フロントロウに座るのは
次の大物クリエイティブ ディレクター?
パリ ファッションウィークから読むセレブとファッションの未来
- 文: Steff Yotka

ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が初めてLouis Vuittonのショーに現れたのは2004年。クリスタルが煌めくTシャツとLouis Vuittonのアイグラスという出で立ちで、隣に座ったカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)とカメラに向けてポーズをとっていた。『ニューヨーク タイムズ』のキャシー・ホリン(Cathy Horyn)は、「ここしばらくパリでお目にかかることがなかった華やかなショーのひとつ」と書き、ウィリアムズやドヌーヴのほか、ユマ・サーマン(Uma Thurman)、シャロン・ストーン(Sharon Stone)らの姿で会場の熱気が盛り上がったことを認めた。
このときを、Louis Vuittonがセレブへ視線を向けた転換期と呼ぼう。ホリンによれば、Louis Vuittonは初期Versaceの強烈な豪華さへ舵を切ったように思えた。20世紀から21世紀へとファッション界で間違いなく最大の才能を発揮するマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が指揮をとった時期でさえ、Louis Vuittonの煌びやかなコレクションは小規模で、「主役であるバッグの引きたて役」以上のものではなかったのだ。
それから18年が流れ、吉日のゴールデンアワーに、ゴールドの敷物に覆われた橋の上で、さらに豪奢なLouis Vuittonのショーが繰り広げられた。ウィリアムスがLouis Vuittonメンズウェアのクリエイティブ ディレクターとして披露する、初コレクションだ。前任者の故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は、セレブとファッションというふたつの世界を触れ合うほどに接近させたが、今、ウィリアムスによって、セレブとファッションはひとつの世界になった。ビヨンセ(Beyoncé)、ジェイ・Z(Jay Z)、リアーナ(Rihanna)、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)、ルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)、J・バルヴィン(J Balvin)、ゼンデイヤ(Zendaya)、そしてもちろんドヌーヴなど、フロントロウに座ったセレブのリストは限りなく長い。
メンズウェアの専門家と愛好家も2024年春夏シーズンのコレクションを見るためにパリへ押し寄せたが、ファッションウィークに先立つ2週間も幕が下りた後の2週間も、すべてのショー、すべてのウェア、すべてのデザイナーは巨大なLouis Vuittonの影に霞んでしまった。数日にわたって街路を封鎖した規模の大きさ。ステファノ・ピラーティ(Stefano Pilati)やダオ・イ・チヤウ(Dao-Yi Chow)をはじめとする豪華キャスティング。会場に選ばれた黄昏時のポンヌフ橋。ジェイ・Zがマイクを握り、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)が踊りながら横に倒したiPhoneで録画していたアフター コンサート。そんな一大イベントに触れずに会話を始めるのは、不可能に近かった。

