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ディンギュン・ツァングの宇宙
YEEZYでのプロジェクトやMoncler Geniusとのコラボを経験した中国人デザイナーが、上海の拠点から新たなテクニカル ファッションと実用性、アート的独創と無限の展望を発信する
- 文: Alex Kessler
- 写真: Jedi Zhou / 周政

2016年、セントラル セント マーチンズ校で学んでいた21歳のディンギュン・ツァング(Dingyun Zhang)は、或るアーティストとのミーティングに出席するため、ロンドンからカリフォルニア州ロサンゼルスの高級住宅街カラバサスへ飛んだ。人生の新たな章の幕開けを告げたのは、カニエ・ウェスト(Kanye West)改めイェ(Ye)との出会いだ。「それからは、ドンダ アカデミーに通ってるようなもんだった」とツァングは回想する。「音楽、建築、スポーツ…イェはあらゆる分野のクリエイターに囲まれていた。ハードな経験だったけど、あのときに得た知識と洞察には計り知れない価値がある」。YEEZYではYEEZY 700 ウェーブランナー シリーズなどのプロジェクトに参加し、絶え間ない繰り返しを通じて、機能と形状を均衡させる技能を習得した。そして、スニーカーをきっかけに、YEEZYの他部門へ進出していった。






以来、ツァングが進む道のりは、常に独創性と精密な技術の融合を目指している。中国で生まれ育ったツァングを形作ったのは、伝統とVPNが必須になる前のデジタル世界だ。「当時は、インターネットから流れ込んでくる情報が無限のインスピレーションを促す時代だった」とツァングは説明する。「でも僕は、現実の環境からも影響を受けた。中国の伝統的なアートに触れたり美術館へ行ったりすることで、僕なりの視点を持つようになった」
子供時代のツァングは早くから玩具に興味を示した。特にアクションフィギュアのコスチュームやアクセサリーが大好きで、収集するだけでなく自作もした。「G.I. ジョーやスパイダーマンのフィギュアに着せる服を作ってたよ。一から服を作るやり方は、あの頃の経験から学んだんだ」。自分の手を使って好奇心を育むうち、ツァングの関心は自然にアートへと広がり、スケッチを描いたり色々なデザインを試すようになった。
熱烈なスニーカーファンだったが、デザインの扉を開いたのはコービー・ブライアント(Kobe Bryant)のモデルだ。「ブライアントは中国のキッズたちの憧れだった」し、ツァングもスニーカーのスケッチに多大な時間を費やした。もうひとつの大きな契機は、2011年に訪れた。ジェイ・Z(Jay-Z)とイェの『ウォッチ ザ スローン』ツアーだ。「ビジュアルもグッズもロールアウトも、全部が凄かった。あのツアーを観てから、どうすれば音楽を着るものに転換できるか、生きた体験へ拡張できるかを考えるようになった」
ハイスクールを卒業したツァングは、英国へ留学する。最初はサマセットの美術大学へ入学したが、その後セントラル セント マーチンズ校のファッションデザインへ進路を変えた。「僕はあちこちへ注意が飛ぶ性格だったから、集中できる新しい環境が必要だった」。そんなツァングを変容させる力が、ロンドンのサブカルチャーとアート界の混沌にはあった。「ロンドンはワイルドな街だ。無限のインスピレーションを求める欲求がある限り、無限に欲求を満たしてくれる」。マーチンズ校でツァングのビジョンは純度を高め、美術を学んだ経歴とファッションに求められる機能性、技術力が結びついた。「僕が作るのは着る建築だ」とツァングは言う。「素材から動きまで、あらゆる要素を考慮している」





ツァングの視線はファッションにとどまらない。ヘンリー・ムーア(Henry Moore)、デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)、ジョージア・オキーフ(Georgia O’Keeffe)、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)、アニメ、ラップなど、様々なアートからの影響をとりいれて、確かな実用性と調和させる。ファッション業界から高く評価された卒業コレクションは、ジャッキー・ニッカーソン(Jackie Nickerson)による農夫の写真に触発されたもので、農作業に内在する尊厳と機能性が強く表現されていた。「要は、機能的なものを深い味わいを備えたものへ変える作業だ」とツァングは言う。実用的なデザインに根差した理念は、消防夫の上衣やイヌイットのアノラックのリメイクを含め、創作全般に浸透している。「どうすれば実用的なものを時を超越したものに変えられるか?」
2020年にマーチンズ校を卒業したツァングは上海でスタジオを立ち上げ、自らのビジョンを独自のブランドとして発信し始めた。多様な関連性を斬新なデザインへ転換する能力は時を経ずして大手ブランドに注目され、Moncler Genius、Marni、adidas、その他多数とのコラボへと発展した。「ブレイク」したのである。だがツァングの考えるコラボとは、自らの理念を損なうことなく、共通の土台を模索する活動だ。「先ず最初に、しっかりした基盤とアイデンティティを作ることに専念する。そうすれば、コラボを提案した相手がこちらの世界へ入ってくることになる。こちらが相手の言いなりになる必要がない」とツァングは説明する。「これまでパワフルなブランドとコラボできて、ラッキーだと思う。ところどころ折り合いをつけることはあっても、さほど妥協を強いられることもなく、僕らのアイデアを活かせているから」
環境意識はツァングの創作の要であり、取組みはあくまで実践重視だ。ツァングは「絶え間ない改良」と表現する。「代替ファブリックを使用したフェイクレザーから生分解性フォームを用いたシューズの実験まで、常時進行形。まだまだ学ぶことは沢山あるけど、知識を実際に応用することに全力を注いでいる」。そんな価値観は、中国と英国の両方を体験したおかげだとツァングは言う。「中国は勤勉と細部への配慮を教えてくれたし、英国は境界への挑戦を後押ししてくれた。東洋と西洋の出会いは伝統と革新の融合だ」
今後の展望は、ファッションを越えてはるか遠くまで広がる。「他の道も試してみたいね。家具とか建築、園芸にも関心がある。デザインは多くの分野と関わることができる。ファッションから何を学んで、ファッション以外の創造に活かせるか? 可能性は無限だ」
新進デザイナーへのアドバイスも現実的だ。「最初に大手ブランド、その後小規模なブランドで仕事をしてみるといい。それぞれの体制と運営を知っておけば、自分のブランドを作るときの参考になる」。YEEZYをはじめとするブランドでの経験を振り返って、ツァングは貴重な指針を与えてくれた。「学び、学んだことを捨て、新たに学び直す。このサイクルが永遠に続く。物事は常に変化しながら進んでいくから、柔軟でなくてはいけない。ブルース・リー(Bruce Lee)も言ったように、『水になれ』」
- 文: Alex Kessler
- 写真: Jedi Zhou / 周政
- プロダクション: Yve Xu / 许婧怡
- モデル: Han Liu / 张腾, Teng Zhang / 张腾, Yufei Yan / 颜雨菲 / Sparkling Talents
- ライン制作: Yu (YooYu) / 小鱼
- 写真アシスタント: Haoqi / 钟浩
- スタイリング アシスタント: Yi Chen / 谌易
- 協力: Crowne Plaza Shanghai Snow World
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: January 8, 2025

