爆笑するミナ・カイムズ
女性スポーツ ライター兼アナリストの仕事の流儀
- インタビュー: Emma Carmichael
- 写真: Caroline Tompkins

YouTubeの検索ボックスに「Mina Kimes(ミナ・カイムズ)」と入力すると、「Mina Kimes laugh(ミナ・カイムズが爆笑する)」動画がトップに出てくる。どこの誰だか知らないが、ファンがわざわざ編集した「5分間ミナ・カイムズが笑い続ける」だけの動画を、さほど期待もしないでクリックしたのは数年前。だが事実、ESPN局シニア ライター兼NFLアナリストが笑い始めると、つられてこっちまで楽しくなった。何かが可笑しいともう我慢できないらしく、高い声がスタッカートで吐き出されて、仕事のはずの「喋り」が中断される。
「息継ぎしないで楽器を演奏できる循環呼吸があるでしょ。あれと同じね」とカイムズは教えてくれた。5月中旬の夕刻、場所は彼女が夫と愛犬のレニーと暮らすロサンゼルス。「笑い出すと止まらなくなるの」。それがしょっちゅうなものだから、ESPNのトーク番組『Highly Questionable』が放映中に「ミナが笑う」のをウェブカムで流したところ、サウンドを携帯の着信音にした人がひとりならずいたらしい。カイムズは、事もなげに肩をすくめて言う。「みんな、変な笑い方が好きなんじゃないかな。カワイ・レナード(Kawhi Leonard)だって、そうじゃない? カワイの笑い方もすごく人気があるもの」
だが女性のスポーツ ライターの笑い声を喜ぶインターネット住民がいるということは、性的な関心が向けられているということでもあるだろう。カイムズも十二分に承知していることだが、スポーツについて書き語る職業の女性が注目を浴びるとき、仕事以外の要素が関わってくるものだ。女としていやらしい目で見られているか、さもなければ、上から目線で見下される可能性が高い。上から目線でなければ、おそらく、さも寛大に「一応聴くことは聴いてやった」と自己満足されるのがオチだ。
現在35歳のカイムズは、そういう好奇心や疑ぐり深い詮索に慣れている。1週間におよそ5時間はテレビに出演し、数十万人ものESPN視聴者に向けてフットボールの複雑な解説を提供し、熱烈なスポーツ愛を演じる。10年より少し前、『Fortune』誌と『Bloomberg』誌に記事を書くビジネス専門の調査記者だったカイムズは、スポーツ ジャーナリズムやテレビ出演など考えてもいなかった。だが2014年、シアトル・シーホークスと彼女と父の関係を書いた私的なエッセイをTumblrのアカウントに掲載すると、それがバイラルになった。間もなく『ESPN The Magazine』のコラムニストおよびレポーターとして雇われ、キャリアは思いもかけない方向へ進み始めた。国内でも有数のNFLアナリストとしてテレビに登場するようになった現在は、すっかり有名人だ。「スポーツ バーに集まる18歳から49歳までの男性のあいだで、ってことだけど」と、いつもながらの自虐的な口調でカイムズは言う。
彼女によると、スポーツのコメンテーターには臨機応変な「解説の技術」が必要だ。放映の場合は、お決まりの言い方や表現がある。例えば、「ナショナル フットボール リーグは雇用に関する不平等という問題を抱えています」という口上や、「ターンオーバー後のフィリップ・リバース(Philip Rivers)が口をへの字にまげた顔を見れば、試合の結果もおのずと明らかですね」というものだ。だが女性のスポーツ パーソナリティは、毎日爆弾が仕掛けられるインターネットの地雷原と押し寄せる難癖男軍団も上手く避けて進まなくてはならない。カイムズにはそうできるだけの類まれな敏捷性がある。今の仕事で成功している理由のひとつは、しばしば放映中に大笑いするほど、純粋にスポーツを愛しているからだし、しかもただ好きなだけではないからだ。それは契約としてテレビに出演しているときに限らない。2014年の1月の下旬、カイムズはブルックリンのバーで「荒れ狂っていた」。愛するシーホークスとサンフランシスコ・フォーティナイナーズがNFC優勝決定戦を争っていたが、シーホークスは、出だしからあまり良くなかった。クォーターバックのラッセル・ウィルソン(Russell Wilson)が最初のプレーでストリップ サックを決められたときは、2〜3杯呷って気を静めた。その後試合は23対17でシアトルがリードして、残り30秒。シーホークスの18ヤード ラインから、フォーティナイナーズのクォーターバック、コリン・キャパニック(Colin Kaepernick)がパスを投げる。
