体験レポート:
Theragun
イアン・F・ブレアが実感するセルフケアの実力
- 文: Ian F. Blair
- アートワーク: Gavin Park

形状記憶素材を使った僕のマットレスは振動している。下の階の住人は振動に気づくだろうか。僕はそうやって繰り返し自分の体を打ち続け、同時に回復しつつある。ともかくそういうことになっている。なってはいるけど、僕自身の体は確信を持てない。脚の筋肉は混乱していて、それはそれでいいはずだ。いつだったか、あるアマチュア トレーナーが説明してくれたのだが、筋肉をつけるには先ず温め、次に引き延ばし、その後完全燃焼するまで激しく運動させ、ついにクライマックスに達したら、つまり筋肉が果ててだらりと使い物にならなくなったら、回復させるそうだ。アーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)は、1977年のドキュメンタリー『鋼鉄の男』で、この完全燃焼の瞬間を「ポンプ」と呼んでいる。汲み上げた水がほとばしり出るポンプだ。「イクときの感じ」と言うから、オーガズムに違いない。重要なのは、肉体と感情の超越的解放は苦痛を通して得られること。多大な努力の結果、エクスタシーに到達できるのだ。そして今、僕が感じているのもエクスタシーだと思う。ただし僕は、パンデミックが始まって以来、激しい運動をしていない。努力しないで、「ポンプ」を体感している。
本気のセルフケア製品はすべからくそうであるように、Theragunは君のために働いてくれる器具だ。これというほどの努力はほぼ要らず、どんな姿勢でも使える。僕が好きなのは、アルバム カバーのマイケルみたいに、左向きに横になった姿勢だ。その後はTheragunを取り上げ、体に当て、ボタンを押して、ヘッドの上下運動を見ているだけ。ロサンゼルスに住んでいた頃、バルコニー近くの空中で静止飛行していたハチドリの翼の動きを思い出す。Theragunが振動する速度を目測するのはとても無理な話だが、製品仕様書には1750〜2400/分(PPM)の振動数と記載されている。
白状すると、そもそも僕が好奇心をそそられたのは、それほど高い数値のPPMが実際に作動しているところを見たからだ。アルゴリズムの神に与えられた恩恵とでも呼ぼう。去年のいつだったか、ギャラリーのオープニングに関する投稿や#squatsaturdaysの動画など、日頃のコンテンツにTheragunのスポンサー付き広告が紛れ込み、スクロールしていた僕の親指がはたと止まった。ひとりの女性が艶のある黒くてコンパクトな器具を持ち、フレンドリーかつ真剣な表情で、削岩機で岩でも砕くみたいに筋肉質な腿を打ちつけていた。スローモーションで波打つ腿の表面を見るのは、有料のSMプレイ イベントを観ている気分だった。Theragunはパワフルに見えたが、パワフル過ぎることはなく、主導権権を握っているのはあくまで女性だった。このスマートな近代的器具が素晴らしいのは、そこ。「smart percussive therapy™(インテリジェントな振動刺激セラビー)」によって、意志とパワーが合体するところだ。
とは言え、使い手の力が必要なのは、Theragunを持っていることだけ。第4世代の高級モデル「Theragun Pro」は、ソフトな手触りながら持ち上げると手応えがあり、いかにもな存在感が期待を掻き立てる。1.3 kgはそれなりの重量だ。それを真っ直ぐしっかり持てるのはまずまずの体調の証だと、それだけで気分が高揚する。グリップの部分はスエードのようなカバーが滑り止めになっていて、手が滑ることはない。上手く持てないとしたら、使う側の体力が不十分な証拠だ。曖昧なところや抜け穴が一切ないのも、独創的な設計の一環だ。肉体と精神の準備が整っている限り、この物体は君の思い通りに動く。抑制と解放というふたつの美徳の葛藤は、Theragunが解消してくれる。身を委ねることを選びさえしたら、後は目的を達するまで手放さないようにTheragunが誘惑してくれる。「手放せ」と、現代のカルチャーもカウンセラーも言うけれど、いや、まだだ! 僧帽筋を済ませるまでは離さない!