Troye Sivan 、ミラノの SS24 Prada メンズウェアショーの外にて、撮影:Marco M. Mantovani/Getty Images Top Image: Catherine Deneuve and Pharrell Williams at the spring 2004 Louis Vuitton show. 撮影:Michel Dufour/WireImage via Getty images
Louis Vuittonのショーはスーパーボウルであり、コ―チェラであり、『エミリー、パリへ行く』の世界だった。LVMHはディズニーランドに変わろうとしていた。それともマーベル映画か。いや、世界最大おもちゃメーカーのマテルだ! 伝記映画でカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)を演じるジャレッド・レト(Jared Leto)には申し訳ないが、近いうちに私たちが観ることになる映画の主人公は、デザイナーではないだろう。アップルTV+のドキュメンタリー シリーズ「ザ スーパーモデル」にも申し訳ないが、モデルが主人公でもないだろう。それは、ひとつの「物」から生まれたストーリーになるはずだ。ベン・アフレック(Ben Affleck)が出演した、Air Jordanの長編広告映画ではない。ウィリアムスが持っているLouis Vuitton Millionaire Speedyバッグが主人公の映画だ。
時を同じくして、海を超えたハリウッドではライターたちがストライキに突入し、マテルはマイケル・シェイボン(Michael Chabon)が本書きしたアクション フィギュアの映画製作を発表し、グレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)の代理人が「彼女は、大物女性監督ではなく、大手映画会社のディレクターになることを目指しています。その点『バービー』は、彼女にとって納得できる知的財産でした」と明言した。
過去20年、ファッション界のCEOたちは伝統あるブランドが築いた知的財産に賭け、1930年代から1940年代にかけてのファッション ハウスを蘇らせることに多大な年月と資金を費やした。その結果CHANELやDiorの製品は世界に広く知れ渡り、莫大な成功をもたらすことになった。1990年代に入る頃には、X世代とミレニアル世代の若者層をターゲットに、聡明な若手デザイナーたちがCHANELやDiorより歴史の浅いブランド、例えばBalenciaga、Yves Saint Laurent、Givenchy、Gucciなどを復活させていた。だが現在、ファッション ブランドが持っている既存の知的財産だけでは十分とは言えない。ファッションはもっと大きな展望を持てる。2022年にLouis Vuittonは200億ユーロの売上を達成した。ウィリアムスは、今年、Spotifyで3,820億を超える再生数を達成する勢いだ。

Teyana Taylor、Offset、Michèle Lamy、 Kyle Kuzma、パリのSS24 Rick Owens メンズウェアショーにて、撮影:Peter White/Getty images
シリアスな現実派は、相変わらず、この動きが服作りの終焉を告げる引き金になるのではないかと危惧しているが、マーチャンダイズとエンターテイメントが融合したマーチテイメントは最終章を迎えたのだ。Alexander McQueenを生んだ業界はマクドナルド式マーケティングの業界になる。遅ればせながら、グリマスのハッピー バースデイがやって来るというわけだ。
かくしてパレ ド トーキョー、ポンヌフ橋、コルシーニ宮の長いベンチに腰を下ろしたセレブたちは、突如、セルフィーに興じるだけのゲストではなく、ファッションの未来…になるのだろうか? つまり、適切なスタイル、嗜好、コネさえあれば、フロントロウに座るA級有名人の誰であっても、ファッション ブランドのクリエイティブ ディレクターはおろか、もっとも強大なファッション帝国を司る太陽王にだってなれる可能性がある、ということだ。

Tommy Cash at the SS24 Marine Serre show in Paris. 撮影:Swan Gallet/WWD via Getty images
パリ ファッションウィークがスタートして数日後、Lanvinはラッパーのフューチャー(Future)とのコラボによるカプセル コレクションの制作を発表した。頷ける。だがトミー・キャッシュ(Tommy Cash)の鉄面皮なコスプレはどうだろう? あれはInstagramのネタだと言う人たちもいるが、私には、いちばん良い意味で、本物のファッションマニアの証に思える。シーフード料理を並べたテーブルに変身してDoubletのショーに現れたキャッシュは、「どのコスチュームも、僕のチームが朝の4時までかかって作ったんだ」と教えてくれた。Marine Serreのショーでは、カズン・イット顔負けのヘア スーツで静かに座っていた。
ミラノとパリでは、『ジ アイドル』で一躍アイドルになったモーゼス・サムニー(Moses Sumney)とトロイ・シヴァン(Troye Sivan)を見かけた。ふたりとも、ミュージシャンや俳優など、すでに複数の肩書を持っているのだから、デザイナーの肩書が加わっても不思議はない。ミラノのValentinoのショーでパフォーマンスした新進ミュージシャンのデイヴィッド(d4vd)は、ファッション界との出会いはエキサイティングな体験だったと話す。「これまでずっとストリートウェア一辺倒だったけど、ハイファッションをたくさん目にした今となっては、僕のスタイルが新しい方向へ向かう必要があるのは確かだな。なんと言うか、ハイファッションにラグジュアリーとストリートウェアが混じり合ってるんだ。ストリートウェアのカジュアルさと超高級ファッションのブレンド、って言えばいいかな」

