ジャケットはしっとりと軽やかに

The Row、Lanvin、LEMAIREが、気品を繊細に仕立てる

    厚く力強い肩パッド、袖口の開閉で着こなし方も変化できる本切羽、シルエットを硬く形作る毛芯など、ジャケットの構造には渋みと重厚さがあり、それが大きな魅力のアイテムだ。だが、ワードローブとしてテーラードを愛用する人なら誰しも、品格はそのままに、軽やかに生まれ変わったクラシックウェアを夢想したことがあるだろう。その願いを叶える才能が、モードには存在する。慎み深く表現することに長けたデザイナーたちは、伝統の服を、ライトでリュクスな1着へと仕立て上げる。

    モデル着用アイテム:ジャケット(Giorgio Armani)

    重厚なテーラードジャケットを、軽やかに仕立て上げ、メンズクラシックの歴史に革新をもたらしたデザイナー。それがジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)だ。モードの帝王は、コンパクトなジャケットで、自身の美学と時代の価値観を融合させる。ナチュラルラインを形作るショルダーが、軽い仕立てというブランドのDNAを表し、なだらかにドロップした肩先が、オーバーサイズが主流の現代を表している。

    モデル着用アイテム:コート(The Row)

    マニッシュなモノトーンカラーが特徴のザ ロウが、このロングアウターでは流れるようなフォルムを披露する。縦を強調する細く長いシルエット、首元と胸元をすっきりと見せるノーカラー、ビスコース混のリブ編み素材が生むドレープなど、どの要素もシックなスーツとは対極の柔らかさ。Ascena コートは、装飾性と距離を置くオルセン姉妹の美学が徹底され、ミニマルな美しさで佇む。

    モデル着用アイテム:ジャケット(At.Kollektive)

    デンマークの皮なめし工場発のプロジェクトAt. Kollektiveが、ワークなレザージャケットで手を組んだのはKostas Murkudis。ヘルムート・ラング(Helmut Lang)最初のアシスタントで、カルト的人気を博したドイツ生まれのデザイナー、コスタス・ムルクディス(Kostas Murkudis)は、衿のデザイン一つで、カーフスキン製のベーシックウェアに特異性をもたらす。誇張されたワイドカラーが、シンプルな形の服に確かな存在感を作り上げた。異才は今も輝いている。

    モデル着用アイテム:コート(LEMAIRE)

    フランスが拠点のルメールは、ステンカラーコートの基本を踏まえた上で、パリシックを袖口に一点集中させる。パリ オートクチュールのドレスは、服に生まれるドレープの美しさを世に知らしめたが、このグレーコートは手首に生地のドレープを生み出し、オーソドックな外観のアイテムを、しっとりとモードウェアに変身させた。ウィメンズ伝統の美しさを、メンズテイストあふれるコートに表すとは心憎い。

    モデル着用アイテム:ジャケット(Lanvin)

    無機質なフロントのスナップボタン、野暮ったさも滲ませるボックスシルエット、幅広い形が無骨な衿はまさにワークウェアだが、生地に使用されたポリエステルタフタは、マットな光沢でシックに輝く。タフな見た目のジャケットにも、創業ジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)のエレガンスが静かに息づく。

    カミラ アンド マークのデザインは、デザイナーの個性を前面に押し出すのではなく、着る人を引き立てる。厚みのあるショルダーラインと高いゴージラインは一見、硬質的な印象だ。だが、幅広のワイドラペルとフロントの一つボタンがゆったりとした雰囲気を与え、本来ならボタンが並ぶ袖口に入った、内袖の切り替え線から続くスリットというディテールが、モード性をひっそりと表現する。抑制された主張こそ、軽やかさの秘訣だ。

    新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』、『装苑』でも記事を執筆している

    • 文: Shigeaki Arai
    • Date: May 31、2023