ソリューション志向の
Arnar Már Jónsson

詩的な機能性、クラフトマンシップ、問題解決の精神を、中間の場所からデザインする

  • 文: Eliot Haworth
  • 画像/写真提供: Arnar Már Jónsson

ヴィクター・パパネック(Victor Papanek)は1971年の著作『生きのびるためのデザイン』の冒頭で、「デザインとは叙事詩を書き、壁画を制作し、名画を描き、協奏曲を作曲することだ。また、机の引き出しを整理整頓し、正常に歯茎から出てこない歯を抜き、アップルパイを焼き、草野球のチームを作り、子供を教育することでもある」と定義した。このように、人と物の濃密なマトリクスとして、過激に拡張したデザイン観から衣服を作り出すのがアルナル マール ヨンソン(Arnar Már Jónsson)だ。

共同経営者は、ブランド名になっているアルナル・マール・ヨンソン(Arnar Már Jónsson)とルーク・スティーブンス(Luke Stevens)。アイスランド出身のヨンソンはレイキャビク、英国出身のスティーブンスはロンドンにそれぞれ在住している。ロンドンのロイヤル カレッジ オブ アート時代に出会い、2017年にArnar Már Jónssonを立ち上げて以来、ふたりはテクニカルとラグジュアリーの境界線を歩む機能的かつ詩的な衣服を誕生させてきた。丈夫でリバーシブル、しかも肌触りが優しく、アイスランド原産の植物で手染めしたアウターウェアを思い描いてほしい。薄く軽く柔らかい軍用グレードのベンタイルや高密度のバージン ウールなど、ファブリックは非常に慎重に調達され、仕上げまでに何百時間を要することもある。ソリューションを見つけ出す直感や喜びと相まって、研究は何年も続けられる。多くはそのように綿密なプロセスの成果であるArnar Már Jónssonの製品は、スタイリストのマックス・ピアメイン(Max Pearmain)をはじめとし、忠実なファンを瞬く間に獲得した。『Arena Homme+』の元編集者だったピアメインは、現在ではArnar Már Jónssonの主要なコラボレーターだ。

話していると、裁断、製造、生産の過程に対する強烈な好奇心と探究心がふたりを突き動かす原動力であることが、よくわかる。彼らの関心は、美学、衣服の象徴的な意味、サブカルチャーのトライブ意識にわたり、経済体制、社会制度、歴史上の先例、推測される未来に目を向ける。そう、衣服ではまったくない。家具や庭園の設計、あるいは仕事の週間計画作りだっていいのだ。ヨンソンとスティーブンスンによれば、何事も最後は2つの問いに還元される。僕たちはどのように生きるべきか? 今日必要なものは何か?

左右の画像:写真 Eddie Whelan。冒頭の画像:写真 Eddie Whelan。

エリオット・ハワース(Eliot Haworth)

アルナル・マール・ヨンソン(Arnar Már Jónsson) & ルーク・スティーブンス(Luke Stevens)

エリオット・ハワース:ふたりが今いる場所は?

アルナル・マール・ヨンソン:僕は、レイキャビクの街中にある僕のスタジオ。
ルーク・スティーブンス:僕はロンドン。自分の寝室にいるよ。

地理的な距離は、仕事にどう作用してる?

AMJ:仕事を進める上での大きな要素になってるな。コンセプトを作る必要がある初期の段階は、アイスランドの静けさがプラスになる場合が多い。ふたり揃って同じスタジオにいて、生産のことでイライラしてたら、あまり効果的な仕事はできないんじゃないかな。
LS:僕の方は、製造業者と会って、工程を理解したり技術を開発したり。僕たちは、デザインに関してとても流動的に役割を分担するし、シーズンごとに交代することもある。
AMJ:僕たちのやることは、コンセプトとテクニックのレベルでの徹底したリサーチとソリューション、そして現在作る必要があるものは何か? という疑問から導き出されるんだ。作る理由のないものは作らない。ソリューションを見つけて問題を解決すること、それがデザインだ。

左の画像:アルナル・マール・ヨンソン 写真:Baud Postma。右の画像:ルーク・スティーブンス 写真:Baud Postma。

問題解決を実例で教えてくれるかな?