冒頭の画像: Theragun マッサージャー
一方で、Theragunの系譜を明確にこれと指摘するのは、それほど簡単ではない。基本的には個人用マッサージ器だが、人の手や腕や肘の優しさとは似ていない。パンデミックの現在は中止しているものの、2017年から深部組織マッサージを定期的に受けてきた僕には、Theragunの感触が機械以外の何ものでもないと断言できる。かつて、古道具を売買したり交換したりするイベントで、大箱に放り込まれていた個人用マッサージ器が脳裏に蘇る。不用になった個人用マッサージ器は、最後は古道具市へ行き着く定めだ。DNA検査で家系を教えてくれる23 and MeへTheragunを送れば、ベン図で自宅用マッサージ器とバイブレーターが重なり合う部分にきっちりと納まることだろう。マッサージ器とバイブレーターという2種類の器具は切り離せない。昨年のことだが、『The Cut』のエディス・ジマーマン(Edith Zimmerman)は、前世代TheragunのG3を「スマートで幾何学的な大型バイブレーター」に例えていた。前世代のTheragunははるかに大きい音を出したから、ジムとか飛行機内とか、プライベート空間以外の場所では使いにくかった。にもかかわらず、ジマーマンは人目があるオフィスで「遺憾ながら、G3を楽しんでしまった」らしく、同僚はG3をスタンド ミキサーに例えたそうだ。僕の頭にバイブレーターがよぎったこともある。元アスリートで現在はランニングに熱心な旧友が、ソーシャル ディスタンスとマスクの装着を遵守しながら顔を見せたときだ。彼が興奮を隠しきれず、テーブルの上に置いてあったTheragunを指さしながら、間抜けなバリトンで「おいおい!」と大声を出したとき、映画『ブラウン シュガー』の一場面が僕の頭の中で再現された。サナ・レイサン(Sanaa Lathan)演じる主人公のニューヨークのアパートで、「マッサージ器」を見つけたクィーン・ラティファ(Queen Latifah)がからかう場面だ。だが僕の友人は、からかったのではない。「すげえな。羨ましい」という彼の言葉を、僕は十分理解できた。
「筋肉の回復を促進し、ストレスと緊張を解きほぐし、不快な症状を緩和する」というTheragunの謳い文句は、マッサージ器の長い歴史の文脈にぴたりとあてはまる。電動式バイブレーターは、発明された19世紀の後半以降、科学の勝利と誉めそやされてきた。あるスウェーデン製バイブレーターの使用説明書は、「身だしなみの必需品として、また数多くの病気の治療においても、バイブレーターは高い人気を得てきました」と売り込んでいる。Barker バイブレーターは、1906年、家に居ながらにして「神経系と全身の体組織を活性化し、顔の色艶と頭皮に効果を発揮し、痛みを消す」と宣伝された。僕自身、鼻風邪、インフルエンザ、リウマチ、痛風、消化不良、胃のむかつき、胸部と肺の問題に使えるマッサージ器を見たことがある。昨年タイムズ紙に掲載された性史家の記事は、シワや結核の治療器具として市販されたマッサージ器に言及している。オーガズムこそ女性解放の鍵だと主張した急進派フェミニストのベティ・ドッドソン(Betty Dodson)は、70年代に開催したマスタベーション ワークショップでバイブレーターを使用した。僕の場合は、硬く縮んだふくらはぎを解きほぐすことさえできればいい。中学校時代から一度もストレッチしたことがないような感覚から解放されれば、それでいい。
肉体作業と余暇が混じり合う現代という歪んだ時代には、セルフケアと罰の概念もにわかに判別し難い。苦痛は癒しへの道だ。Theragunは、世俗的な苦行の生活を望み、だがセックスをわずかに下回る快感を歓迎する人種のためにある。Theragunを性的な刺激を目的として使用してはならないし、そのことはブランドもブログも警告している。性的な満足を得たいのであれば、セックスすること。素晴らしい「ポンプ」を体験したければ、699ドルを差し出すことだ。
