マイハラ・ヘロルドの
ショー ビジネス必勝法

『Industry』シリーズでブレークした
シアター キッズの快進撃は続く

  • インタビュー: Aaron Edwards
  • 写真: Aijani Payne

HBO局から放映される『Industry』は、なんとコカインまで舞い散る職場ドラマ。リモートワークが終わっても、絶対に職場へ復帰しないほうが賢明だと決断させてくれる。登場する銀行員やPierpoint & Co.社のトレーダーたちは、罵り、セックスし、コカインを嗅ぎ、マリワナを吸い、裏切るのだから、人事管理としてはまさに不祥事のレベルだ。26歳の新人マイハラ・ヘロルド(Myha’la Herrold)は、ロンドンで働くアメリカ人、ハーパー・スターンを演じている。冷酷非情な業界の混沌とした職場の真っ只中で、何が何でも有能であることを立証しなくてはならないハーパーは、入社時の研修ビデオを最後まで観たことなど一度もないに違いない。そんなことより、もっとほかにやるべきことがある。

ハーパーは、ふたりの子供が二段重ねになってトレンチコートを羽織り、袖にナイフを隠し持っているみたいだ。常に身構えて冷淡だが、必要とあればチャーミングになれる。さらに必要とあれば、チャーミングから反社会的人格に変身する。『Industry』にキャスティングされるまで、ヘロルドはカーネギー メロン大学で受けた教育にふさわしいキャリアを辿り始めていた。生の舞台だ。故郷のカリフォルニア州サンノゼで過ごしたハイスクール時代には、優れた才能を高く評価され、ジミー賞候補にもなった。これは全米ハイスクールのミュージカル出演者を対象とする賞で、アメリカ演劇界でもっとも権威あるトニー賞のハイスクール版に相当する。ミュージカル コメディ『ブック オブ モルモン』の全米ツアーに出演した経歴もあった。だがテレビ番組の役がやって来たとき、ヘロルドは、ブロードウェイで1週間に8回の公演を目指した将来の展望をひとまず保留した。そしてブレークした。

8月には『Industry』のシーズン2が始まる。インディペンデント系エンターテインメント企業A24から近日公開予定のホラー コメディ『Bodies Bodies Bodies』にも出演する。ルマーン・アラム(Rumaan Alam)の小説『世界を後にする』を基にNetflixが制作中の映画では、ジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)やマハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)と共演する。ヘロルドは物怖じせず、スポンジのように吸収していく。刺激されるストーリーがあれば舞台に戻るつもりだが、あくまで、学び、広がり、自分が表現できる別の面を見せるチャンスでなくてはならない。

ヘロルドがコロナに感染したせいで、僕たちはオンラインで顔を合わせた。ロング アイランドのホテルで隔離生活を送っている彼女は、順調に回復中。暇つぶしにヴォーギングのリアリティ コンテスト『Legendary』を観ているというから、僕は審査員のレイオミー・マルドナド(Leiomy Maldonado)の物まねを披露した。Zoomルームに舞台演劇キッズがふたり集まると、そういうことになる。

Myha’la Herrold 着用アイテム:スイムウェア(Isa Boulder)ミニドレス(Isa Boulder) 冒頭の画像のアイテム:トップス(Rick Owens)スカート(Miaou)

アーロン・エドワーズ(Aaron Edwards)

マイハラ・ヘロルド(Myha’la Herrold)

アーロン・エドワーズ:君の具合が悪いと聞いて、「それじゃ寝てなきゃダメよ」と思ったんだ。まるきり、世話焼きのおばさん!

マイハラ・ヘロルド:ほとんどひとりっきりだから、話し相手は歓迎よ。

最初からこの話題を持ち出すのは本当に申し訳ないんだけど、YouTubeにアリシア・キーズ(Alicia Keys)の「Girl on Fire」を歌った動画が出てるよね。

ああ(笑)、あれね。出して終わり、ってなればよかったんだけど、なんかもうYouTubeの色んなチャンネルでタグ付けされてるの。今は見られないけど、ハイスクール時代の古いメールまで引っ張り出されちゃって。インターネットに上がってる諸々は私の責任だから、どうしようもないね。14歳の頃の私はああだったってこと。

僕があの動画を持ち出したのは、撮影が2013年、ハイスクールからカーネギー メロン大学へ進学する頃だからなんだ。当時のマイハラはどんな10代を思い描いてた?

