Rick Owensの新種
「Kissブーツ」が
ハートを鷲掴み

ファッション界の闇の帝王はCGIを使いこなす新人ヴィクター・クラヴェリーを起用して、2025年秋冬シーズンの宇宙的ブーツを創造した

  • 文: Alex Kessler

まとまりがなく意図的という意味で、2025年秋冬シーズンのメンズウェアは「暴動」と形容するにふさわしかった。見慣れたルックを新鮮な捻りで塗り替えたPrada、精密かつセクシーなスーツスタイルの数々を披露したSaint Laurent、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)とニゴー(Nigo)が決定的に融合したLouis Vuittonなど、シーズンは激震で始まった。キム・ジョーンズ(Kim Jones)が発表した詩的なコレクションは、おそらくDior Menで最後のコレクションになるだろう。 ウィリー・チャバリア(Willy Chavarria)は、政治色の濃いコレクションで、画期的なヨーロッパデビューを果たした。新進デザイナーも注目を集めた。ピッティ ウオモにゲストデザイナーとして参加した桑田悟史のSETCHUコレクションは強い印象を残したし、ローラ・アンドラシュコ(Laura Andraschko)はパリ ファッションウィークのメンズ日程中にウィメンズウェア コレクションを発表した。だが常に、独立デザイナーがシーズンを牽引することに変わりはない。2025年秋冬シーズンは、リック・オウエンス(Rick Owens)がリメイクした異星的Kissブーツがファッショニスタを唸らせた。

造形作品を思わせるダークなファッションで右に出る者のないオウエンスは、追随を許さないビジョンを突き詰める手法で、独創性を発揮する。したがって、もはや伝説のKissブーツを新たにリメイクしたことは、当然の展開と言える。ただし、今回はヴィクター・クラヴェリー(Victor Clavelly)を起用した。現在26歳。CGIアーティストの経歴と未来感覚を持ち、パリを拠点とする期待の新人デザイナーだ。ふたりのコラボは、地球上のものとは思えないフットウェアを誕生させた。レーザーカットを用いた非常にテクニカルなデザインの動きは、視線を引き寄せ、釘付けにする。鳥の羽根の柔らかさとアルマジロの硬さを兼ね備えた新種の生物のように、生命体と機械の境界線を霞ませる。『Vogue Business』シニアエディタ―のルーシー・マグワイア(Lucy Maguire)は「保温性、ルーズフィットのニットウェア、純粋に着られるデザインを基調にしたオウエンスのコレクションは、驚くほど実用的だった」と評したが、誇張したプロポーションと手の込んだディテールを与えられたブーツは、間違いなく、オウエンスにふさわしいドラマをランウェイに現出させた。

注目のコラボへ行き着いたクラヴェリーの道のりは、決して一直線ではなかった。パリで生まれ、パリで成長し、最初はビデオゲームのデザイナーを夢見ていた。特に、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のような、実体感に没入できるストーリーが好きだった。「ビデオゲームからものすごく影響されながら、大きくなった」とクラヴェリーは言う。「キャラクター、雰囲気、ストーリーの全部が僕の中に刻み込まれた」。後にファッションデザインへ転向すると、ビデオゲームの感性が流れ込み、デジタルの領域で培った知識が混ざり合い、空想と機能の間隙を埋める独自の美学が構築されることになる。

エコール デュプレを卒業してファッションの世界へ足を踏み入れた2020年は、コロナ禍の只中だった。従来の進路が閉ざされていることを知ったクラヴェリーは、フリーランスのCGIアーティストとして仕事をしつつ、自分のコレクションを作ることにした。最初のコレクション「Le jugement」は2022年、2番目のコレクション「Les Amnésiques」は翌年の2023年に発表した。どちらもコンセプト志向が強く、甲冑と人工装具の要素をとり入れた「着る」アートだった。「キャラクターとストーリーのスケッチから始めて、ひとつの世界をまるごと考案した後に服のデザインを考えた」とクラヴェリーは説明する。「どっちのコレクションも、僕が空想した宇宙の拡張だ」

クラヴェリーの優れた技術と未来的要素に関心を持ったオウエンスは、斬新なプリントを目にした後、Instagramでクラヴェリーにコンタクトした。2022年のことだ。以後ふたりは連絡を取り合い、今年になってコラボが実現した。クラヴェリーはオウエンスの最新コレクションのために、Kissブーツと一連のミニスカートをデザインすることになった。「リックもチームのメンバーも、驚くほど自由にさせてくれた。制約なしにアイデアを試すことができたから、素晴らしく充実感のある仕事だった」とクラヴェリーは言う。

かくしてクラヴェリーの名は一躍有名になったが、レーザーカットしたレザーを使い、床に引きずる立体的シルエットで誕生したブーツも、たちまちファッションウィークの話題をさらった。「とにかく触感が素晴らしくて、うっとりする」と言うのは『Dazed』のファッション記事ディレクター、エマ・デヴィッドソン(Emma Davidson)だ。「スキーに行きたくてたまらなくなったわ。スキーをするためじゃなくて、アプレスキーが目的。あのブーツを履いてたら最高にクールに見えるはずだもの」

SSENSEデジタルコンテンツ マネジャーのマイケル・リナルディ(Michael Rinaldi)も、新種Kissブーツの体感に感動したひとりだ。「一目見てすぐに、履いたときの感じを想像した。ガンガン歩いていくと、レザーがピチャピチャ歩道に跳ねる。汚れたってまったく気にかけない、野生動物的な感覚だ」

クラヴェリーの作品、提供:デザイナー。

クラヴェリーにとって、今回の反響は現実とは思えないほど心の踊る体験だった。「ショーとソーシャルメディアの両方で、しかもリアルタイムで、自分のデザインが話題になっていくのを目の当たりにして唖然とした」と言う。「家族も友だちもすごく喜んでくれてる。いまだに信じられない気分だ」。だが、これまでバイラルな成功と無縁だったわけではない。昨年は、ケイティ・ペリー(Katy Perry)が新シングル「ウーマンズ ワールド」で着用したブーツで、大きな話題になった。「あれは完成までに何か月もかかったけど、ソーシャルメディアで大ヒットして、そこから新しいチャンスが生まれ始めた」。独創性に注目が集まり、ひいてはオウエンスをはじめとするメジャーなコラボへ道を拓く転換点だった、とクラヴェリーは振り返る。

ザープリントの手法を発展させると同時に、これまで同様、「着られる」テクノロジーの境界を押し広げていくつもりだ。アーティストやミュージシャンからの特注も拡大したいし、ファッションブランドとのコラボも視野にある。「進化を続けて、自分自身にチャレンジしたい。今はその始まりに過ぎない」

  • 文: Alex Kessler
  • 写真: Kim Bulliman
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 5, 2025