分いいよ。ざまあみろってんだ。

驚いたな。今度は絶対、自分が教えた生徒たちですって吹聴してまわるね。ここで名前を公表して、ぶっ飛ばしといたほうがいい。

ベビー・ボーイ:あいつの名前、何だったっけ? オルソン?

マニー:そう。オルソン先生、ざまぁ(笑)。オレたち、学校へはもう2度と行かなかったから最終プロジェクトの点数も貰えず終いでさ、メールを送ったんだぜ。たとえ不合格でも、点数くらいはつけるべきだっての!

Matthew Trammellは、ニューヨーク在住のライター。『The New Yorker』、『DAZED』、『The FADER』、その他多数に記事を執筆している

  • インタビュー: Matthew Trammell
  • 写真: Caroline Tompkins
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: March 31, 2021