その後の展開は「決着の瞬間」あるいは「完璧なディフレクト」と呼ばれ、スポーツ史に刻まれた名場面、その瞬間自分がどこにいたかを誰もがはっきりと覚えているような名プレーだ。キャパニックがエンドゾーンの右コーナーにいるワイド レシーバーのマイケル・クラブツリー(Michael Crabtree)に向けたパスを、シーホークスのコーナーバック、リチャード・シャーマン(Richard Sherman)が宙に飛び上がって体を回転させ、ディフレクトしたのだ。闇雲に味方チームのほうへ向きを変えさせたボールを見事ラインバッカ―のマルコム・スミス(Malcolm Smith)がキャッチ、インターセプトでシーホークスの勝利が決まった。シーホークスのホーム スタジアムが沸き立つ中、数杯以上の祝杯をあげたカイムズは、気がつくとカウンターの上に立って歓声をあげていた。バーテンダーは言葉を尽くして彼女を床へ下ろさなくてはならなかった。「スポーツってすごく楽しいと思うの」とカイムズは言う。「どうすればそのことを仕事でたっぷり伝えられるかな、って考えてる」

私がカイムズと話したのは、ふたり共コロナ ワクチンを接種したばかりで、再び公共の場でスポーツを楽しめる世界が戻ろうとする頃だった。4月の末には、ESPNの『NFL Live』の共同司会者としてクリーブランドで行なわれた2021年ドラフトを実況中継し、数週間後には隔離解除後初の野球試合へ出席した。ESPNの『Highly Questionable』と『Around The Horn』には毎週出演し、NFLシーズンに向けて準備を進めている。一方で、ロサンゼルス・ラムズのプレシーズン ゲームのカラー コメンテーターと『NFL Live』のアナリストを務め、週毎の『The Mina Kimes Show Featuring Lenny(レニーが出演するミナ・カイムズ・ショー)』を録音する。レニーは保護施設から引き取った10歳になる愛犬で、「注目の的になる素質があるスター」だそうだ。
彼女自身、キャリアの展開に驚いているようだが、なるべくしてなった自然の流れだろう。人の話をよく聴くし、気さくな話上手だし、テレビ向けにラボで作ったようなヘアに生まれついている。カメラに映っていないときのカイムズは、素の陽気な皮肉屋に戻る。生まれつきユーモラスな性格で、真面目になることにほとんどアレルギー体質だ。1日中話し続ける仕事だが、テレビの仕事は「視聴者向けの対話」だから、「他愛ないお喋り」を恋しがる。インタビューのあいだ、私たちは仕事に許される範囲でその「他愛ないお喋り」を挟んだが、カイムズは時々カメラの前で可愛らしいヘマをするし、「ファック」の変異形を29回口にした。
テレビ映りに関するその他諸々は、簡単だった。「脳のスイッチを切り替えて、パワーアップ バージョンの自分になるのよ。どんな感情も10から11のレベルへ上げる」と、カイムズは説明する。「やり方は、必要に迫られて学んだわ。ヘアとメイクの人たちがいて、外見もパワーアップしてくれるから助かる」と笑う。
アメリカ人の父は空軍の軍人で、ソウルに駐屯中、韓国人の母と出会った。基地育ちのせいでカイムズには方言や訛りがほとんどない。ちなみに、たまにカナダ人に間違えられることはある。最近は、HBO局の『メア オブ イーストタウン』に熱中するあまり、舞台になっているペンシルベニア州デラウェア郡のアクセントに染まりつつある。ネブラスカ州で生まれた後、5つの州で暮らし、イェール大学へ入学。最優秀の成績で英語の学位を取得して2007年に卒業したものの、折り悪く不況の真っ只中。『Fortune』の駆け出しレポーターとして、企業報道に放り込まれた。リーマン ブラザーズが経営破綻した2008年のあの日、疲れ果てた銀行マンたちをインタビューしようと、7th アベニューにあるビルの外で待ち受けたことを覚えている。
カイムズは父とスポーツ観戦をしながら育ち、シアトル出身の父のおかげで、フットボールならシーホークス、野球ならマリナーズに声援を送り続ける忠実なファンになった。高校時代を通じてサッカーをやったが、青春時代のスポーツ愛は鳴りを潜めていた。私たちの世代には、年頃の女の子がスポーツ ファンだったら、男の子たちに混じれる「イケてる子」を演じるか、スポーツ好きを自認しても平気なほど自分に自信があるかの2択だった。難題だ。「スポーツ好きな女の子のハイスクール時代って、どんなだかわかる?」と、カイムズはかつてを思い返す。「もうボーイフレンドは持てないし、自分が大切にしてることはさほど価値もない、かっこよくもないって言われて、突如、それまで気にもかけなかったことを大事にしなきゃいけなくなるのよ」
