Coperniで未知との遭遇

フランス生まれのブランドが持ち前のテクノロジー志向でSFとファッションを融合した2024年秋冬コレクション

  • 文: Sara McAlpine
  • 写真: Adam Powell

「『マトリックス』みたいに」と言うのは、Coperniの共同設立者兼クリエイティブ ディレクターのセバスチャン・メイヤー(Sébastien Meyer)だ。間もなく発表される2024年秋冬コレクションの話ではない。もうひとりの共同設立者でありメイヤーのパートナーでもある、アルノー・ヴァイヤン(Arnaud Vaillant)と一緒に飼っている愛犬の話だ。7歳のすばしこいイタリアン グレーハウンドの名前はネオ。キアヌ・リーブス(Keanu Reeves)が艶やかな黒髪をなでつけて演じた『マトリックス』の主人公に因んでいることは、言うまでもない。

だがそう聞いても、まったく驚かない。パリ生まれのCoperniは近年のシーズンでテクノロジーの妙技を見せつけ、見出しを賑わし、知名度を高めているからだ。化学として開発された液状ファイバーをベラ・ハディッド(Bella Hadid)に吹きつけてドレスを作り、ランウェイではスーパーモデルたちと一緒にロボット犬を歩かせ、文化とAIにまつわる対話が最高潮に達する前に、早々と自分たちのファッションにAIを採り入れた。これらすべてが、インターネット界で膨大な数の「いいね!」と閲覧に繋がった。

最先端の議論や動向はデジタル イノベーションの分野に限定されているものだが、Coperniはそれらを敏感にキャッチし、創作の世界でテクノロジーに大きな役割を与える。さほど本気のテクノロジー志向でなければ、短命で美学的にも疑わしい非代替性トークン(NFT)の世界へ用心深く足を踏み出す程度だったろう。だがCoperni Femmeとしてスタートを切った2013年以来、Coperniの基盤は常に、ルネッサンス時代の天文学者にして数学者ニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus)に敬意を表することだ。「僕たちはこの世界で色んな情報に触れるのが好きだけど、焦点はあくまでファッション」とヴァイヤンは言う。

「だが科学を超えた領域に目を向けない限り、そこに何があるのかはわかりませんからね」

2024年秋冬ショーがパリで開催される数日前、メイヤーとヴァイヤンに会った。一連の成功に、ふたりは意気軒昂だ。EvianやPUMAなど、有名ブランドとのコラボで世界中のメディアに注目されたし、ビヨンセ(Beyoncé)のために『ルネッサンス ワールド ツアー』の衣装をデザインした。馬に跨って空中に浮いたビヨンセが着ていたのは、Coperniがレーザーカットを駆使したケープと手縫いのボディスーツだ。Coperniは「ガールズ ブランド」としても評判が定着している。ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)、デュア・リパ(Dua Lipa)、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)もファンだというから、まさに「イット ガール ブランド」だ。セレブたちのファッションを紹介するサイトにも、枚挙にいとまがないほど登場する。Coperniのスタイルはそれほどにファッショナブルで、隙がなく、カッコいい。マイクロなミニスカート、長いラインが美しいジャケット、スポーツウェアを意識したボディスーツはとにかくセクシーだし、流れるようなサテンのスリップドレスやアスレチックなアウターウェアはとても着心地がいい。

「本当にお洒落で楽しいブランドなのよ。セクシーな要素もたくさんあるけど、落ち着いた大人の女性の気分にしてくれる」と激賞するのは、フランスのインフルエンサーであり、『ELLE』のコントリビューティング エディターでもあるカミーユ・シャリエール(Camille Charrière)だ。ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)も、最近、2024春夏コレクションにあったトライアングル カットアウトのドレスを着ていた。残念ながらコメントはもらえなかったが、「メタルのアクセントが肌に触れるとひんやりしてて、いい気持ち」という表情だ。では、来るべき2024年の秋冬シーズン、世界でいちばん写真を撮られ、いちばんフォローされる女性は何を着ているだろう?「今までと少し違うよ」と言うヴァイヤンは、新しい表現にちょっとばかり鼻が高そうだ。

具体的には、2024年秋冬シーズン、テクノロジーへの執着は地球の外へ飛び出した。Coperniのスタジオからして、巨大で、ガラスの屋根に覆われ、飛行機の格納庫みたいだ。その白い壁面に2メートル近い高さのムードボードが立てかけられ、さまざまなSFの資料で覆い尽くされている。スティーヴン・スピルバーグ監督作『未知との遭遇』(1977年)のポスター、ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)が出演したM・ナイト・シャマラン(M. Night Shyamalan)監督作『サイン』(2002年)のスチール写真、飾り気のないローマン カラーのブラック ジャケットを着た『ガタカ』(1997年)のユマ・サーマン(Uma Thurman)、その他その他。

「すごくSFなコレクションだよ。エイリアン、UFO、Xファイル…」とメイヤーが意気込んで説明すると、「セバスチャンは陰謀論やUFOの本をたくさん読んだんだ」とヴァイヤンが続ける。例えば、地球は「異次元の種族」に支配されていると説いて物議を醸したデイヴィッド・アイク(David Icke)の『マトリックスの子供たち』、ジャック・ヴァレ(Jacques Vallée)の『現象の解剖学』。興味のある人は、ぜひ一読を。

