マイケル3世式 殺人ミステリー

失踪した億万長者、
7人のそっくりな関係者、そして
フィフティ シェイズ オブ グリーン

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III

まさか探偵が真っ先に死ぬことになろうとは誰ひとり思っていなかったが、おかげで夜がスリル満点になったという点では、全員が同意見だった。残る6人の関係者は順番に、恐怖に喘ぎ、金切り声で助けを求め、気絶するのに丁度いいソファを探したりして、無実を演じた。灯りが消え、燭台が倒れた。全員がそれを見たのではなかったか? あるいは見なかったのか?

死ぬ直前、探偵は事実を挙げていた。すなわち、7人の関係者は「緑色のつぼみ」の謎を解くために、行方不明になった億万長者が所有するかつての要塞に招待された。「緑色のつぼみ」とは何なのか、どこで見つかるのか、誰にも皆目わからなかった。謎を解いた者にはマイケル3世の全財産が与えられるが、チームワークを阻む規定はなかった。「そこで」と探偵は言った。「一緒に謎解きをしようではないか」。そしてその瞬間、彼は殺されたのだ。

死の最初の恐怖が薄らぐと、招待客の残る6人は考えた。どうして彼は普通にできないのか? だが結局のところ、マイケル3世は普通の億万長者ではなかった。セルフプロデュース ブームで財を成し、間もなく姿を消した。世捨て人の動向が不明になるのは格別珍しくないから、最初は誰も気づかなかった。友人の大半は、予告なしにソーシャルメディ活動の長い「お休み」に突入したんだろうと思った。その他の人たちは、いなくなっても誰も気にしないことがわかったら、戻って来るだろうと考えた。

Michael 着用アイテム:タートルネック(Courrèges)ベスト(Rick Owens)サングラス(FLATLIST EYEWEAR)リング(Tom Wood)。画像のアイテム:キャンドル ホルダー(Karakter)フラワーベース(Steph Woods)インラインスケート(THEM SKATES)ギフトセット(Modern Sprout)ワイン ゴブレット(Adam Ross Ceramics)ノート(Smythson)ネックレス(Givenchy).(左から)Michael 着用アイテム:タートルネック(Collina Strada)シャツ(Jan-Jan Van Essche)トラウザーズ(LU'U DAN)サンダル(Saint Laurent)ハット(Issey Miyake)サングラス(Marni)。Michael 着用アイテム:シャツ(Factor's)トラウザーズ(HARAGO)ローファー(Bottega Veneta)サングラス(Bottega Veneta)。Michael 着用アイテム:タートルネック(Botter)トラウザーズ(HELIOT EMIL)スニーカー(Balenciaga)スカーフ(Paco Rabanne )ブレスレット(Bottega Veneta)。Michael 着用アイテム:タートルネック(Courrèges)ベスト(Rick Owens)パンツ(M.A. Martin Asbjørn)ブーツ(Marsèll)サングラス(FLATLIST EYEWEAR)。Michael 着用アイテム:スウェットシャツ(Sulvam)ショーツ(sacai)ブーツ(Bottega Veneta)ハット(Needles)。Michael 着用アイテム:タートルネック(Ann Demeulemeester)コート(Marc Jacobs Heaven)トラウザーズ(Marc Jacobs Heaven)ローファー(Maryam Nassir Zadeh)メガネ(Grey Ant)。Michael 着用アイテム:ポロ(THEBE MAGUGU)ジーンズ(Y/Project)ブーツ(Bottega Veneta)ベルト(Blumarine)グローブ(Lauren Perrin)ハット(Jacquemus)。冒頭の画像のアイテム:テーブル(GUSTAF WESTMAN OBJECTS)キャンドル ホルダー(Karakter)フラワーベース(Steph Woods)

マイケル3世のかつての要塞はずっと無人だったから、歪んだ枠につっかえた扉を開けるには、到着した7名の招待客全員の力が必要だった。電気は使えるようになっていたが、内部は気味悪いほど薄暗かった。強い雨が屋根に叩きつけ、木の梁はきしんだ。_10年も空き家にしておくのは長すぎたな。_誰かがマッチを擦った。探偵は、一瞬マイケル3世がこちらを見ているのが見えたと断言したが、それは招待客のひとりに過ぎなかった。シェフ、庭師、神秘家、セラピスト、船長、子爵を見分けるのは、容易なことではなかった。

