ニット ベストによる伝統の壊し方
Maison Margiela、Taiga Takahashi、Awake NYが知的に、創造的に見せる

ニット ベストといえば、まず思い浮かぶのが制服の定番として着用されてきたスクール ベストだ。白いシャツや紺のブレザーに合わせ、登校した記憶が甦る。規範や伝統は、重圧や束縛を招く一方で、自由への欲求を高め、新たな発想を刺激するものでもある。歴史の延長線上で、規範を破り、過去の衣服を更新し続けることで、ファッションは常に新しさを発見してきた。重圧、束縛の代名詞とも言えるニット ベスト。この普遍のアイテムを、現代のブランドはいったいどのように料理したのだろうか。さあ、世界の創造性を堪能する時間が、いま始まる。

モデル着用アイテム:セーター(Maison Margiela)
このニット ベストには、2つの伝統が見える。ひとつは、もはや伝説とも言える4本のホワイト ステッチ。もうひとつは、アメリカン トラッドを連想させるオレンジのラインだ。邂逅した伝統に、オーバーサイズシルエットが最後の味付けを施す。誰もが思いつくシンプルな手法で、服の在り方を変えるのも、Maison Margielaの伝統である。世界が新しい角度から見えた時、そこには伝統の力が掛け合わせられていた。

モデル着用アイテム:ベスト(Nothing Written)
ベストと呼ぶには、どこか違和感を覚える。それは、首元の詰まったネックラインと、カーブの浅いアームホールが、スクエアなシルエットを強調しているからだろう。まるでクルーネックニットから両袖を取り外し、身頃だけを取り残したような、潔さと荒っぽさが迫るアイテムである。これ以上、削ぎ落とせるものがないと思える服から、さらに削ぎ落とす。Nothing Writtenは極限のミニマリズムに挑む。

モデル着用アイテム:ベスト(Taiga Takahashi)
一見すると、トラディショナルなVネック ベスト。だが、レングスは幾分短く、アームホールも通常より深くえぐられ、ネックや裾のリブ幅も太い。ベストという普遍のアイテムに、既存のイメージを崩すことなく、違和感が植え付けられている。新時代のファッションが、破壊的で迫力あるものとは限らない。規範を超えることなく、規範に収まり表現される創造性もある。Taiga Takahashiが証明したもの、それは知性だ。

モデル着用アイテム:ベスト(Marni)
クルーネックのニット ベストと聞いた時、クラシック スタイルを頭に思い浮かべたとしても不思議ではない。しかし、Marniはその想像を裏切る。極めてベーシックなフォルムに編まれた柄は伝統のストライプ。だが、見慣れたはずの縦縞は、アヴァンギャルドな香りを醸していた。色はグラデーションを起こし、ストライプと言うにはあまりに幅が太く、本数は少ない。所々で垂れ下がる糸は、伝統が破壊された痕跡のようだ。

モデル着用アイテム:ベスト(Awake NY)
ファッションとは、華々しさを纏うものだと思っていないだろうか。そんなことはない。ファッションとは時に毒を纏い、それがとびっきりの魅力を放つことがあるのだ。チューリップという牧歌的でメルヘンなイメージを抱く花を、Awake Nyはパープルに染め、ニットを土壌にして、黒い大地に咲く花のように編み上げる。コンサバに思えたニット ベストは、毒によって新しさを開花する。

モデル着用アイテム:ベスト(The Row)
ある時代に美しかった服が、時を経て美しさを失う。美の基準を変えいくファッションでは、珍しいことではないが、調整と洗練によってモダニティを得たアイテムがここにある。上質さ漂うメリノ ウール、知性が匂うベージュ、そして寛ぎに誘う、緩やかで流れるシルエット。伝統のニット ベストは細部と全体を調整され、洗練を施された。移り行く時代という顧客に合わせ、The Rowはテーラーのように衣服を仕立てる。
新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している
- 文: Shigeaki Arai
- Date: September 1, 2021

