メイキング
オブ アサケ
ナイジェリアから現れた
アフロビートの新星は
次なるレベルを目指す
- インタビュー: Nicolas-Tyrell Scott
- 写真: Kenny Germé

アサケ(Asake)はとても細かい。ツアー中の拠点にしている大きな屋敷はロンドン北東の近郊にあり、エリザベス朝の居間の下に贅沢なギリシャのヴィラから持ってきたような地下室と、さながら異なる歴史と地理を合体させた感がある。そこで行なわれる写真撮影で、アサケはシーンの一つひとつ、ルックの一つひとつを指図する。ツアーの最後を飾る12月14日の前日とあって、午後の時間は期待の色に染まっている。その間中、180cm近い長身のアサケが部屋から部屋へ飛び回り、自分の目ですべての写真をチェックし、チームと相談する。ふさわしいスタイルだけでなく、自分の本当の姿を見せたいからだ。

Asake' 着用アイテム:ベルトコート(Casablanca)、サングラス(Casablanca) 冒頭の画像 Asake 着用アイテム:Tシャツ(GmbH)、ベスト(entire studios)、ジーンズ(Marine Serre)、ベスト(entire studios)、ブーツ(GmbH)
「まず外へ出る必要があるな」。Givenchyのブラック レザーの帽子を脱ぎながら、28歳のアーティストは指示を出す。鷹揚とした印象だが有無を言わさぬ強さがあり、薄明りの館の中でダークブラウンの瞳がきらめく。屋外は零下の寒さで、建物の周辺には数日前に降った雪の名残が残っている。ラゴス生まれのアーメド・オロラデ(Ahmed Ololade)が初めて体験する英国の冬、そして英国という国だ。後で、「この次は夏に来なきゃ」と彼は笑った。
ロンドン初日公演のチケットがものの数分で完売すると、アサケは2回の公演の追加を発表した。すでに「Terminator」、「PALAZZO」、「Peace be Unto You」といったヒットがロンドンのナイトライフを征服していたから、アサケのロンドン到着を待ち望む興奮はいやが上にも高まっていた。英国でアフロビートに人気が集まるのは、なにも目新しいことではない。英国で暮らす西アフリカ出身の人々が、祖国からの文化輸出、特に音楽を誇りとし、10年以上も力強く主張し続けた成果だ。ディバンジ(D’Banj)の「Oliver Twist」(2013年)、イェミ・アラデ(Yemi Alade) の「Johnny」やフューズ・ODG(Fuse ODG)の「Antenna」(共に2014年)など、代表的な曲は大学生の大規模なレイブ パーティーに欠かせないナンバーであり、次世代アフリカ系英国人の音楽に対する認識を新たにした。アサケ以前、英国でウィズキッド(Wizkid)、アフロ・B(Afro B)、バーナ・ボーイ(Burna Boy)、マリーク・ベリー(Maleek Berry)、Mr イージー(Mr Eazi)、ティワ・サヴェージ(Tiwa Savage)らが登場できたのは、それらオーディエンスの下地があったからだ。
「ここの人はいいね。ここのエネルギー、大好きだな」。世界でファンが急増していることに感謝して、アサケは言う。「みんな音楽をわかってる。メッセージをつかんでる。見てて嬉しいよ」

Asake 着用アイテム:セーター(LU'U DAN)、ショートパンツ(LU'U DAN)、ジャケット(Gucci)、スライド(Nike)

Asake 着用アイテム:タンクトップ(Y/Project)、ジーンズ(GmbH)、ローファー(Marni)
アサケのデビュー アルバム『Mr. Money With the Vibe』は、昨年の9月にリリースされるやいなやBillboard 200の第66位を叩き出し、ナイジェリア発デビュー アルバムとして史上最高の記録を打ち立てた。シングルカットされた「Joha」は、数多くのプラットフォームで何千万回もストリーミング再生されている。アサケがアフロビートの期待の新星であることを数字が証明し、動かしがたい座を獲得することが日増しに確実の度を強めつつある。アルバムで聴かせるアマピアノ、フジ、ヒップホップ、ジャズ、ゴスペルの滑らかな融合は、いとも簡単にジャンルを飛び越えてしまう世代の典型だ。アフリカ大陸で芽生えてすでに人気を得たサウンドと定着したサウンドの直感的な混合は、世代を超える優れた能力と嗜好を示している。『Mr. Money With the Vibe』が成功したのは、伝統と現代の活力が等分に吹き込まれているからだ。「Joha」や「Sunmomi」は汚れたダンスフロアに誇らしく響いて世界の音楽の未来を知らせる一方、「Ototo」にはアフロビート、ジャズ、クラシックなサウンドの伝統が濃厚だ。
西欧世界では新顔のアサケだが、ミュージシャンになる前、クリエイター、アーティストとして腕に磨きをかけた長年の軌跡がある。スティーブン・ナナ(Stephen Nana)は2月からマネジメントを引き受けるようになったばかりだが、どんな状況下でも仕事をできるアサケの能力を躊躇なく指摘する。同じくナイジェリア出身のラッパー、オラミデ(Olamide)が設立したインディペンデント レーベルYBNLの契約にも、もっと大規模で国際的なEMPIREとの契約にも、マネージャーとして立ち合ってきた。YBNLはアフロビートの先駆者とも言うべきファイアボーイ・DML(Fireboy DML)を擁するレーベルであり、EMPIREは昨年の夏の初めにアサケとの契約を華々しく発表した。ナナの言葉を借りるなら、アサケはいつでも成功を手にする「準備ができている」。必要なのはプラットフォームと自分の存在を知らせることだけだ。
「アサケについて何か言うとしたら、ともかくレコーディングが好きなことだな」とナナは断言する。「ロンドンに来て2週間だけど、その間にもう3曲レコーディングしたんだから。ヒットする曲を持ってるやつ、ってことだよ。ちょっとはリラックスすればいいのに」