Photo by RAHEEMISBLIND.
デザインに興味はあるだろうか? 「もちろん。ちょうど今それを考えてるところ。ただ商品に僕の名前をつけるだけじゃなくて、もっと本腰を入れたプロジェクトの案を練ってるよ」
Botterのショーでは、同じくラッパーのアミーネ(Aminé)が近日中に発表されるNew Balanceとのコラボについて喋っていた。Louis Vuittonに着任の噂が囁かれたミュージシャンのひとり、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)はWales Bonnerのフロントロウに座り、自身のブランドで高い評価を得ているヴィクトリア・ベッカム(Victoria Beckham)は、ヴェルサイユで、Jacquemusのショーの会場となる船に乗っていた。

Victoria and David Beckham、ヴェルサイユのJacquemus FW23ショーにて、 撮影:Pierre Suu/WireImage via Getty images
Jacquemusの船が出るまでのあいだ、私はふたりのエディターと一緒に、来場したゲストがポーズをとる場所に群がっていた。エミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajkowski)、ティナ・クナキー(Tina Kunakey)、カロルG(Karol G)、モニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)らの動画を撮影したい。ゲストの到着を待ちながら、またもやLouis Vuittonのショーが話題になる。「オンラインでファッションが話題になることには、すごく大きな価値がある。ブランドがそれを利用し始めたのよ。そのためにはセレブを通じてブランドへの関心を引くのが、いちばんの方法だもの」とひとりのエディターが言う。「結局のところ、クリエイティブ ディレクターの仕事は監督するだけでしょ。だけどブランドにはものすごい数のチームがある。デザインそのものというより、好みや視点よね」
私たちはなおも、デュア・リパ(Dua Lipa)やBLACKPINKのジェニー(Jennie)やバッド・バニー(Bad Bunny)を待ち受ける。弔いの鐘を鳴らすのはまだ早い。けれど彼らの姿は見えない。どうやら私たちが始めた噂話が一人歩きしただけのようだ。この頃になってようやく、話題はファッションウィークで印象に残ったデザインに落ち着く。Dries Van Notenの極細でセクシーなチェーンベルトと微風にひるがえるチュニック。JW Andersonのバブリーなニット。Rick Owensのウルトラ ハイライズのトラウザーズと矯正具みたいなシューズ。完璧に美しいThe RowのポロシャツとLEMAIREの軽やかなカーキ色のジャケット。立体的な手刺繍をほどこしたKiko Kostadinovのニットやトラウザーズ。

画像左:Comme des Garçons Homme Plus SS24、撮影:Eva Losada 画像右:Kiko Kostadinov SS24、撮影:Aleksandra Soroka
「キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)みたいなデザイナーのショーを見ると、ファッションと見世物の対比がはっきりわかるね」と、先のエディターが続ける。「Kiko Kostadinovのショーはとてもデリケートで静かなの。会場にいるのは多分ほとんどが報道関係者で、セレブは数えるほどしかいない。みんな、服を見に来るのよ。舞台裏でコスタディノフと話すと『僕が作りたいのは服のための服だ』って言う」

JW Anderson SS24、撮影:Eva Losada
「服が服へ戻った」とは、同僚のトム・ベットリッジ(Thom Bettridge)が2024春夏シーズンの優れたデザインを形容した言葉でもある。目で見て、手触りを味わい、着ることで魔法を体験できる服だ。例えば、コーヒーで染色したRANRAのジャケット、フリルのあるEdward Cumingのパジャマ セット、爪先がふたつあるComme des Garçons Homme Plusのシューズ、それから、スーツをプリントしたスーツや、スーツで作られ、スーツにスーツを重ねたComme des Garçons Homme Plusのコレクション全部が当てはまる。
Comme des Garçonsのショールームで、「川久保玲が4日前からずっと光りものを着てるんだ」と私に言った人がいる。何もかもがピカピカだ。何だかんだ言って、ファッションの未来は明るいのかもしれない。
- 文: Steff Yotka
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: July 13, 2023