ミュージカルの舞台に立ちたいことだけは、ずっとわかってた。歌いたい、舞台に立ちたい、絶対そうする、って心に決めてた。同じことを考えてる人がいっぱいいるなんて、思いもかけなかったわ。気違いじみた競争があるのも、全然知らなかった。だから、ほとんど怖いもの知らずでスタートしたのよ。『Industry』に出演して初めて、ちょっとこれは予想してたスピードと違うな、って。学校時代は「後ろの席に引っ込んでいては、あなたの姿も見えないし、声も聞こえませんよ」ってしょっちゅう注意されたもんだけど、当時は、私は空想の世界にいるんだからそれでいい!と思ってた。

答えは聞かなくてもわってる気がするけど、自分のことを俗にいう「シアター キッズ」だと思ってた?

もちろん。ずっとずっと最初から、舞台が大好きだったもの。他には考えられない、舞台しかない。根っから、舞台に立ちたいシアター キッズだし、またいつか舞台の世界に戻りたいわ。もしいつか…

最後まで言っちゃいなよ。

…いつかブロードウェイをやれたら、夢が叶う。ずっと想像して、願って、実現させるつもりでいたから。

Myha’la Herrold 着用アイテム:スイムウェア(Isa Boulder)ミニドレス(Isa Boulder) 

Myha’la Herrold 着用アイテム:カーディガン(Jacquemus)

カーネギー メロンの入学試験では、何を歌ったの?

うわ! 聴きたい?

ぜひ。

「I’m a Star」って歌で、YouTubeにナタリー・ワイス(Natalie Weiss)のカバーがある。えっと、覚えてる部分は (歌い始める)「Wake up and see…」

ああ!

(歌い続ける)「I'm a star!」

ミュージカル ドラマの『Smash』で、ライターたちが毎回のクライマックスを書くときに参考にしたような曲だ。

ほんと、そう。最後はどんどん音階が上がっていって、声の限りに歌い上げるの。私のキメ歌。

カーネギー メロンのような学校で舞台を勉強すると、すごく色んな側面を教えられるよね。でも僕は、教えられたけど君が拒否したことに興味がある。演技者になるための勉強、舞台に備えた訓練で、自分には合わないと思ったものはある?

ドラマのコースの黒人学生は、月に1回、全員が集まってファミリー ディナーをするの。食料を持ち寄って、料理して食べて、お互いに同情しあって、踊って楽しむ。そこでよく話題になったのは、演技と舞台に関する伝統的な指導は私たちにそぐわないってことだった。黒人を念頭に入れずに作られた指導法だからよ。キャラクターじゃなくて演技者そのものがアートのために深く苦悩していなきゃダメだ、みたいな感じの要素にはまったく頷けなかった。教授を喜ばせるために、自分の肉体に余計な苦痛を与える気なんかないわよ。私、十分休息をとって、ちゃんと食べて、ハッピーでいるほうがいい。

ジミー賞のときの体験を話してくれる?

あれはすごくエキサイティングだった。私のコーチはレスリー・オドム・ジュニア(Leslie Odom Jr.)でね、グループのメンバー全員が集まったとき、最初にそれぞれがコンテスト用に選んだ歌を歌うの。確か、私はいちばん最後だったと思うけど、他の人たちの歌を聞いた途端、それまでにないインポスター症候群が湧きおこった。本当は評価されるほどの実力がないのがばれるんじゃないかと思って、歌うのがすごく怖くなった。めちゃくちゃ動揺して、歌わなくてすむようにレスリーに頼んだくらい。そしたら、いいから歌ってごらん、大丈夫だから、君がここにいるのはちゃんとした理由があるんだ、歌うんだって励まされて…。故郷のサンノゼにいる頃は小さな池の大きな魚のつもりだったけど、ニューヨークじゃ、ものすごく大きな魚がいるものすごく大きな池のちっぽけな魚の気分。だけど、レスリーの言葉を聞いたあの時から、何があろうと私はいるべき場所にいる、れっきとした理由からその場所にいる、と信じるようになった。

そのとき歌ったのは?

