『Lilypad』
マガジンは
同志の世界

グラフィティ アーティスト、
トレイン ホッパー…
絶滅危惧種の仲間を発信する
エキサイティングなマガジン

  • インタビュー: Sam Reiss
  • 写真: Jill Schweber

もしもすべてを視野に入れることができたら、周縁はどんなふうに見えるのだろう? それこそ、2020年に誕生した『Lilypad』マガジンが模索する答えだ。創設者は、カルガリーで生まれて現在はモントリオール暮らしのドユン・ベック(Doyun Baeg)と、ニューヨーク在住のバーゲン・ヘンドリクソン(Bergen Hendrickson)。共に28歳のふたりは、都会の真ん中に出現するグラフィティ、スケートボード、それらに近いもの、それらから枝分かれしたものの光景を記録する。出版は散発的だが、すでに2号まで出版して、第3号は今夏に予定されている。

大判でフルカラーの『Lilypad』は、テーマと同じくらい、その扱い方と語り口を大切にする。登場する仲間たちに、意図してプラットフォームを提供する。例えば、アーティストのピーター・サザランド(Peter Sutherland)は自転車で走り回るメッセンジャーとしての副業を酷評し、マーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)がシングルスピードでゴミ袋の山を飛び越え、宙に浮いている姿を撮影する。グラフィティ アーティストのウォンバット(Wombat)は、自分の創作を説明する。その他、スケートボーダーや街で活動する人たちが、大勢登場する。グラフィックには、昔懐かしいレトラセットの奥行きとSEGAのメガCDのような躍動感がある。未来とアナログが同程度に混じり合った三次元的なページは、エネルギー波を送り出し、トレイン ホッパーの日記やバイク メッセンジャーの知恵を気負いなく噛み砕いて、ある場所で起きていることをあらゆる都会へ向けて発信する。共同体意識に基づいたドキュメントだ。名前を出さないほうがいいライターやトレイン ホッパーにはプライバシーを考慮するが、読者投稿欄「ドーナツ レター」は何でもあり。読者が手書きした内容にまったく手を加えることなく、そのままスキャンして印刷する。インタビューでは、答えと一緒に画像が送られてくることも多い。上意下達ではなく、何が揃うかわからない持ち寄り料理、ごちゃ混ぜのタトゥーに近い感覚だ。だが活き活きとした美的感覚にはまとまりがあり、テーマを決めないテーマが一貫して、すべてがひとつに集結している。

曖昧な対象に関する温度感のない記事、さもなければ大衆受けを狙って読みやすい記事を掲載する主流マガジンの在り方は、もはや時代遅れの感がある。誰もが非常に多くの情報にアクセスできる現在、控え目に言っても嵩張った存在だ。確かに『Lilypad』のページは内容が濃い。しかし、語りとビジュアルは流動的で軽やかだ。『Lilypad』は情報の提供を目指すが、視覚にも訴える。

バーゲン・ヘンドリクソン(左)、ドユン・ベック(右)、友人(中央)

サム・レイス(Sam Reiss)

ドユン・ベック(Doyun Baeg)、バーゲン・ヘンドリクソン(Bergen Hendrickson)

サム・レイス:マガジンでのそれぞれの役割は?

ドユン・ベック(以下D):僕もバーゲンも、何でもやる。ふたりとも寄稿者と連絡をとるし、インタビューするし、編集する。きっちりした役割分担はないね。

『Lilypad』が誕生した経緯は?

バーゲン・ヘンドリクソン(以下B):僕らは昔からの友だちなんだ。ドユンは、コロナが始まる前、メキシコシティにいるときからマガジンのアイデアを口にしてた。僕はニューヨーク州の北のほうの大学院にいたけど、その後コロナが始まって、ふたりとも家に缶詰めだろ。退屈して面白半分に『Perico』ってジンを作ったりしてたら、そこからドユンが記事の糸口をつかんで、僕が編集を手伝った。

『Lilypad』は二車線走行みたいだね。90年代のタウン誌が立派になった感じと、スケート マガジン。意図的にそういう路線を目指したの?

B:発行部数が少なくて、しかもすごく面白そうなマガジンって、滅多にないからね。体裁を参考にしたのはスケート マガジンのほう。僕の世代は、毎月マガジンを手に入れることから、スケートの世界に入っていった。何を着たらクールか、トリックをどう呼ぶか…、スケートの世界はすべてマガジンで学んだ。クリックひとつでThrasher.comや動画を見られる時代じゃないから、古い号は図書館で閲覧だよ。マガジンには同じくらい興味のあるアートがたくさん紹介されてるし、なかなか触れることのないサブカルチャーにも近付ける。そうやって、キッズはリアルタイムで色んなことに詳しくなって、仲間意識が育つんだ。