多くの女性たちが、自分の好きなようにスポーツ愛を発揮できるもっと遅い年齢にスポーツ ファンの世界へ入っていくのは、おそらくそのせいだろう。休眠していたファン精神が20代になって目覚めたカイムズも、例外ではない。2011年にブルックリンのグリーンポイントにあるバーで友人たちとシーホークスの試合を観戦するようになり、スポーツ ライターのダニー・ケリー(Danny Kelly)から熱狂的なファンの60代の未亡人まで、Twitterで多種多様なファン仲間の存在を知った。そして、悪戯っぽく笑いながら言うには「誰の目にもつかないように祈りながら」掲示板へ投稿し、ゲームの分析を読み、試合のテープを観るようになった。

シーホークスのファンにとっては、特に胸躍る時期だった。2010年にカレッジ フットボールの名コーチとして鳴らしたピート・キャロル(Pete Carroll)がヘッド コーチに任命され、「リージョン オブ ブーム」と呼ばれた鉄壁の守備陣とクォーターバックのウィルソンの威力で、2013年、2014年、と2シーズン連続でスーパーボウルへ進出した。見事優勝を果たした2013年に、カイムズは腕の内側へ「XLVIII」の記念タトゥーを入れた。若くして試合を理解したのは、調査報道の経歴に負うところが大きい。「貪欲にあらゆることを吸収したわ。わからないことがあったら、わかるまで教えてもらった」
一見、アメリカン フットボールは野蛮で単純なゲームに思えるかもしれない。ボールを抱えて、頭部へ衝撃を受けないようにしながら、エンドゾーンまで運ぶ。その繰り返しだ。だが本当は、あらゆるチーム スポーツのなかで、もっとも複雑な戦略を弄するゲームであることはほぼ間違いない。10年近い経験を積んだカイムズは、リーグに精通したベテランとして、統計とゲーム戦略に関する洞察が高く評価されている。物覚えの良さと豊富な雑学は、分析作業に要求される知識の詰め込みにおいて物を言う。なにせ『New York Times』土曜版のクロスワードはいつも10分以下で完成させるし、去年、友達のデイヴィッド・チャン(David Chang)がクイズ番組『Who Wants To Be A Millionaire(百万長者になりたい人)』に挑戦したときは、相談に乗れるお助け友達として、見事100万ドルの賞金獲得に手を貸した。昔取った杵柄だと、カイムズは言う。イェール時代、彼女が作る「参考書」には定評があり、裏をかくか借用するかで、同じグループの友人たちは躍起だったそうだ。
フットボールの熱烈ファンとしてスポーツ記事のキャリアに足を踏み入れたカイムズだが、ポッドキャストやESPNのラジオ番組に出演するようになると、興味は分析へ移行した。ウィルソン、キャパニック、ロバート・グリフィン3世(Robert Griffin III)といったクォーターバックがオプション攻撃をプレーした2012年頃には、違う視点から試合を観るようになった。
「レシーブからランへ移る動きをクォーターバックがやりにくくするってアイデアは、いつも気に入ってたんだけど」と、当時の閃きを分析するカイムズは一気に表情が輝く。「試合を観てるうちに、オプション次第で攻撃側の数学が変わることに気がついたの。すると、守備がすごく難しくなるのよ。キャパニックがどのオプションを取るかで、ラインバッカーが『クソッ』って思ってるのが目に見えるみたい。要するに、数学と混乱と見当狂いが基本的な考え方だから、そういう視点から見るとゲームのスピードに惑わされなくなる。オプションを理解できたら、フットボールという試合そのものが多少わかるようになるわ」
カイムズはまた、スポーツ解説でお決まりの小綺麗な解説を押し返すことでも、一線を画している。NBAの2018年シーズン中、デリック・ローズ(Derrick Rose)が自己最高の50得点を挙げた際、ミネソタ・ティンバーウルフズのブロードキャスター、ジム・ピーターセン(Jim Petersen)は集団レイプ裁判で無罪になったローズの罪滅ぼしという筋書きに仕立てようとした。カイムズのツイートは「十分な知識もなく、こういうことを話す必要はないわ。第一、せっかくのカムバックに持ち出す話じゃない」
このように生来の衝動から発言する独自の見解は、NFLおよびその他プロ スポーツ一般が移行期にある現在、大きな威力を発揮する。キャパニックは警察の暴力行為に対して片膝をついて抗議したために、フォーティナイナーズをスーパーボウルへ進出させた立役者であったにもかかわらず、わずか数年後の2017年にフリーエージェントになり、事実上リーグから追放されてしまった。ところが去年の夏、警察によるジョージ・フロイド(George Floyd)殺害をきっかけに世界中で抗議運動が勃発すると、NFLはいくつかの臆病な「社会正義への取り組み」の一環として、チームのエンドゾーン沿いに「end racism(人種差別を終わらせよう)」や「it takes all of us(力を合わせて)」のスローガンをステンシル印刷し、遅ればせの関心を見せる方向へ急転換した。