『The Wiz』の「Home」。ずっと涙が止まらなかった。「Home」にしても、さっきの「I'm a Star」にしても、ちゃんと意味がわかってたとは思わない。でも、当時私が体験していたこと、どこから来てどこへ行こうとしているか、それにぴったりだったから。

すごく陳腐な言い方だけど、その歌が君の心の居場所だったんだよ! ところで、いちばん自分らしくいられる舞台からテレビへ移ったとき、最高の演技をするためのアプローチは? どこを変えてる?

正直に言うと、いちばん大きいのは、それまでに学んだことをほぼ全部捨ててしまうことだった。学校で勉強したのは、動きや声を大きくして劇場内のすべての観客に届かせること、同時にストーリーを誠実に表現すること、そしてその演技を反復すること。テレビでは、そういうテクニックの部分はさっぱり切り捨てていいと思ったし、そうした途端、もっと自然になって、最終的にはもっとやりやすくなった。感じればいいのよ。私も陳腐な言い方になるけど、感じれば、それが表情に現れる。

今日は、僕たちふたりともありふれたことを言ってるけど、いいよね。

私はすごく平凡だもの。コーンチーズでハッピーな人。だからいいのよ。

僕がハッピーになるのは、オックステールとプランテン バナナ。

(笑)いいじゃない!

Myha’la Herrold 着用アイテム:ドレス(Jacquemus)

ハーパーというキャラクターは、どういうふうにつかんだの? どこから閃いた?

白状すると、面接シーンのセリフを初めて読んだときは、職場にいるタフで攻撃的なキャラクターのつもりでやったの。ところが、次に台本を渡されて2回目の読み合わせをしたら、ほかのキャラクターたちの話がまるで理解できない、まったく見当もつかない。それでハーパーが置かれている状況が理解できたわ。大人の世界へ投げ込まれて、ひとりぼっちで、キャリアを築く最初の仕事を手に入れようと必死なの。自分の値打ちを証明しなきゃいけない、うまく仕事を手に入れたらしっかり握りしめてなきゃいけない。当時の私の人生そのまま。私自身、子供なのに大人の服を着せられて、大人のふりをしなさいって言われてる気分だったもの。だから自分の立場を金融の世界へ置き換えることができた。
私は多分に「できるふりをしながら、本当にできるようになる」タイプなの。絶対に冷汗を気づかせないタイプ。母さんもしょっちゅうそう言ってた。冷汗をかいて、胸で心臓がバクバクしてても、涼しい顔で部屋に入っていく。ハーパーも同じだったと思うの。すごく不安で、見透かされるのを恐がってる。銀行の世界へ足を踏み入れた黒人女性が内心の不安を悟らせるなんて絶対ありえないから、圧倒的な自信を装うはずだわ。

今の君は色々なところで紹介される恵まれた立場だけど、いちばんやりたいことは?

恋する人をやってみたい。私は論理的で実際的で仕事第一の厳格な面もあるけど、それと同じくらいロマンチックな面もあるの。私の人生を導くのは愛よ。これまでは両性的な役や男性エネルギーの強い支配的な役ばかりだったから、多少は、女性らしい面を出してもいいんじゃないかな。

現在、目標やお手本にしてる俳優は?

マーク・ラファロ(Mark Ruffalo)みたいなキャリアを築きたいわ。ここのところ一緒に仕事をしてるジュリア・ロバーツも素晴らしい経歴の持ち主よね。あの人たちが演じる幅の広さには敬服する! ミュージカル映画とか、やりたいことはいっぱい!

シアター キッズとしては、自分だけのユニークなキャリア、自分独自の将来を目指すよね。君も「マイハラ・ヘロルドだけのキャリアを築きたい」と言ってるように聞こえる。

自分のやり方でね。いかにも牡羊座だけど、そのとおりよ。

Aaron Edwardsは、直近では『The Atlantic』に記事を執筆。また『Desus & Mero』のライターHeben Nigatuのライブ ステージ ショー『Heben Only Knows』の共同執筆と監督を手掛けた。ニューヨーク州北部在住

  • インタビュー: Aaron Edwards
  • 写真: Aijani Payne
  • スタイリング: Ian McRae / Born Artists
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 1, 2022