Asake 着用アイテム:セーター(Burberry)、ベルトコート(Casablanca)
EPから12か月以内にデビュー アルバムを仕上げたアサケは、現在の音楽界の生態系を象徴している。つまり、コンテンツの着実な流れが期待されるということだ。YBNLとの契約後最初にリリースしたEP『Ololade Asake』にも、『Mr. Money With the Vibe』にも、自分の運命と信じるものを体現しようとする決意が明らかだ。EPのオープニング曲「Trabaye」では、自分がやろうとしていることを「世界に知らせるとき」だと宣言している。進む道への専念は『Mr. Money With the Vibe』へと続き、「Nzaza」では、長い旅路で目指す目的地へ辿り着けるよう、神に嘆願している。
アサケと僕がやりとりをするようになった最初の頃、ふたりともレモンとジンジャーのハーブティーが好きなことがわかった。公演日の早朝に要求する準備品リストに、アルコール類はひとつも入っていない。だが英国内で3回の公演をこなしたアサケは疲労困憊し、休息を必要としている。バーミンガムでの公演を終了したのが早朝。次の週末にはマンチェスターの後、ロンドンで立て続け2日の公演だ。「頭もいっぱいっぱい、体もいっぱいいっぱいだ。休みたいよ」とアサケは言う。「ブリクストンがいちばん面白かったな、全部が全部ひとつにまとまってさ」
ブリクストンでの最終公演にこだわるのは一時の気紛れではない。1日中、部屋にいるときも、少なくとも頭はステージへ飛んで、聴衆に見せるスタイリングに余念がない。「もうステージ衣装はまとめたのかな?」と尋ねる彼の目は、Gucciのキャラメル色のアンサンブルへ向いている。オーバーサイズのショートパンツとベストを加えるのは、その夜のステージにぴったりアイデアだ。
「特別好きなブランドはないんだ」とアサケは言う。「Gucci、Givenchy、その他色々」。ただし、Balenciagaはもう着ないと付け足した。大好きなフレア トラウザーズを別にすれば、レザーの手袋がアサケのシグネチャだ。写真撮影の時さえ、辺りのスタッフ全員に手袋があるか尋ねる。着ている服に合う手袋が見つからない場合は、サングラス。ディテールにこだわるアサケは、まさに歩くムードボードだ。あらゆる環境を受け容れ、拡張する。

Aske 着用アイテム:ベルトコート(Casablanca)、ジーンズ(GmbH)、ローファー(Marni)、サングラス(Casablanca)

Asake 着用アイテム:セーター(LU'U DAN)、ショートパンツ(LU'U DAN)、ジャケット(Gucci)、スライド(Nike)
マンチェスターのアカデミーとブリクストンのO2アカデミーで開催された英国ツアー第2回、3回、4回公演は、事細かに批評されたバーミンガムでの初日公演を受け、変更されていた。プロモーター側の問題を仄めかし、謝罪したアサケは、定評のあるアフリカ系英国人の演奏グループThe Compozersを起用して、改善を図った。ベースとキーボードを中心とするThe Compozersは、ダヴィド(Davido)、シーケイ(CKay)、Mr イージーらの公演に参加して、ロンドンの音楽シーンではすでに押しも押されもせぬ存在だ。アサケの公演に関する批評も、たちまち好意的に変化した。
アサケによると、最初からThe Compozersを登場させる予定だった。「あいつらは自分たちがやってることをわかってるし、ストーリーを理解している。ステージでものすごいエネルギーを発散するんだ」。ナナもアサケの言葉を裏付ける。「英国へ来たとき、アサケはThe Compozersを使いたいと伝えた。ところがプロモーターが、バーミンガムは新人バンドにやらせてみようと言ったんだ」。細部までこだわるアサケは、初日公演が不運に見舞われると、直ちに自分が計画していた当初のセット構成とサウンド アレンジへ戻って、やり直した。「アサケも何かしっくりこないと感じてたから、公演が上手くいかなかったとき、すぐにマンチェスターとロンドンでのやり方を変えたんだ」とナナは言う。
ロンドンの東西南北はもちろんのこと、ケントやエセックスといった周辺地域からも、ファンが押し寄せた。大半は西アフリカ系の集団で、念入りな服装で来場するのはロンドンのアフロビート コンサートではもはやお約束の光景だ。さまざまなストリート スタイルとハイ ファッションの要素が混じり合っている。ファストファッションのPrettyLittleThingがThe Archiveのような英国ブランドと組み合わされている。

