レイチェル・チャンドラーと 「リアル」の志向

写真家 兼キャスティング ディレクターが顔の未来を語る

  • 文: Zoma Crum-Tesfa
  • 画像提供: Courtesy of Midland Management & Casting

ファッション フォトグラファーの仕事の一環としてキャスティングをするうち、Balenciagaや[Hood By Air]のモデル探しを引き受けるようになったレイチェル・チャンドラー(Rachel Chandler)は、昨年、パートナーのウォルター・ピアス(Walter Pearce)と共同でモデル事務所「Midland」を立ち上げた。リストに名を連ねる「アマチュア モデル」は、インスタグラムをはじめとする民主的なメディア発信源がファッションにおけるイメージ作りの速度や印象が変えてしまった現状においては、特別な意味合いを持つ。すなわち、より大量に、より速く、よりリアルに。とりわけ最後の「よりリアル」は、いちばん捉え難い。ブランドはこぞって「リアルな女性」を注文するが、この「名状しがたい属性」を定義することは、チャンドラーでさえ不可能だと言う。フォトグラファーとしての彼女は、街中で自分やパートナーのピアスを思わず立ち止まらせるような若者に魅かれる。「私たちがマネージメントするのは、存在感を信頼できる若者たち、写真に撮られるに値する若者たちよ。フルタイムのモデルはひとりもいないわ」。チャンドラーは言う。「この仕事で、私のモデルたちは大きな満足を得ることができる。一文無しの子に向かって、今から1万ドル稼ぐのよ、なんて教えるのはちょっとしたもんよ」

ゾーマ・クルム−テスファ(Zoma Crum-Tesfa)

レイチェル・チャンドラー(Rachel Chandler)

ゾーマ・クルム−テスファ:レイチェル、私は学生時代と同じで、いまだにあなたを写真家で素晴らしいDJだと思ってしまうの。でも、あれからの10年で、あなたはファッションのインフルエンサーから、キャティングのディレクター、そしてモデル事務所の共同設立者まで役割を広げたわね。先ず、キャスティングするようになったきっかけを教えて。

レイチェル・チャンドラー:キャスティングを仕事にするつもりは、まったくなかったの。私は今30歳で、この仕事はまだ1年。だから、人生全体から考えると、キャスティングが占める割合はほんの少し。そもそもニューヨークへ来たのは、写真と美術史を勉強するためだったわ。ここに住んで、大学へ行って、あちこち出歩いたもんよ。丁度その頃、オリヴィエ・ザーム(Olivier Zahm)が「Purple Diary」を始めた。ナイトライフがテーマの、タンブラー風なブログだったわ。オリヴィエはずっとニューヨークで暮らしてたわけじゃないから、誰か写真を撮れる人が必要で、私に打診してきたの。報酬はなかったけど、カメラを買ってくれた。そして、毎年もっといいカメラに買い換えてくれた。最初のうちはただ友人を撮ってたけど、そのうち、本の写真も撮らせてくれるようになったのよ。

ナイトライフの写真って、すごくカッコいいって印象があるんだけど…

そうね。まあ、私が撮っていたのはスナップ写真だけど。

そういう活動を、どうやってファッション写真に移行させたの?

本当のところ、かなり難しかったわ。雑誌の場合、1回の撮影で10枚程度の写真を依頼されるの。だけど一体どうやったら、1日で10枚も良い写真が撮れる? 私はすごく良く撮れたと思う1枚か2枚だけを残して、他をほとんどボツにしてしまうもんだから、スタイリストやチームのみんなはイライラしてたわ。パーティー写真の撮影で身についた技術も、役に立ったわね。ファッション写真家としては、私はまだ成長中。特に最初は、長いこと自分ひとりでやっていたことを、チームとしてやる方法を学ぶ必要があったし。私が写真で追いかけてたのは、ある瞬間、リアルな何かだったの。

キャンティングに対する興味は、写真家としての活動から自然に派生したの?

ええ。良い写真が撮れたのは、写真の中に自分を投影できたから。依頼された仕事では、その部分が無くなることもあるの。何らかの制限があると、個性が隠れてしまうことがある。だから、キャスティングは、私にとっていちばん重要な要素のひとつよ。エディトリアル用の撮影をする場合、撮影前に、モデル事務所からモデルの紹介カード送られてくるんだけど、「よく分からない。みんな良さそうではあるけど」って感じなの。そういう見た目の美しさには興味がないから。私はモデルに、ひとりの人間を感じたい。そういうわけで、撮影に私の友達を起用し始めたのよ。友達は以前にも撮影してたから、同じこと。ただ、状況が変わっただけ。

「リアルさ」というテーマは、まさにナイトライフを撮る写真家の領分よね。

確かにね。でも、別に私が考え出したわけじゃないわ。沢山の写真家がそういう撮り方をしてる。

Midlandのモデル探しにも、「リアルさ」が同じくらい大きく作用してる?

