シルクのローズと折り畳んだ翼:
2024春夏シーズンの繊細な緊張感

SSENSE ウィメンズウェア バイイング VPが新シーズンから注目のルックを紹介する

  • 写真: Winter Vandenbrink
  • スタイリング: Brigitte Chartrand
  • 文: Ross Scarano

Rick Owensが降り注いだホワイト、レッド、イエローのバラの花びらで、パレ ド トーキョーのランウェイはまるで点描画家が描いた夕暮れのようだった。リミックスされたダイアナ・ロス(Diana Ross)の「I Still Believe」が讃美歌のように流れ、フューシャ ピンクとイエローのスモークが漂って、会場のテラスはより一層美しさを増す。この世ならぬ、不思議な雰囲気でもある。9月に発表された2024春夏コレクションで、SSENSE ウィメンズ バイイング バイスプレジデントのブリジット・チャートランド(Brigitte Chartrand)が気づいたのは、花に代表される自然の造形がハンドメイドの作品に使われていたことだ。例えばSimone Rochaは、ブラックのドレスに茎の長いペール ピンクのバラを挿していた。花が、本来なら存在するはずのない場所に姿を見せていた。それらはクレヨンで描いた明るい煙のようだが、炎はない。あくまで優しく、だが現実から乖離している。いくつものコレクションで繰り返されたテーマだ。

モデル着用アイテム:(Simone Rocha) 冒頭の画像 モデル着用アイテム:(The Row)

「私は趣味をたくさん持ってるわけじゃないけど、花を生けるのは大好き。週末にはロサンゼルスの花市場でたくさん花を買ってきて、何時間もあれこれ試しながら、家中に飾るのよ。シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)のシルクのローズの使い方は、瑞々しくて、斬新で、とても印象に残ったわ。ロマンチックで詩的なんだけど、ちょっとダークな雰囲気もある」とチャートランドは言う。2024春夏コレクションはパステル調も多く、ケーキのようなドレスもあった。「だけど、ソフトな要素とダークな要素が緊張し合っている。それが特徴。ここで紹介するルックも、緊張感を念頭に置いて選んだものが多い」。ErdemBarbourによる、花柄のキルト生地を使ったワークウェアもそのひとつだ。

モデル着用アイテム:(Rick Owens)

モデル着用アイテム:(Erdem)

リック・オウエンス(Rick Owens)と言えばブラック。チャートランドも、SSENSEで仕事を始めた当初は、バイヤーたちにブラック中心の買い付けを指示したという。「だけど年を追うにつれて、コレクションに予想外のカラーが見られるようになったから、私たちも流れに沿うことにしたの」。一見ドレスに見えるが実はトップスとショートパンツ、それにレッドのブーツを組み合わせたルックはコントラストが際立ち、加えてルックとひとつに溶け合うバッグとのペアリングで、相変わらずファンの期待を裏切ることがない。どのシーズンも、形状とシルエットに挑戦し続けるオウエンスの秀でた力量が、確かに証明されている。ハイウエストのスカートとマイクロ ブラのルックも、強く記憶に残った。「ファッション ウィークのエディトリアルでRick Owensを語らないなんて、無理。特にこのルックは、いかにもパートナーのミシェル・ラミー(Michèle Lamy)が着そうじゃない?」

どのファッション ウィークでも、必ずひとり、スターになるモデルがいる。今年のスター モデルはコリン・ジョーンズ(Colin Jones)だ。Maison Margielaのショーでひときわ光り輝いて、一躍有名モデルの仲間入りを果たした。「彼女は素晴らしかった。まさに、パリのストリートを闊歩するSSENSEガールの典型って感じ」とチャートランドも絶賛する。「とりわけこれは、ビスチェから水玉模様のスカートまで、色々な素材を使った手の込んだルックだから、パワーのあるモデルでなきゃとても着こなせないわ」

ジョーンズはALL-INランウェイも歩いた。違うモデルが着たものだが、ALL-INのこのルックにも、チャートランドの言う「スパイシーな小気味良さ」があるし、SSENSEにはこの形容がぴったりのカスタマーがいる。5年前にスタートしたALL-INが2023年に特に大きな波を起こした背景には、カイリー ・ジェンナー(Kylie Jenner)が『HOMMEGIRLS』の表紙で着ていたこともあるだろう。ALL-INのようなブランドの仕事ぶりに注目することがSSENSEをSSENSEたらしめると、チャートランドは信じている。

モデル着用アイテム:(Maison Margiela)

モデル着用アイテム:(Undercover)

モデル着用アイテム:(ALL-IN)

