プリントTシャツと異端の感性

Molly Goddard、Martine Rose 、Marniが見せるグラフィックの幻想世界

    動物がかわいい。植物が美しい。服に描かれたさまざまなグラフィックで、アイテムの魅力が一層増して見えるのは、いたって普通の感覚に違いない。しかし、広い世界を世界を眺めてみると、既成概念に囚われない美意識の存在に気づく。華やかで麗しいフラワープリント、ミニマムなブランドロゴだけが、私たちを虜にするわけではない。怪しげで、違和感があり、必ずしも美しいとは言えない異端の感性を身に纏う。これもまた、グラフィックの魅力の一面なのだ。

    モデル着用アイテム:Tシャツ(Molly Goddard)

    月夜に木のもとで眠るウサギたち。パープルに染まった夜空は靄がかかって怪しげで、枯れた1本の木は、宇宙から飛来した未知の生物にも見える。安らかな動物たちの身に危険が迫っているのではないか。そんな不安を駆り立てるグラフィックTシャツだ。反逆精神と遊び心が特徴のウィメンズウェアで高い評価を得るロンドンの奇才、モリー・ゴダードはメルヘンワールドに毒を盛り込むことで、ミステリアスなメンズウェアの世界を創造する。

    モデル着用アイテム:トラウザーズ(ERL)

    トラウザーズのフレアシルエットに漂うフォークロアな香りは、古着屋で見つけたジーンズのようで懐かしいが、そんなノスタルジーは、コットンキャンバスを埋め尽くすスカルに吹き飛ばされる。ロサンゼルスのエネルギーをファッションへと具体化するERLは、禍々しさをパワフルでポップな美に変える。

    モデル着用アイテム:セーター(Martine Rose)

    反体制をビジョンに掲げるマーティン・ローズの手にかかれば、儚く華麗な花もキッチュでパンクなグラフィックになる。淡いオレンジとフリースの毛羽立つ素材感、ダイナミックに大きくプリントされたピンクやブルーの花びらや葉。柔らかなパステルカラーがより一層、人工的で毒々しい造花のイメージを掻き立てる。「花は美しいものだ」というのもまた、ひとつの先入観なのだ。

    画像のアイテム:トートバッグ(Marni)

    重々しく塗られたピンクやブルー、パープルが、暗く沈んだトーンでコットンキャンバスを覆い尽くす。MARNIの文字はわずかに傾き、アンバランスに配置されている。鮮やかで明るい色彩や調和の取れた構図、洗練されたロゴといったマルニ従来の美しさとは一味違うグラフィックだが、これもまた、フランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)の脱構築の美学を反映している。

    モデル着用アイテム:シャツ(Sky High Farm Workwear)

    スカイハイ ファーム ワークウェアは、食べ物の表現に一癖も二癖も加える。17世紀オランダの静物画のような精緻さで、野菜や果物を写実的に描き、それを写真のインデックスプリントのような構図で配置した。農業を行う非営利団体が母体となるブランドは、生地を覗き込むことで、みずみずしい野菜や果物の存在をかろうじて確認できるシャツを作り出した。食糧不安という社会課題は、目を凝らして見る必要がある。

    画像のアイテム:ラグ(Curves by Sean Brown)

    ヒップホップシーンに名を轟かせるアウトキャストのロゴマーク、アンドレ3000の名曲『The Love Below』、穴のあいた円形という要素を見れば、このアイテムからイメージされる大きさはCDサイズだろう。しかし、実際には89 cm x 89 cmの寸法で作られたラグなのだ。カーブス バイ ショーン ブラウンは、物質に付随したイメージを逆手に取り、SSENSEと共にトリックを仕掛けて人々を惑わす。

    新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』、『装苑』でも記事を執筆している

    • Date: December 15, 2022
    • 文: Shigeaki Arai