マイケル3世の遺言状の中味を初めて知ったとき、子爵はマルガリータを吹き出しそうになった。すでにマイケル4世と改名したほどだから、「足袋ソックスおよび私のストリーミング アカウントのパスワード」という取り分は、期待していた遺産とかなり食い違っていた。他の者も同じく僅かな分け前に困惑していたが、ひと山当てて財産全部をものにするチャンスをみすみす諦める気はなかった。それどころか、もっと遺産を狙う気になった。

宵のディナーは楽しく進み、軽やかな会話に終始した。殺人や「緑色のつぼみ」を口にする者は、ひとりもいなかった。何も分からない状態で危険な話題を突きまわすより、先延ばしにしたほうが安全な気がしたからだ。

セラピストがシェフに尋ねた。「この緑色の小さいのは何?」

「ラディッシュです」とシェフは答えた。

「ラディッシュだって?」と、いかにも料理に興味がありそうなふりをして、子爵が問い返した。

種を手に入れた本人である庭師が、「ラディッシュだ」と繰り返した。

「なるほど…」。質問から仲間外れにされないために、子爵は続けた。「君がここで働いていたときも、マイケルの食事にこういうマイクログリーンをよく出してたのかい?」

「必ず」と、シェフ。

「マイケルはアブラナ科ならどれも好きだったから」と庭師が付け加えた。

「え?」と船長。

「アブラナ科。ルッコラとか、からし菜、クレソン、芽キャベツの仲間」と庭師が答えた。

「実に興味深い」と子爵。

実に興味深い、と全員が思った。

要塞がまだにぎわっていた頃は、庭師が広大な菜園の世話をしていた。植物の生育はマイケル3世を大いに喜ばせ、芽キャベツのちっぽけなつぼみがついただけで空気が著しく新鮮になる、と言っていたものだ。そのおかげで、庭師は終生の親友としての恩典を手に入れた。マイケル3世の部屋と隣り合ったスイートルーム、プライベート プールを使う権利、ディナーではマイケル3世の横の席。多少の諍いもあった。そしてマイケル3世は姿を消してしまった。

「後ろの菜園に、何かアブラナ科のものはないのかい?」と船長が尋ねた。

口がいっぱいだった庭師は、首を振り、皿に目を戻した。

ディナーの後、ラウンジで食後酒を2、3杯楽しんだシェフが言い放った。「『緑色のつぼみ』は船のような気がする」

「そうかな?」と船長。「そんな名前の船は見たことがないぞ」

「_私は水が大好き。今は地面から離れている。私は『緑色のつぼみ』。探さなくては見つからない。_謎々だな」とセラピストが言った。「船の可能性もある」

船長が挑戦的に繰り返す。「『緑色のつぼみ』なんて名前の船は、一度も見たことがない」

神秘家が初めて口を開いて、みんなを驚かせた。「『緑色のつぼみ』は、明らかに、『市民ケーン』に出てくる『バラのつぼみ』を指してるのさ。誰も思いつかなかったのかい? ソリだよ」

「ソリ?」と船長は笑い飛ばした。「マイケルはスポーツなんか、しなかった」

「ありふれた物、という意味で言ったんだ」と、神秘家は落ち着き払って答えた。「僕には感じられる」

「なるほど」と船長が同意した。そして目を閉じ、アマルフィの海岸に浮かぶ美しいヨットを想像した。船体にはミント色の筆記体で「緑色のつぼみ」と書かれている。彼はすぐさまその場を立ち去りたい衝動と戦った。

「マリワナは?」とシェフ。

「悪くないね」とセラピストが同意した。「思考が広がるかもしれない」

シェフは鼻にシワを寄せた。「そういう意味で言ったんじゃない」

セラピストはやり返した。「確実にわかっていることは何だ? 何を見逃してる?」

「ここで、私たちが全員そっくりだという非常に奇妙な点を考えてみるべきだろうか?」とシェフが尋ねた。

セラピストは肩をすくめた。「マイケル3世が『替え玉』に憑りつかれていたのは、周知の事実だ」。みんなが自分の発言に感心することを願ってセラピストは周りを見渡したが、反応は皆無だった。「実際、セラピーでそのことをよく話したんだよ。彼は、そっくりさんを用意して、自分のやりたくないことをやらせる傾向があった。君たちだって、全員、彼のためにそういうことをしたはずだ」