SSENSEのもうひとつの信念は、不条理ではあっても美しいものを評価することだ。この視点からチャートランドが心を奪われたのはUNDERCOVERの意表を突いたトレンチコートだ。「これはどうしても紹介しておかなきゃ。素晴らしい翼を、もっと多くの人に見てほしいの。ランウェイの画像だけではディテールがわからないから」。シアな2枚のファブリックの間に折り畳まれた翼は、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)の名作『ベルリン・天使の詩』をまざまざと脳裏に呼び起こす。

モデル着用アイテム:(JW Anderson)

JW Andersonが見せた粘土のフーディにも、独特の魔法があった。チャートランドによると、使用された粘土は硬くも脆くもなく、「全体に均一ではなくて、表情豊かな色の陰影を作り出す」素材だと言う。写真だけでは着方がわからないが、両サイドにベルクロがあり、袖は上から下まで大きなジッパーで開閉。いちばん複雑なのは頭からかぶるときだが、やる気さえあれば問題ない! ちなみに、ショーの招待状も粘土だった。

モデル着用アイテム:(Issey Miyake)

モデル着用アイテム:(Miu Miu)

もう少し実用的な観点からチャートランドが選んだのは、ISSEY MIYAKEMiu Miu。カラーブロックと軽やかに楽しいルックが次々に登場した。「ISSEY MIYAKEのサマールックはもうそれだけで完璧だから、何も付け足す必要がないし、何の飾りも要らない。着るだけで出かけられる」。オレンジが主役のドレス、ライラックのトラウザーズ、ダークブラウンの長袖ドレスで、レイヤリングとカラーが美しく調和する。オレンジに染まる黄昏時の色調も、今シーズンのコレクションで繰り返し登場したテーマのひとつだ。ISSEY MIYAKEと同様に夏らしさを押し出したMiu Miuは、スーツ ジャケットとビキニ ボトムを組み合わせ、プレップ調のアウターウェアに無頓着な気楽さを注入した。まさに、東海岸の原型と西海岸の原型のブレンドだ。「メンズウェアは、ブレザーのボトムが、ボード ショートパンツとSpeedoのレイヤード。すごく素敵よ」とチャートランドは言う。「それから、来年は、みんながこのサンダルを欲しがるでしょうね」

モデル着用アイテム:The Row .

フラットシューズでチャートランドが熱弁をふるうのは、The Rowから新登場のジェリー シューズだ。「とても一色だけでは我慢できないと思う」が、レッドとトランスペアレントがベストセラーになるだろうと予測する。カラーといい、作りといい、形といい、The Rowは馴染みの深いシンプルなアイテムをとりあげて、素晴らしくグレードアップしてみせる。たっぷりとしたレッドのレインコート、光をとらえるトラウザーズも然り。ちょうど良い具合にバギーなカシミヤのTシャツは、「2024春夏シーズンで、私がいちばん好きなTシャツ」。同じくカシミヤのVネックドレスの下に着ると、とても印象的なシルエットになる。携帯やコンピュータの画面で映えることは間違いない。

モデル着用アイテム:Balenciaga .

シルエットの遊びなら、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の実力は立証済み。これも花柄のテーブルクロスを使ったドレスは、典型的なBalenciagaルックと言える。チャートランドは「素材とプリントがとても気に入った」。今回のショーは、サウンドトラックに、フランス俳優のイザベル・ユペール(Isabelle Huppert)がスーツ ジャケットの仕立て方を朗読する部分があり、思いがけないドラマ性があった。新しい視点から肉体の形状とプロポーションを考えるデムナのデザインは、魅力が褪せることがない。「もちろん、新しいCargoスニーカーも忘れるわけにはいかないわ。撮影に行ったとき、私が履いてたMiu Miuのバレエ フラットと並べて撮ってみたの。同じ靴とは思えない。もう大笑いよ」。これほどスケールの大きいスニーカーは、一体どこへ向かうのだろう?

  • 写真: Winter Vandenbrink
  • スタイリング: Brigitte Chartrand
  • 文: Ross Scarano
  • ヘア & メイク: Laurie Deraps
  • モデル: Ana Portela @IMG、Cosme Voisin @SUCCESS
  • デジタルオペレーター: Noémie Van Effenterre
  • スタイリスト アシスタント: Cléo Lacroix
  • クリエイティブ プロデューサー: Fiona Torrens
  • プロダクション アシスタント: Anna Schef
  • 写真監督: Arseniy Kazimirov
  • キャスティング ディレクター: Monika Domarke
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: October 26, 2023