Asake 着用アイテム:セーター(Burberry)、ショートパンツ(Gucci)
3回の公演が予定されたブリクストンでの第2回公演では、馴染みのない環境にもかかわらず、アサケ本来の才能が見事に輝き、ステージ上でも観衆の間にもすばらしい高揚感が溢れた。背景に故郷ラゴスの道路標識を並べたステージで、アサケはセットを飛び回り、ヒールのあるブーツを脱いで即興のダンスを踊る一幕さえあった。人気曲の「Organise」や「Joha」を手始めに、デビュー アルバムの曲を力強く繰り出していく。ショーマンシップとしての経歴は、実は、音楽の世界に入ってからの年数をはるかに上回る。約90分の公演には、子供時代から燃やしてきたパフォーマンスへの情熱がドラマチックに披露されていた。
「演じるのが好きなんだ」。アサケは少しばかり物憂げに言う。「大衆が、知りもしない人たちを観に行って、拍手する。それはハートから生まれることだ。演劇を勉強したのは、それが理由」。アサケの視覚イメージやツアーでも、あらかじめ下準備できる部分には、演劇と舞台芸術を専攻してオバフェミ アウォロウォ大学を卒業した経歴が活かされている。例えばブリクストンの公演では、ブレザー姿の子供たちがステージに上がって踊り、アサケを揶揄したり質問したりする演出があった。
日曜日と月曜日の公演で得た嬉しい手応えは、ロンドンでの体験を誇らしく締めくくるはずだった。だが12月15日、1万5千枚近くのチケットが完売した3回目の最終公演は、開演後数分で中止された。会場であるO2アカデミーの入口付近に群衆が殺到し、レベッカ・イクメロ(Rebecca Ikumelo)とギャビー・ハッチンソン(Gaby Hutchinson)の2名が命を落としたのだ。アサケは「僕は悲しみに打ちのめされている。こんなことが起きるなんて、想像もできなかった」と、Instagramで当惑と哀悼の意を表した。帰国後は予定されていた公演を続け、ラゴスではショーを中断して、観客と共にイクメロとハッチンソンの冥福を祈る黙祷を捧げた。いつも仕事場で目にするアサケと同じだ。忍耐強く、思慮深く、すばやく立ち直る。今回の非常に残念な事故によって、信仰は彼を強めると同時に慰めとなったのではないだろうか。
肯定、スピリチュアリティ、神は、アサケの音楽に遍在するテーマだ。撮影現場のフォトグラファーとチームのメンバーに対しても、1日中、事あるごとに、万物を包含する神の存在を口にする。ある撮影場所では「神の望みとあれば、それが俺に求められたことだ」と言い置いて、次の場所へ移動した。「2月に彼のマネージメントを始めたとき、最初は単に感謝の意を表してるだけだろうと思ってた」。ナナの言葉だ。「ところが12月の今になっても、アサケは毎朝目が覚めると神を賛美する。僕と話をするのは、その後だ。そういう人間なんだよ、彼は」
Nicolas-Tyrell Scottは、ロンドンを拠点とする音楽およびカルチャー分野のジャーナリストとして、『GQ』、『Pitchfork』、『Dazed』、『Apple Music』などに記事を執筆している。また、スピーカーとして、BBC、『Channel 4』、『Wray and Nephew』、『Soho House』に出演
- インタビュー: Nicolas-Tyrell Scott
- 写真: Kenny Germé
- スタイリング: Edem Dossou
- スタイリング アシスタント: Kevin Lanoy
- 写真アシスタント: Jim Tobias
- 写真アシスタント: Nicole Leblanc
- デジタル技術: Luke Bennet
- グルーミング: Pål Berdahl
- セット デザイン: Thomas Conant
- セット アシスタント: Nye Conant
- 撮影場所: Rococo House
- 制作: Town Productions
- 制作アシスタント: Jonathan Faulkner、Vanessa Grasse、Eugenia Redhouse Sotgia
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: January 18, 2023