突如、セラピストは秘密を明かし過ぎたことを後悔した。はるかに口を慎んでいた探偵だって殺されたのだ。彼は続けた。「ただ、マイケルはよく嘘をついた…」。

喋り過ぎたろうか? マイケル3世は、子供の頃、ベッドに懐中電灯を持ち込んで遊んだものだ。部屋のあちこちに光を走らせた最後は、自分に向けて指や筋肉を照らした。セラピストは、今、自分も同じようなことをやった気がした。

その後でワインが注ぎ足され、船長とセラピストだけが飲み続けた。喉がチリチリして、変な味がする。意味もなく笑いがこみあげて、眩暈がする。もっと笑う。そして突然の死が訪れた。

「本当にマイケルは僕たちを殺そうとしてるんだろうか?」と庭師が尋ねた。

「ほかに誰がいる?」とシェフが聞き返す。

その彼を、神秘家が指差した。シェフは笑い流す。

「デキャンタにワインを注ぎ足したのは君だったな」と庭師。

「その前か後に、毒を盛ることもできたはずだ!」とシェフは言った。「私たちは全員、席を外した時間があるからな」。そして子爵に向き直った。「君はどこへ行ってたんだ?」

子爵は薄ら笑いをうかべて答えた。「知りたいなら教えてやろう。君の荷物を探ってたんだよ」

「それで何が見つかったと言うんだ?」と、シェフは尋ねた。

すぐに話はまとまった。全員の安全のために、シェフを空っぽの冷凍庫に閉じ込めてしまおう。電源は切ってあるから危険はない。無実を証明するにはその方法しかないということで、シェフも同意した。常に人から認められることを求めたシェフは、料理が気に入られなければ、際限なく手直しを続けるのだった。

翌朝、シェフは凍死していた。見つけた者たちは背筋が凍った。

「私は利己的かもしれない」。解凍するために、子爵と一緒にシェフをベッドへ運んだ庭師は言った。「でも…殺されたくないんだ」

「哀れなコックさん」と子爵は言った。

「何だと?」と庭師は叫んだ。「お前が名指しして、証拠まで突き出したんじゃないか!」

「わかってるさ。だけど私が死んだ場合のために、告白しておきたい」。子爵は続けた。「私はワインに毒を入れた。ただ…毒入りワインは取り戻した。シェフがキッチンにいるのを見て気の迷いがあったことは確かだが、すぐに後悔したんだ。本当だ」

「それで済むと思うのか? 私たちを殺そうとしたんだぞ!」と、庭師は不満の声を上げた。

「勘定に入らないだろ! 取り返したんだから」と子爵は繰り返す。

「立派に勘定に入る」と庭師は断言した。

子爵は話を逸らすことにした。「冷凍庫の錠前、奇妙じゃなかったか?」

「高価そうだったな」と庭師。

子爵は答えた。「あんな錠前を使う人間はひとりしか心当たりがない」

マイケル3世の名を口にする必要はなかった。

「緑色のつぼみ」を見つけて立ち去る以外、生き残った3人にできることはさほどなかった。要塞の中はくまなく探したのだから、庭師は手袋をつかみ、子爵はローラーブレードを履いて、外を探索することにした。

庭師とふたり、断崖の端で緑の雑草を掻き分けていた子爵は、神秘家の姿を認めると「来たな!」と叫んだ。

「お前が私たちを殺そうとしたそうだな?」と、神秘家が怒鳴り返した。

神秘家がとても謎めいていたのは、人の心が読めたせいだ。読み取った内容の真偽を検証する能力はなかったにせよ、パーティーで役立つ特技ではあった。ディナーの席上、無言で全員の考えを探ったときは、「変人め」という心の声が聞こえた。最初、船長の頭にミント色の筆記体で「緑色のつぼみ」と書かれた船が浮かんだときは、何とも思わなかった。しかし、船じゃないかと言い出したシェフが毒殺犯と名指しされるに及んで、報奨を手に入れるチャンスはそれだと思った。冷凍庫に錠前をつけ、シェフを殺して、船を探すのだ。