『Lilypad』がどんなマガジンか聞かれたら、まずは「スケート マガジンじゃないけど、スケートの記事があるマガジン」と答えるんだ。もっと正確な答えは「僕らの仲間や僕らが知ってる連中を紹介するマガジン」。号を追うごとに、みんなの繋がりがわかっていくと思う。第1号は仲間へのオマージュだった。あの号だけでも、才能のある連中がすごくたくさん登場してる。その同じ連中が、違う役割で再登場する。例えば、第1号のグラフィック デザイン担当を次の号ではアーティストとして紹介したり、第1号でポスターを掲載したアーティストに第2号でインタビューしたり。実在する集団のドキュメントだよ。僕らが知ってる人たちを、僕らが知らない人たちに紹介する。

D:よくジョークで言うんだけど、最大のインスピレーションはデイヴィッド・アッテンボロー(David Attenborough)の『プラネット アース』。つまり、影が薄くて絶滅しそうなあれこれを探し出す。

絶滅の危機に瀕してるのは?

B:本当に死にかけてるじゃないけど、色んなことを、ほとんど気づかれないやり方でやってる連中。カルチャー的には、洞穴に生息してる風変わりなネズミに等しい。手柄にするつもりはないが、僕らは、生存の危機にさらされてる連中としっかり関わり合ってると思う。

D:ウォンバット(Wombat)のインタビューなんかが、いい例だ。グラフィティ アーティストとしていちばん脂がのってるときに話を聞けたから。

B:第1号で紹介したリッキー・インズ(Ricky Ihns)みたいに、時間をかけて、普通じゃない方法で、放浪的な旅をしてる連中もとりあげてる。トレイン ホッピングのベテランが素晴らしい話を語ってくれる、自由な旅ログ。あの世界は情報公開に慎重でなきゃいけないから、実践者自身の言葉と画像と語り口で、垣間見せてもらうことが大切なんだ。僕らがカメラを持って、後ろについてまわるわけじゃない。

D: 公開しない秘密もある、だが核心は逃さない。

僕らは、生存の危機にさらされてる連中としっかり関わり合ってると思う

従来の雑誌作りの経験がないことが、逆に役に立ったりする? 記事で取りあげる人から回答以外の提供も受け入れて、より大きなプラットフォームを提供するのは、考えた上での選択だったの?

B:正直言って、どうすべきなのかを僕らは知らないだけ。僕は大学院でキュレーション、特に出版やアーティスト関係の書籍を専攻したんだ。考えるに、『Lilypad』はキュレーションの産物だ。マガジンがマガジンたるべき骨格と皮膚を備えてる。まさに超科学捜査的アプローチだろ。第1号の割付は他のマガジンを参考にしたけど、それ以外は全部、やりたいようにやった。

D:曲作りを知らないやつがパンク ミュージックを作ると、すごくいいサウンドになる。絵の勉強をしたことのないやつが絵を描くと、違ったものができあがる。それと同じつもりじゃないが、自分たちで考え出していくのがおもしろいんだ。何かを始める、XやYをどうやればいいのかわからない、本屋へ行って調べる。そしたら、ああ、こうすればいいのかってわかる。

B:体裁を考えるときは、いちばん退屈そうな大衆誌を参考にするんだ。

D: レジの近くに置いてあるやつ。

B:そういえば、『Lilypad』を『Artforum』と並べた場所もあったよ。まったく異質なマガジンなのに、おかしくて。でも表紙だけを見ると、それほどクレージーでもないんだよね。『Lilypad』は普通のマガジンになりすましてるから。

コミュニティを基盤とするマガジンには、どんな未来を予想する?

B:誰かに100万ドルで買収されるとか。冗談、かな? よし、真剣に答えよう。『Lilypad』は僕らの友情に根差しているし、僕らには目指すものもある。ふたりだけでマガジンを出してると言うと、みんな「一体何やってんだ?」って呆れる。確かにふたりだけでフルサイズのマガジンを作るのはクレージーだ。ふたりとも、いくつも仕事を掛け持ちしてる。

D:大事なのは、15歳のときの僕は何を読みたいだろうか、ってこと。そこが変わって他のマガジンと同じになるんだったら、それが『Lilypad』を止めるときだ。商業的過ぎるのはつまらない。

B:実際に互いを知り合ってる集団の、現実の世界なんだ。僕らが発見しつつある世界が実在する。僕らは周縁と言ってるけど、周縁は必ずしも末梢を意味しない。それどころか、すごく強い引力がある。仲間がそれぞれのおもしろい仲間を連れてきて、強く団結した世界が築かれていくんだ。これからも、どんどんそういう連中と出会いたい。

Sam Reissは『GQ』でビンテージの服についてのニュースレターを執筆し、Inverse.comでパワーリフティングと栄養学について、また『GQ Style』、『ESPN』などで家具やデザイン、その他のテーマについて執筆している。『Snake America』ニュースレターは書籍化され、Shining Life Pressから出版されている

  • インタビュー: Sam Reiss
  • 写真: Jill Schweber
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: July 25, 2022