仮想と現実:トロンプルイユで見せる
ジーンズの経年変化
Y/Project、Our Legacy、VETEMENTSが騙し絵をデザインする

かつては街中のストリートが、ファッションの発信源だった。だが時代は変わり、InstagramやTikTok発のスタイルが瞬く間に広がる現象は、ストリートのリアルが、物質世界だけでなくデジタル上にも存在することを証明する。あらゆるものがフラットになった世界では、服のデザインにおいても、アイテムの境界が曖昧になる。中でも注目すべきは、トロンプルイユとジーンズの組み合わせだ。ほどよく色落ちしたジーンズに見えて、素材はレザー100%。生地にダメージを与えるのではなく、糸のほつれをプリントしたジーンズ。仮想と現実の狭間を、騙し絵の橋が繋ぐ。今の私たちなら、その橋を自由に行き来できる。

モデル着用アイテム:ジーンズ(Y/Project)
Y/プロジェクト得意のツイストフォルムによって、青いデニム生地は畝り、波打つ。だけど、そこに激しさはない。褪せたブルージーンズの表情を眺めていると、穏やかな水面を見るように、心が穏やかになっていく。刻一刻と変化する毎日に、束の間の休息をもたらすボトムだ。

モデル着用アイテム:ジーンズ(Our Legacy)
ジーンズの褪せたブルーと味わい深いデニムのほつれは、トロンプルイユが再現したものだ。本物に見えたものが、本物ではない。だが、騙し絵プリントだからこそ、生地の色落ちとコンディションは、失われず保たれ続ける。いつか朽ち果てるリアルか、それとも美しさが永遠に続くフェイクか。アワーレガシーが問いかけてくる。

モデル着用アイテム:ジーンズ(VETEMENTS)
ヴェトモンは、インサイドアウトのテクニックを使い、ジーンズの裏側に隠れていた構造の美しさを伝える。今、目の前に見えているものが、唯一のエレガンスとは限らない。角度を変えて見た時、そこには何があるだろうか。モードの異端児と一緒に覗きこもう。

モデル着用アイテム:ジーンズ(rag & bone)
腰回りにフィットし、わずかなドレープを作りながら直下したシルエット。レーヨン素材だから実現した滑らかさを、トロンプルイユで表現したナチュラルなダメージプリントが際立たせる。古着にしか見えないラグ & ボーンのジーンズは、従来の厚く硬い綾織生地では叶えられなかったデザインを実現する、未来のデニムパンツだ。

モデル着用アイテム:ワンピース(Y/Project)
ワンピースとジーンズという相反する欲望を同時に満たそうとして、おどろおどろしい感情が胸中で渦巻く。そこから誕生したのが、二つの服を同時に着られて、かつ一方のアイテムを重ね着で隠さない服だ。ピンクとオレンジが混じり合い、怪しげさが漂うトロンプルイユ アイテムは、Y/プロジェクトの底なしのファッション欲を表現している。

モデル着用アイテム:パンツ(Bottega Veneta)
素材は丈夫であるにも関わらず柔らかく、新しい服でありながらヴィンテージの趣がある、ボッテガ ヴェネタのアンビバレントなジーンズ。レザー100%が堅牢な強度と柔らかな質感をもたらし、褪せたブループリントがユーズドの色落ちを視覚化する。実験的要素を覆い隠すリアルパンツを作る鍵となったのは、トロンプルイユによるオーソドックスな表情である。

モデル着用アイテム:ジーンズ(Balmain)
バルマンは、これまでドラマティックなメンズウェアを発表してきたが、ファッション伝統のカジュアルアイテムでも、挑戦を恐れない。ジーンズ全体に施されたドレープを寄せた布のプリントは、その布を腰に巻く人間の脚にも見えて、想像は古代ギリシア人の服装にまで膨らんでいく。ブルートーンのグラフィックが、歴史上の衣服を現代に再現する。

モデル着用アイテム:ジーンズ(Diesel)
ディーゼルのクリエイティブ ディレクターを務めるグレン・マーティンス (Glenn Martens)は、人間の体を妖艶に見せることに長けたデザイナーだ。日常着であるはずのジーンズが、メイクアップされていく。ハイウエストのコルセット風パネル、極端に浅い股上が肉体のラインを強調し、オパール加工による強烈なダメージデニムが生々しい。布地が脚を包んでいるというのに、ランジェリーから覗く脚を思わせる艶が迫ってくる。
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新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』、『装苑』でも記事を執筆している
- 文: Shigeaki Arai
- Date: August 2, 2023