モデルを見つけるのは、すごく直感的。ウォルターと私はいつも人を探してるわ。私なんか、毎日街中で、知らない人に声をかけてるの。すごく変よね。

キャスティング ディレクターの仕事は?

エディトリアルのキャスティングをするときは、クライアントというより、写真家との仕事ね。ブランドは、大抵、すごく具体的な条件を出してくるの。例えば「10代のスケーター。全員有色人種」みたいに。そうなったら、私は毎日スケート パークに通って人探しするわけ。大体そんな感じ。「リアルに感じられる女性」なんて注文もあるわ。すごくありがちな注文。

「リアルな感じ」って、どういう意味かしら?

分からない。どういう意味かしらね? キャスティングが変わってきた現実的な理由のひとつは、ブランドが以前よりはるかに多くのコンテンツを作るようになったことよ。昔は、年に2回か4回ショーがあって、ショーのキャンペーンが2つか4つ程度。シーズン中に必要なコンテンツはそれだけだった。でも今は、ブランドがすごく沢山のコンテンツを作らなきゃいけない。ということは、一般の人は今までよりさらに沢山のビジュアルを目にしているわけだから、そんな中で人の注意を引き付けて、立ち止まらせて、ちゃんと見てもらうためにはどうすればいいか? それに、例えばインスタグラムとか、こういったコンテンツを配布する色々なメディアは、商業的ではないものも配布してるから、もっと競争が厳しいの。

そうした競争がありながら、「リアルさ」や単なる低予算でのコンテンツ作りへ向かう流れが商業的に歓迎されてるのが、私には納得できないの。それって、本来、デメリットじゃないのかしら?

まったくその通りね。最近、超が付くインスタグラム有名人の撮影で、キャスティングをしたのよ。場面に信憑性を持たせたるために、友達役になる非商業的なモデルが必要だったの。こういう場合は、予算も大いに関係してるわ。まだ若いブランドだと、プロのモデル料は払えないっていう現実問題から、こういうキャスティング方法を採るのよ。だけど、それだって、別に新しいやり方じゃないわ。Helmut Langもやったし、Raf Simonsもやったことがある。今になってその手法が定着しつつあるのは、おそらく、消費されるコンテンツが以前よりはるかに増えたせいで、本当に虚飾のないありのままの写真が貴重に感じられるからじゃないかしら。

あなたが特定の人たちに引き寄せられるのは、どんな要素?

直感としか言いようがないわ。デザイナーのシェーン・オリバー(Shayne Oliver)が、うちの事務所のモデルたちは私の双子ばかりだって言うんだけど、私は彼らの誰にも似ていないと思う。ウォルターと一緒に街を歩いていると、文字通りその場に立ち止まって「さっきの子、見た?」ってことがある。私たちの趣味は同じじゃないけど、直感は同じ。だから、Midlandは機能しているのね、きっと。ふたりの意見が一致しない限り、誰とも契約しないわ

でも、このモデルたちはどことなく似ているわ。

ええ。わたしの趣味とウォルターの趣味は、ほんのちょっとだけ重なってるの。可笑しいのは、面接しているときに気が付いたんだけど、私たちのコメントって大体「とは言っても、この人たちはやっぱり、白人っぽくて、痩せてて、一般の人から見て美しいと思われる人よね」なの。是非、ウェブで、私たちがマネジメントしてるモデルの索引を実際に見てもらいたいわ。文化的に、すごく多彩なはずよ。モデルたちが似てるのは、私が写真家出身だからだと思うの。元々キャスティングの経歴だったら、特定のサイズ、特定の背丈、特定の鼻の形とか、そういう視点で探すかもしれない。シャッターを切るときの直感と誰かをキャスティングするときの直感とが、どんなに分かち難く関連してるか、自分でもうまく表現できないわ。人を写真に撮りたいと思わせる何か他のものがあって、それが時間を経て磨かれていくの。

Midlandのサイトにあるモデルの顔写真をスクロールしてみると、すごく親しみを感じるわ。

キャスティング用の写真は全部私が撮影するから、沢山の愛と信頼が詰まってるのよ。

  • 文: Zoma Crum-Tesfa
  • 画像提供: Courtesy of Midland Management & Casting