2023秋冬ファッションウィークの
幻滅と希望

コミュニティ志向のデザイナー、
企業のリーダー、クールなキッズは、
4都市で開催されたファッションウィークに
何を見たか

  • 文: Steff Yotka

パリ ファッションウィークの最終日に、ガリエラ美術館では、ファッション史最高の年に数えられる1997年をテーマにした「1997 ファッション ビッグバン」展が始まった。あいにく労働者ストライキのために私は訪れることができなかったが、『ニューヨーク タイムズ』のエリザベス・ペイトン(Elizabeth Paton)と『Vogue』のエイミー・ヴァーナー(Amy Verner)の詳細な記事を読むと、1997年がファッション史の極めて重要な年とされる理由も納得できる。1997年は、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)がChrisitian Diorのクリエイティブ ディレクターに迎えられ、川久保玲が独創的なギンガム ドレスを創作し、ジャンニ・ ヴェルサーチ(Gianni Versace)がマイアミの別荘前の階段で殺害された年だ。ふたつの世界大戦に挟まれた時期には、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)がニュールックをデザインし、エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)とココ・シャネル(Coco Chanel)が女性のドレスで競い合ったものだが、それ以後活力を失って久しかったファッション界が、華々しく拡大と進化を遂げた年だったのである。

それほどまでに圧倒的な展示が2023秋冬シーズンの最終日に始まったのは、皮肉としか言いようがない。なぜなら、エディター、バイヤー、モデルはもちろん、デザイナーたちでさえ、2023秋冬シーズンは「過去最悪」かもしれないという意見で一致していたからだ。

元来辛辣であることを好むファッション業界人だが、それだけではない。ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリのすべてで、精気が感じられなかったのだ。パンデミック前のファッション界が、北極星のごとく揺るぎない存在として仰ぎ見たデザイナーたちは、もはやいない。Off-WhiteとLouis Vuittonのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は逝き、Gucciのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は去り、Balenciagaのデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)はQアノン絡みのスキャンダルで混乱に巻き込まれていた。2010年代後半のショーが売り物にしたセレブな招待客、大掛かりな舞台、バイラルを目論んだ演出はもはや陳腐と化した。観客は、インターネットに投稿する若い世代のファッション コメンテーターと、一家言を持つ保守的なファッション批評家に分断され、いくつかの反目も噴出した。

だが、希望の光もある。Bottega Venetaのマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)、トム・ブラウン(Thom Browne)シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)リック・オウエンス(Rick Owens)Eckhaus Lattaのマイク・エコーズ(Mike Eckhaus)とゾーイ・ラッタ(Zoe Latta)、Pradaのラフ・シモンズ(Raf Simons)とミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)、アーデム・モラリオグル(Erdem Moralıoğlu)Proenza Schoulerのジャック・マッコロー(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)、Kiko Kostadinovのローラ&ディアナ・ファニング(Laura and Deanna Fanning)は、独自のスタイル言語をさらに押し進めて、その他大勢と一線を画した。ファッションが次に向かうのは、おそらくそこだろう。SSENSEのトム・ベトリッジ(Thom Bettridge)がメンズウェア シーズンを総括してファッションのハイパーニッチ現象を予見したように、これからのトレンドは、均一化された目標を拒絶し、カルト信者のごとく特定のブランドを崇拝する方向へ向かうと思われる。

それを証明したのがComme des Garçonsのデザイナー陣だ。3月4日に発表されたComme des GarçonsJunya WatanabeNoir Kei Ninomiyaのショーを観て、あるエディターは「これでファッションへの信念が回復された」と安堵した。

ぜひ、そうであってほしい。

中間の欠落

ファッションは時代を写す鏡だ。したがって、社会があらゆる形で両極へ近づきつつある現在、ファッション業界もそれに倣う。新進デザイナーと大企業が後ろ盾のベテラン デザイナー、新しい世代と旧来の保守派、愛を目指す集団と利益を目指す集団のあからさまな対比を、2023秋冬ショーほど強くと感じたことはかつてなかった。タリア・バイア(Talia Byre)のように、知り合いのワインバーを借りた会場で、友人や家族をモデルにしたデザイナーもいる。かと思えば、LVMHやKering傘下のブランドは、スーパーボウルのスタジアム規模の会場を使う。

デザインも両極に近づいた。片や危なげのないテーラリング、片や思いっきり実験的なシルエット。中間はどこへ行ったのだろう? 興味を刺激し、美しく、普通であるようで普通ではないウェアは、収益面の成功か話題を呼ぶ奇抜さのどちらかを選ばざるを得ないプレッシャーの下で、根絶やしにされてしまった。とは言え、時代の圧力に耐え抜いているブランドもある。Simone Rocha、Kiko Kostadinov、KNWLS、そしてRick Owensでさえ、創作とビジネス両面での大きな目標と私たちの慎ましい現実を調和させている。レイチェル・タシジャン(Rachel Tashjian)は、Rick Owensのショーについて、『ハーパーズ バザー』で次のように書いている。「世界から幸せとインスピレーションが枯渇したように感じるとき、賢明な人は、ただ『つまらない』ではなく、何か違うことを言い続ける責任がある」

両手塞がり、それともハンズフリー?