SFをファッションで表現した2024年秋冬コレクションには、チラチラと煌めくルレックスのニット、着やすいメタリックのセット、シルバーの宇宙服をウエストで裁断したようなハイカラーのスポーツ ジャケットなどが登場する。光沢のあるナイロンとブラック サテンやエナメル ブーツとの組み合わせがとても印象的だ。Coperniらしく、クラシックなタフタのドレスに空飛ぶ円盤みたいなリング状のスカートをつけたデザインには、クチュールの緻密な感性がある。ミニマリズムのほっそりしたシルエットは、ブランドが誕生したときからファンの多いシグネチャのひとつだ。「長いラインで体にフィットさせたカットが、すごく『ガタカ』的」とヴァイヤンは説明する。ブラックのほか、爬虫類のリサイクル レザーを使ったパッチワーク バージョンもある。「ゴジラみたい」とメイヤーは言うが、彼にとってもヴァイヤンにとっても「ゴジラ」は新鮮なのだ。

だが、そこはCoperni。ウェアに採り入れたものであれ、ショーの呼び物となるアクセサリーであれ、思わずスクロールの手が止まるテクノロジーの驚きなくしてCoperniのコレクションはありえない。

2023年春夏コレクションの最後には、ヌードカラーのアンダーウェアだけを身に着けたベラ・ハディッドに、化学者マネル・トレス(Manel Torres)が開発した白色の液状ファブリックを吹きつけた。2023年秋冬コレクションのランウェイには、米国を拠点とするエンジニア集団Boston Dynamicのロボット犬が登場し、舞踏家エリック・クリスティソン(Eric Christison)の振付にしたがって動き、ライラ・モス(Lila Moss)がバッグを口にくわえさせる場面がバイラルになった。この前のシーズンは、CD Walkmanバッグとナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)が着けたHumane Aiピンで幕を下ろし、世界中の見出しを飾った。ちなみに、AiピンはAIアシスタントとやりとりできるウェアラブル デバイスだ。さて、少なくともスタイルの面ではこれまでよりはるかに抑制されている、今シーズンの呼び物は? 空気、そう、私たちが呼吸する空気で作られたハンドバッグだ。

メイヤーとヴァイヤンがデザインしたシグネチャのSwipeバッグは、これまで同様、2024年秋冬シーズンにも登場する。だが、ショーでは、非常に特別なエディションが紹介された。材料のエアロゲルはNASAが宇宙塵を採取するために開発したもので、99%が空気という地球上で最軽量の固体だ。

「あの物質の研究で有名なイオアニス・ミカロウス(Ioannis Michalous)と、共同で製作したんだ。たまたまGoogleで彼のことを知って、Swipeバッグを作れないか問い合わせたのが始まり」と言いながら、ヴァイヤンはガラスの容器を取り出す。中には、リン光のように輝く、バウンスボールみたいな球体が入っている。「信じられないだろ。本物の空みたいだ」。さて、「Swipeバッグを作れないか」という質問に、ギリシャ人科学者は「イエス」と答えたか? 実のところ、確約は得られなかった。ミカロウスはファッションとテキスタイル デザインも学んだ経歴の持ち主だが、それでも、やってみるまで確信は持てなかった。完成にこぎつけたのは、2か月にわたって9回の試作を経た後だ。27cm×16cm×6cmのバッグは、それまでにエアロゲルで作られた最大の大きさだった。

「作製は非常に大きなチャレンジでしたよ」。ベルグラードからパリにあるCoperniのスタジオまで、自らプロトタイプを届ける途上でミカロウスは語った。「科学は調合にしたがう必要があります。さもないと目の前で弾けてしまう」と、低い声で「ボン」と爆発音を真似て笑う。初めてバッグを目にするのは「感動」の瞬間だった。「エアロゲルの見方が変わりました。僕の視点はあくまで科学だし、用途については、ナノサイエンスの専門家たちとよく話し合います。だが科学を超えた領域に目を向けない限り、そこに何があるのかはわかりませんからね」。メイヤーとヴァイヤンにすれば、それこそがCoperniでファッションを超える原動力だ。

「Coperniをプラットフォームとして考えたいときもある。科学やテクノロジーの領域から専門家を招いて、協力して、彼らの研究を異なる分野の人たちとシェアするんだ」。そう語るヴァイヤンの頭には、彼もメイヤーも、両親が医者の家庭に生まれながらファッション デザイナーになった背景がある。「僕らは命を救わないから、その代わりに、楽しさを与えたい」

話題性と科学はともかくとして、スーパースターたちの御用達になったパーカー、たくさんポケットがあるパンツ、ジャージのセパレーツと同様、エアロゲル バッグも機能を蔑ろにしてはいない。内側には、 iPhoneや鍵など、必需品がぴったり収まるポケットまである。ただひとつ、お値段だけは大衆の手に届かない。おまけに1点限り。ビーバー、リパ、ジェンナーのうち、争いに勝利して、最初にエアロゲル バッグを手にするのは誰だろう?

少なくとも、私たちには普通のSwipeバッグがある…。

Sara McAlpineはロンドンとパリを拠点とするライター、エディター

  • 文: Sara McAlpine
  • 写真: Adam Powell
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: March 7, 2024