Thera-drill、PowerMassager Pro、Pure Waveといった他のマッサージ ガンと比べ、Theragunはもっとも明確な顧客像を想定している。ホワイトのパッケージ箱は、iPhoneやMacbook Proと同様のすっきりしたミニマリズムだ。EliteとProのモデルに付属の保護携帯ケースは、非常に軽く、チャコール カラーに頑丈なブラックのジッパーとハンドルという文字通りの都会的デザイン。マッサージ ガン本体の印象は、なんとなく世界の終末がちらつく満足感に近い。僕の手許にあるのは全体がいくつかの風合いのブラックで、Instagramで見たのと同じ円形のターコイズがアクセントになっている。あくまで滑らかなガンには、ブラックとホワイトのパワー メーターがある。土曜日は、Zoomのサバイバル クラスで朝を始め、その後耐久イベントに参加して、這い、転がり、走った後、テスラで体力回復シェイクを飲みながら一日を締めくくる人種のために誂えたようだ。Theragun Proのバッテリー パックは、セミオートマチック拳銃の弾倉に驚くほどに似ている。装着するとカチッと音がするところまで、そっくり。

Theragun Proには、スーパーソフト、ダンパー、スタンダード ボール、サムなど、複数の付属アタッチメントが含まれている。僕が好きなのは、肩の「スクレイピング」と「フラッシング」に使えるウェッジ。それとコーンだ。コーンは一見痛そうに見えるけど、用途は手や足のピンポイント治療。ガンは筋肉を貫通するわけでなく、筋肉を「打つ」。その振動刺激によるマッサージ、別名「パーカッシブ セラピー」は局部に効き、深度、速度、強度の3要素が相まって作用すると説明書に明記されている。「深部筋肉を確実にマッサージする鍵は、正しい振幅にあります」。振幅とは、「基本的に、器具のアームまたはシャフトが伸縮して、体内に振動刺激を送り出す距離」を意味する。ガンの振幅は16 mmだ。Proは振動速度が5段階に設定されているほか、専用アプリでさらにカスタマイズできるが、強度は単に速度と深度だけの問題ではなく、体に押しつける強さが関わる。人間工学に基づいたTheragunの調節可能なアームは、どの角度からも、好みの圧力で、容易にガンを体に押し当てることができる。したがって、どの程度筋肉を刺激するかは、使い手の熱意次第、体に押しつける強さ次第だ。
さて、僕の体験談を話そう。昨日の夜、僕はソファに座って、ふくらはぎの足首に近い部分にTheragunを当てていた。最初は1750 PPMから始めて、少しずつ上げていった。速度が増すにしたがって機械音も切れ目なく高まり、最高PPMに達すると徐々に静まって、最後は電動歯ブラシと巡航高度に到達後の飛行機のノイズの、どこか中間あたりに落ち着いた。ウェルネスの響きはホワイト ノイズに似ている。ガンが最大能力で作動しているのがわかったし、そのままずっと続けられそうだった。そう思うと気持ちが楽になり、感謝の念に満たされた。
思いがけないことが起こったのは、その後だ。振動が治療部位の表面を猛烈に打ち続けるなか、凝り固まった痛みの感覚がいくぶん散った気がした。散ったけれども、消えたわけではない。これは「血行」の効果だ。ふくらはぎに添って上下にガンを動かしながら、痛みがどこかへ行ったことはわかったが、どこへ行ったのかを正確に知ることは難しかった。
強く鋭い痛みが鈍く拡散したら、何が起こるか? 霧のように、消耗が忍び込んでくる。治療の必要な筋肉の部位を緩めて、感覚を体全体に拡散するのがTheragunの魔術だ。気分が良くなった僕は、親指でパワーボタンを押した。振動音が消えた。ふくらはぎには活力が戻ったようだ。だが、痛みはもどって来るだろうか。気になってしばらく待ち続けた。何事も起こらない。それでももう少し待ってみた。そして程なく諦めた。ふくらはぎはまだ張っているけど、前よりはいい感じだし、今日のところはこれで十分だ。
Ian F. Blairは北カリフォルニア出身のライター
- 文: Ian F. Blair
- アートワーク: Gavin Park
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: May 21, 2021