Rick Owensのショーの舞台裏で、モデルたちに携帯を渡してセルフィーを撮ってもらおうとすると、ひとりが笑いながら「ごめんね、私たち今、手が使えないの!」と言う。彼女たちが差し出した手はどれも、長い袖や長い手袋に覆われていた。ただし公平を期すために言っておくなら、Rick Owensの手袋は人差し指と親指の指先がカットされているので、携帯の操作に支障はない。重荷に取り組んでいるファッション界は、物を持ち運ぶ行為すらファッション表現に変えてしまう。モデルがコートの前を手で押さえていたDries Van NotenThe Rowのスタイルは、エレガントだった。スカートの片側を引き上げてショルダーバッグの上にドレープさせたBalenciaga、同じく引き上げたスカートのパッチ ポケットがバッグになるSacaiは、グッド アイデアだった。いちばんの変わり種はもちろん、Lila Mossのバッグを携えてランウェイに登場したBoston Dynamicsのロボットだ。普通は物々しい武器を搭載されるロボットにとって、嬉しい変化だったに違いない。

言葉を交わそう

ミラノ ファッションウィークの終わりに、セントラル セント マーチンズ校のファッション誌『1Granary』でアヤ・ノエル(Aya Noel)が「ファッションウィークはなぜこれほど気まずいのか?」と題する記事を書き、ファッションが仲間を基盤とする活動から企業の世界へ変わってしまったことを指摘している。ショーの最前列に座りながら、大量のSlackメッセージとiPhone通知に溺れて、隣の席の人と言葉も交わさない人たちの世界だ。デザイナーのサイモン・アングレス(Simon Ungless)が言うには、「僕とファッションの世界が出会うのはダンス フロアだった。ジョン・ガリアーノに会ったのも、就職の面接ではなく、パーティーだった。以前はそういう具合に物事が進んでいた」。『i-D』に掲載されたオスマン・アーメド(Osman Ahmed)によるラフ・シモンズ、ピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)、マチュー・ブレイジーのインタービュー記事でも、ファッションが仲間的活動ではなくなったと言及されている。「僕らはスタジオで共同生活だったよ。マチュー、君が仲間になってからは、夜みんなで出かけたよね。スタジオで一緒に夕飯をたべることも多かったし」と、ミュリエは回想する。今のファッションは冷ややかなビジネスだ。でも愚痴を並べていても仕方ないから、私はショーで席が隣り合った人たちに必ず話しかけ、全部のパーティーに顔を出し、現状に少しでも温かい息吹を取り戻す使命に励んだ! 知人であれ初めての人であれ、会話から拾うちょっとした情報は記事のタネにもなる。今ここで、私は仲間たちに呼びかけたい。ファッション業界はまだロボットに動かされてはいない。ファッションを作っている人たちのことをもっと知ろう。

スーツに何が起こったか?

2023秋冬シーズンで大きく目立ったトレンドは、テーラリングだ。色はブラック。ビジネス的に無難だし、スタイルの観点からも申し分ない。テーラリングの大躍進がもたらす朗報は、広範なマトリクスに広がる多種多様な選択肢から、好みのスーツスタイルを選べることだ。

ディラーラとキッチンとナイフ

皿、フォーク、スプーンといったキッチン用品がランウェイでデビューを飾れたのは、S.S.DaleyDilara FındıkoğluHODAKOVAのおかげだ。キッチン テーブル ファッションをもっと追求したければ、Puppets and Puppetsのクッキー バッグやAreaのバナナ ドレスがある。

生き物を狩り、生き物に憑りつかれる

ロンドン ファッションウィークの幕が下りるまでに、ファッションは思いのままに生き物たちを使い尽くした。Collina Stradaはトカゲ顔のマスクを作り、[Christopher Kane](はAIでヒヨコやネズミのプリントを作った。ファンタジー寄りのミラノでは、Bottega Venetaのマチュー・ブレイジーが人魚を連想させ、Paco Rabanneがドレスにサルバドール・ダリ(Salvador Dalí)のシュールな作品をあしらった。ファッションの森には数多の動物と妖精が息づいている。お好みを探すには、私たちが作成したベン図をご参考にどうぞ。

ペニスの定理

ニューヨーク ファッションウィークの最初の5日を観るだけで、ランウェイ上のジェンダーの不均衡がまざまざと浮き彫りになった。ショーのオープニングに登場した女性モデルは、全身シアなキャットスーツにスティレット ヒール。一方のメンズウェアは、オーバーサイズで全身を覆い隠している。ふ〜む。ヨーロッパへ場所を移しても同じこと。ともかく露わな乳房が群を抜いて多かった。そこでお願いがある。乳房ひとつにつき、ペニスひとつを見せてもらえないだろうか? 不公平だとは言わせない。米国映画協会は乳房とペニスを同等に見なし、R指定映画にはどちらも認められているのだ。現在までのところ、稀有なデザイナーは2015秋メンズウェア コレクションでペニスを見せたリック・オウエンスだが、後少しのところまで近づいたデザイナーは他にもいる。ディオン・リー(Dion Lee)Y/Projectのグレン・マーティンス(Glenn Martens)はあらゆるジェンダーにシアなウェアを着せ、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はJW Andersonのショーでマイケル・クラーク(Michael Clark)のペニス アートを使った。グレン・マーティンスはミラノのDieselのショーで20万個のコンドームを山積みにし、4月から計30万個のコンドームを世界中の店舗で配布する予定。

要注目のハイパーニッチ トレンド

最後は、2023秋冬シーズンにとりとめのない判断を下す代わりに、SSENSEのハイパーニッチな世界で注目のマイクロ トレンドをご紹介したい。例えば、アレックス・コンサーニ(Alex Consani)をご存じだろうか? 思わず笑ってしまうアンファッショナブルなファッションはお好きだろうか? 2023秋冬シーズンで気になったアイデアをよく理解し、自分に選んだトレンドを是非SSENSEに教えてほしい。

  • 文: Steff Yotka
  • 写真: Off-White FW23 Eva Losada
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: March 10, 2023