神秘家は時間を無駄にすることなく、断崖の縁に近付きざま、子爵の首を占めた。眼前で子爵の生命力が燃え立ち、黄金色の丘の上ではしゃぐ道楽者の姿が見えた。さて、神秘家は子爵がライバルの顔面を手袋でひっぱたくのを1度ならず目にしたことがあった。しかし、まさか最後の力を振り絞って相手の首をつかみ、上回る体力に物を言わせるとは思わなかった。そしてそうなったとき、神秘家は死んでしまい、もはや何もわからなかった。

神秘家の握力から解放された子爵は、息をついた。だが、起伏の多い地面をローラーブレードで進むのはまだ危険だ。神秘家の最後の一息に押されるだけで、崖っぷちを越え、真っ逆さまに転落死するかもしれない。

庭師は、孤独を感じながら、打ち捨てられた要塞へ戻った。天井は高く、重いシャンデリアがほつれたロープでぶら下がり、足音が反響する。そのとき、頭上から興奮した叫びが聞こえた。

「緑色のつぼみだ!」

探偵の目が開き、ちらりと周囲を見た。体が痛い。だが彼は「死んでいる」はずだし、たとえ一瞬たりとも演技を止めたりはしない。他のやつらが死体を移動させようとして頭をドアにぶつけたときも、穿いていたズボンを「野暮だ」と決めつけたときも、死人の役に徹した。

しばしの間、探偵は自分を褒めた。センサーを照明に取り付け、両手を打ち合わせた音に反応するようにしたのは、非常に賢かった。燭台をタイルの床に落としたら「拍手」に似たような音がして、血まみれの場面にスポットライトがあたる仕組みを考えたのも、完璧だった。「そうとも」と、探偵は考えた。「あの偽物の血は効果抜群だった」

やがて探偵は立ち上がり、服のシワを伸ばした。寝室の窓を開け、山の空気を吸い込み、雲に覆われた空を恨めしく思う。そのとき、また聞こえた。「緑色のつぼみ!」

よろめきながら静まりかえったホールへ駆けこんだ探偵は、馬鹿げたことをしでかしたのではないかと恐れた。あいつら、緑色のつぼみを見つけたんだろうか?

謎の声の源に辿り着いた庭師と探偵は、驚きのあまり、揃って腰を抜かした。生身のマイケル3世を目にしたからだ。

「ほら、見て!」。探し物を見つけた歓喜のあまり、きちんと挨拶することも忘れてマイケル3世は声を張り上げた。「これ、覚えてる?」と一足の履物を掲げて見せる。「ちゃんと仕舞わずに、こんなふうに床に置きっぱなしにしてたなんて、信じられないよ」

「それが『緑色のつぼみ』?」と、言葉につっかえながら庭師が尋ねた。ひとりは死から蘇り、もうひとりは10年におよぶ失踪から姿を現したというのに、鮮やかな緑色の大胆なハイヒール型クロックの話なのか?

Michael (右) 着用アイテム:ジャンプスーツ(LU'U DAN)ネックレス(Hatton Labs)リング(Maison Margiela)。画像のアイテム:ヒール(Balenciaga)

「好き嫌いは分かれるけど」と、マイケル3世は満足げに喉を鳴らした。「だからこそ余計にオレは好きなんだ。誰が何を言おうと関係ないさ。なんてゴージャスなんだ!」。そして「緑のつぼみ」を床に下ろした後で言った。「何にせよ、君たちに会えて嬉しいよ! 外に車が何台もあるのに中には誰もいないから、心配してたんだ。週末はここに滞在できるのかな?」

庭師と探偵は言葉を失っていた。

「他のみんなはどこ?」。要塞の主たる自覚を取り戻して、マイケル3世は尋ねた。

ふたりは瞬きを繰り返すだけだ。

「ま、いいよ。君たちはそのまま残りの週末を楽しんでくれたまえ。オレはここにいなかったことにして。大丈夫、オレがいなくても君たちは生きていけるさ」

Michael the IIIはライター、フォトグラファー、モデルであり、徹底した非暴力主義者。『THEFINEPRINT』、『Gayletter』、『Document Journal』、『SSENSE』などに記事を執筆している

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III
  • モデル: Michael the III
  • スタイリング: Michael the III
  • ヘア & メイク: Michael the III
  • 演出: Michael the III
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: March 31, 2022