セクスティングが形に成るとき

Grindr初の出版物を通して、マット・ランバートが
現代における安全な空間を問う

テキスト:Bianca Heuser
写真(書籍):Matt Lambert
写真(パーティー):Maxime Ballesteros、Jennifer Medina

物理空間とバーチャル空間を厳然と区別するのは時代遅れだ。Tumblrで他の国の同じような環境で暮らしている同じような考えのユーザーとつながっている田舎町のティーンエイジャーであれ、ありふれた現象になりつつあるインスタグラム上のセレブであれ、デジタル ライフは物理的生活に目に見える形の影響を及ぼしている。気晴らしやいささかの失望として現れることもあれば、慰めや連体感を約束することもある。なかでもターゲット層に圧倒的な影響を及ぼしているツールが、Grindrアプリだ。Grindrは、間違いなく世界中のゲイ男性たちの交際を大きく変化させたただけではない。僻地に住む若いゲイ男性が他のゲイ男性と繋がれるようになった結果、直近の生活環境から感じる孤立や疎外を和らげる効果も生んでいる。

デジタル世界が先ず最初に提供するのは、居心地の良さかもしれない。だからといって、ずっとそれだけに留まる必要はない。7年の歳月を経て、常時100万人ほどの男性に利用されている現在、Grindrはユーザー コミュニティに提供するサービスの拡張に目を向けている。その一環として、昨年からJ.W. Andersonの2016年秋冬コレクションを独占ライブ ストリーミングするなど、ファッションへの関わりを強めている。Grindrが初めて手がけた出版物「Home」は、ベルリンを拠点とする写真家マット・ランバート(Matt Lambert)が、世界の若いゲイ男性をとらえた写真集である。親密感に溢れるイメージには、被写体が大人になるまでの私的なストーリーが添えられている。彼らの成長過程の核は、常に、安全な空間の追求だ。暖かい視点から夢のように美しい肖像写真を仕上げるランバートは、LGBTQが圧倒的に多数を占めるアーティスト、モデル、ミュージシャンのあいだで非常に人気が高い。LGBTQは、自分たちのコミュニティを積極的に主張し、少数派として共有する歴史ではなく、個々人の才能によって判断される権利を擁護する。

ランバートは、ラッパーのミッキ・ブランコ(Mykki Blanco)の「High School Never Ends」のミュージックビデオで、監督も務めた。ミッキ・ブランコは何度も指摘している。「たまたまラッパーが同性愛者だからって、キャリアを通じてずっと、同性愛ラッパーとしてマーケティングしたり、レッテルを貼るべきじゃない」。それはランバートのような写真家にも言えることだが、一方で、構造的に差別される特定の形態に写真家やキュレーターやライターが関わる場合、テーマに通じていること、あるいはそれ以上にテーマと親密な関係を持っていることは、間違いなく強みである。

「写真集に登場する人たちの多くは、被写体になった経験、特にプライベートな写真を撮られた経験がなかった。なぜ僕が写真を撮りたいのか理解できなくて、僕の関心に疑問を感じていた人も少なくなかった。僕が誰かにアプローチするときに、そういうことはよくあるんだ。でも、たいてい、撮影が終わったときには自信をつけて帰っていくし、それまで目を向けたことがなかった自分自身の側面に気付くんだ」

「Home」のために撮影した青年たちも、当然疑念を抱いていた。過去1世紀でゲイの人権は著しい前進を遂げたが、なお多くの争点が残されているのは事実である。ゲイであることには、今も様々なリスクが伴う。79カ国以上の国々で、ゲイはいまだに犯罪である。昨年の夏、米フロリダ州オーランドで起きたゲイ クラブの襲撃では、49人もの犠牲者が出た。「マットと僕は、あの事件後、すぐ話をしたんだ」。Grindrのクリエイティブ ディレクター、ランディス・スミザース(Landis Smithers)は言う。「問題に対して、扇情的にも偽善的にもならないで向き合う方法を話し合った。そして、真相の究明として対処することにしたんだ。マットが色々な場所を訪れて、行く先々で、人々にとっての安全な空間とは何かを訊ねる。ゲイ バーはもう安全な場所じゃない。じゃあ、どこが安全なんだろう? 大半の人にとって、その答えはデジタルなんだ。自分自身の世界を構築して、その中へ人を招き入れることができる力。僕たちの本は、リアルでダイレクトで率直になる機会、非常に難しいテーマに率直に向き合うチャンスだと思った」

ランバート自身に安心できる場所を質問すると、こんな答がかえってきた。「安全な場所という概念は絶えず移り変わる。友達の家で夕食を囲んでいるときかもしれないし、クラブで誰かのパフォーマンスを見ているときかもしれない。家のベッドでパートナーと過ごす時間だったり、誰かとオンラインでチャットをしてるときかもしれない。でもたぶん、安心できる空間を理解するには、安全な空間の対極を明確にするほうが分りやすいんじゃないかな」

この小さな安全領域を包囲する大きな外側こそ、スミザースのいちばんの懸念でもある。「特に、大都市以外の場所に住んでいる人たち。小さな町とか、他所へも簡単には出かけられないような場所にいる人は、かかりつけの医者に相談することもできない。医者も身内だったりするからね。だとしたら、PrEP(HIV予防薬)なんて言葉や、血中のHIVウイルス量が検出限界以下という状態が一体何を意味するのか、いったいどこで学べばいいんだろう? ただ、恐怖でしかないんだ」。Grindrが取り組みを開始した多くの拡大事業のひとつは、社会正義の発展だ。アプリ内機能を利用すれば、ユーザーは性の健康に関する情報へ簡単にアクセスできるし、同じ情報に関心を持つユーザー同士も繋がりやすくなる。

出会い系アプリがユーザーのオフライン生活へと回帰するループは、至る所でソーシャル メディアが溢れるようになって以来無効になったオンライン/オフラインの二分の溶解を、さらに推進する。「Home」に寄せた序文で、カルト映像作家のブルース・ラブルース(Bruce LaBruce)は、かつてゲイ バーで過ごした夜への漠としたノスタルジーを書き綴っている。暗いバーで互いの汗を交わすほど密着する体験は、どんな過激な携帯メールとも異なる親密さを生む。しかし、ランバートによれば、デジタル世界はゲイ男性の関係を脅かす存在ではなく、むしろその逆だ。「暗く匿名的な空間に身を隠す必要性が、生き残り戦術というより、むしろ目新しいことになったのはそれほど悪いことじゃない。薄暗いゲイ バーへ初めて入るときは、結構、怖かったりするんだよ。現実にその一歩を踏み出すはるか前に、デジタル空間で他の仲間と繋がることができる。白と黒をはっきりと分けたがるカルチャーの中で、より多くの特異性が存在することも可能になった。LGBTQ+(LGBTおよび自分の性別認識に疑問を持つ人や性的マイノリティの総称)空間でのジェンダーや人種にまつわる会話は、バーチャル世界によって急速に進んだし、権利を奪われてきた人々同士が仲間意識を見出せるようになった。もちろん失なうものも確かにあるけど、同性愛者のスペースに存在する物理的エネルギーを持続するために、一生懸命戦い続けている世界を無視することはできないよ」

テキスト:Bianca Heuser
写真(書籍):Matt Lambert
写真(パーティー):Maxime Ballesteros、Jennifer Medina