カイムズは報道するリーグに対して常に批判的だ。おそらく、アウトサイダーという背景によって一層強められた傾向だろう。去年の夏はマーカス・スピアーズ(Marcus Spears)やライアン・クラーク(Ryan Clark)など、黒人の同僚たちと並んで、政治と文化の動きに追いつこうと躍起になっているリーグについて報道した。選手の約70%は黒人であるにもかかわらず、黒人ヘッド コーチはわずか3名というNFLリーグの雇用不平等に関しては、特に強く発言している。「今年の夏を覚えておこう。どのチームも『構造的人種差別』を非難したけど、『構造的人種差別』の意味は明確にされなかったことを」。1月のツイートは「さあ、管理職やオーナーとは似てもにつかない労働者によるリーグのプレーオフが始まる」

アトランタのマッサージ店で6人のアジア系女性を含む8人が銃撃され死亡した翌日の3月17日、カイムズは通常通り『Around the Horn』に出演した。「すごく嫌な気分で、仕事に行きたくなかった」ことを覚えている。当日の朝、スピアーズが電話をくれて、何か手助けできることはないかと尋ねてくれた。「私たちは一緒に楽しむ間柄だけど、差別や不平等についても話すから」とカイムズは言う。『Around the Horn』の終わりで、カイムズが銃撃に触れた言葉は、簡潔だが感動的だった。「みなさんの声には大きな意味があります。こういう事件が起こっている、と認めることには意味があります。特に今、私のコミュニティでもあるアジア系コミュニティを支援することには、大きな意味があります」
私たちが話した週、カイムズは韓国系アメリカ人の団体とespnWサミットの両方に、パネリストとして参加した。オンライン会議に出席する自宅のスタジオには、背後に韓国国旗が見える。アトランタの銃撃事件に続いて憎悪犯罪が多発する中、彼女を差別的に罵る発言が目立って増加したという。「今、女性憎悪は90%ね。前は99%が女性憎悪だったけど、今は人種差別が10%に増えたから」と、肩をすくめて嫌がらせを受け流すことに慣れ切った女性の、うんざりした笑みを浮かべる。
Twitterには50万人を超えるフォロワーがいるが、言葉の暴力やその他の不快な発言でブロックしたりミュートしたアカウントの数は、数千に上る。「長いあいだ、私をNFLのアナリストと認める人は誰もいなかった。初めてフットボールの話をするようになったときも、テレビで要求されたのは女性的なトピックばっかり。ちょっと待ってよ、ボルチモア・レイブンズのオフェンスについて言いたいことが山ほどあるんだけど、って感じだったわ」。そして、さまざまなことを遮断する術を学んだ。「よく考えて、私の目に入るもの、脳に入れるものを選ぶ必要がある」
以前は「頭に来てたわよ。引退したスポーツ選手なんかと一緒に出演するでしょ。あの人たちがどんなに間違えたことを言っても全然問題にされないのに、私がちょっと間違えただけでこてんぱんだもの」。今は笑い話にできる。「みんな、私を観るのに慣れたのよ。だから、平等になったわけ。みんなで平等に間違える」。だが、フットボールという複雑なゲームはまだまだ奥が深いし、決して終わりはない気がしている。「私、ドジを踏むことにすごく神経質なの」とカイムズは打ち明ける。「多分、アジア系で女でスポーツ報道という立場の重荷もあるだろうけど、生まれつきの性格もある。核科学者だったとしても、失敗しないか気を揉んだだろうし、その方がもっと危険よね」
この夏とプレシーズンは、勉強して、同僚と一緒に試合のテープを観て、ブロックの仕組みを解説してもらうつもりだ。「前だったら、わかってないんだと思われるのが嫌で、とても質問できなかったと思う」とカイムズは言う。「だけど、わからないことは尋ねないと学べない。慣れると、何十万人もの前で堂々と自分の意見を言えるようになるんだから、我ながら驚くわ」
Emma Carmichaelはロサンゼルス在住のライター
- インタビュー: Emma Carmichael
- 写真: Caroline Tompkins
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: June 30, 2021