AMJ:2021秋冬シーズンで発表した、特殊なバージンウールのフリース。僕たちはフリースが大好きだけど、汗をかくし、とかく薄すぎたり厚すぎたりで、なんだか鬱陶しいんだよね。そういう問題点を解決しないことには使えないから、フリースに似てるけど本当はバージン ウールという素晴らしいファブリックを探し出した。パイル構造に通気性があるから、冷たい空気を遮断して体温を閉じ込める。アウターとしても下着としても使えて、天然の耐水性が備わっている。長いあいだ探していたけど、そういうファブリックがようやく見つかったんだ。とてもいいソリューションを実現できたと思う。

デザインの機能面は別として、ふたりのやることには象徴的な側面もあるね。アイスランドで手摘みした植物で染料を作るとか…。

AMJ:ああ、ジャケットの染色に使った染料ね。自然でオーガニックな生産工程を使いながら、非常に高機能でテクニカルなジャケットを作りたかったから。早い話、天然染料エキスと普通の防水加工を使ってもよかったけど、機能性と技術だけのものは作りたくない。だから380時間をかけて染料を作ったんだ。その後、手作業のワックス処理に100時間。手で摘んで、手で染めて、手でワックスをかける。そういうふうに長い時間をかけて製品を作ると、とてもリアルで物理的な繋がりが生まれる。
LS:実際に現場で関わる。それが僕たちのやり方の本質なんだ。

ロイヤル カレッジ オブ アートはすごく産業デザインが強いし、建築学科も充実してるよね。そういう学校で学んだことで、デザインを幅広く考えるようになったのかな?

LS:それは絶対にあるね。僕たちが応用するデザイン理論は全部、製品デザインや産業デザイン、建築、物体の関係性に関連してる。基本的なことだけど、ファッションのデザインでは見逃されることが多い。
AMJ:僕なんか、ファッション デザイナーと言えるかどうか。決してファッションを否定してるわけじゃないから誤解しないでほしいけど、ファッションは時として、ソリューションよりもアイデアと美学を重要視した産物だよね。その意味では僕たちがファッション デザイナーを名乗れるのは嬉しいことだけど、全体的に考えると、僕たちは産業デザイナーや製品デザイナー的に思考するほうがずっと多い。両方の間の場所にいるわけだ。

左右の画像:写真 Eddie Whelan。

その「両方の間の場所」について、もっと聞きたいな。君たちふたりの活動は、中間の感覚であることが多いように思う。ロンドンとアイスランドという文字通り地理的な距離もそうだし、100%都市志向でも100%自然志向でもないし、製品デザインとファッション デザインの中間的なプロセスで衣服を作る。何が君たちを中間の領域に引き寄せるんだろう?

AMJ:単に、人間であることの複雑さに対応するとそうなるんだと思う。多様な機能を備えたものを作るには、どうすればいいか? アウトドア用だけど、都会でも使えるものをデザインするには、どうすればいいか? 僕たちは色々な目的に使えるものが好きなんだ。それに僕は少しばかり天邪鬼なところがあるから、これとかあれとか、何かひとつにきっちりした分類に逆らいたくなるんだよ。

どういうところを目指してるの?

AMJ:衣服のデザインよりもっと先へ進んで、ほかのやり方を編み出したいと思ってる。いつか、家や椅子や車をデザインすることだってありえるな。

左右の画像:写真 Eddie Whelan。

最近、ロンドンの高級百貨店セルフリッジズでポップアップのプロジェクトをやったよね。セルフリッジズはかねがね単なる店舗を超えたクリエイティブな空間づくりを目指しているから、君たちと繋がるのはとてもよくわかる。そして君たちは、そのポップアップを、モジュール式家具をデザインするチャンスとして利用した。ポップアップの後は自分たちのショールームでも使える家具という点でとても実用的だったし、同時に刺激的でもあった。巨大デパートとその販売サイクルというインフラを呼び物にして、ハイジャックしたんだから。

AMJ:ポップアップは、販売に向けて開かれた窓が3週間後には閉じられる運命だ。それをどう考えるか? どうアプローチするか? 純粋にマーケティングと販売のチャンスとして使うのではなく、なんらかの意義と長期的な成果を作り出すにはどうすればいいか? こういう問いかけは、衣服だけでなく、他の媒体で模索したほうがいい場合もある。
LS:全部のアイデアをジャケットに詰め込むのは、かなり難しいからね! 服と服を吊るす家具をひとつの連続した繋がりとして提示できたのは、とても素晴らしかった。僕たちにとっては、両方とも、Arnar Már Jónssonというブランドが問いかけ、模索し、行き着いた答えであり、両方に等しい価値がある。
AMJ:そういうやり方考え方だから、僕たちは将来に向けて常に情熱を持てるんだ。残りの人生ずっとジャケットとトラウザーズだけをデザインするなんて思ったら、パニックで発作が起きるよ。

Eliot Haworthはロンドン出身のライター、エディター。動物学の経歴があり、現在は『Fantastic Man』のデピュティ エディター。ジャーナリストとして『The Observer』『The Telegraph』、『The Business of Fashion』、『MacGuffin』、カルチャー コメンテーターとしては『Monocle Radio』、『ShowStudio』、『The Financial Times』、『The New York Times』、『The Guardian』、『Die Welt』の仕事をした経験がある

  • 文: Eliot Haworth
  • 画像/写真提供: Arnar Már Jónsson
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: November 17, 2021