ジュリアンクリンスウィックスと考える、
「人間である」こと

ジャンルを横断するアーティストが撮る、ローファイなセルフ ポートレート

インタビュー: Katrina Lainsbury

写真とビデオ: Julian Klincewicz

ジュリアン・クリンスウィックス(Julian Klincewicz)は、サンディエゴで、モトローラ社の折り畳み式携帯電話で友達のスケート姿を15秒のビデオに収めるところから、キャリアをスタートさせた。VHSへの移行は、思いがけない幸運がきっかけだった。祖母の家の屋根裏を掃除していた叔母が古いビデオカメラを見つけ、プレゼントしてくれたのだ。今年21歳になったクリンスウィックスは、ローファイ ビデオで撮影した親近感のある情感豊かなスタイルによって、注目を集めている。ゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)は、彼のクルーであるモスクワのスケーターたちの撮影協力を仰ぎ、カニエ・ウエスト(Kanye West)とは、マジソン・スクエア・ガーデンで行なうYEEZYSeason 3のプレゼンテーションを記録するという超大型契約を結んだ。しかし、謙虚で地に足の着いたクリンスウィックスは、複数のメディアで(むしろほぼすべてのメディアで)「人間であること」からスタートしたアート作品を実践する。最近は、初のファッション コレクション「Hey, I like you」を立ち上げた。ジン形態の写真集、音楽、モデル、初めての個展、全部が集合するプロジェクトである。作品にさらなる要素を登場させ続けるクリンスウィックスは、毎年の誕生日に達成目標を定め、実行に移してきた。今のところ、そのやり方は成功しているようだ。
スーパー8で撮影したセルフ ポートレート ビデオで、私たちはジュリアンの思考プロセスを探った。
カトリーナ・レインズバリー(Katrina Lainsbury):見たところ、今年の目標は達成できたようですね。具体的にどうやって目標を達成したのか、教えてください。

ジュリアン・クリンスウィックス:いくつか達成できたのは確かだね。はっきり言えないけど、ほとんどの時間をアートの制作に費やしたことが重要なポイントかな。僕はいつも他の人から学ぼうとしているし、たくさんのサポートがあったから、進み続けることができたんだ。コーヒーも、間違いなく、その一部だな(笑)。

過去のインタビューで、われわれはみんな人間だ、ということをアートで見せたいとおっしゃっていました。現在のユース カルチャーで、それはどのような形をとると思いますか? ソーシャルメディアやテクノロジーを使うことで、私たちは人間らしさを失うのでしょうか?

なんとなくそういう気がする。あるいは、こう言えばいいかな。僕自身が世界を経験して、世界を眺めたときに感じるのは、人間であるよりもっと良くならないといけない、という大きなプレッシャーが社会に存在していること。僕はよく考えるんだけど、「充分良い」って、実際にはどういうこと何だろう? 現代の「充分良い」って何だろう? 誰にとって「充分良い」んだろう? どういう意味なんだろう? 到底なれっこないものにならないといけないプレッシャーが、社会の中にあるんだよ。でも、そこから、不安や、自分だけが取り残されてるような恐怖や、インスタント サクセスの願望が生まれていると思う。有意義な感情と毎日の経験とのギャップ…というか、僕は全ての感情には意味があって大切だと信じているから、意義ある感情と毎日の経験の強い結び付きが、ちょっと薄れてきているように思うんだ。どうしてかははっきり説明できないけど、そう感じる。僕たちは、人間であることの重みや経験を誰もが共有していることを忘れてしまうサイクルに、ともすればハマりがちだと思う。そういう連帯感や共感を失ったら、精神的な安らぎや繁栄や全体的な健康の出発点を失ってしまうと思うんだ。人間であるための鍵を失ってしまう気がするんだよ。
あらゆるものと同じで、良くも悪くも、ソーシャルメディアが一定の役割を担っていることは確かだ。それは大した問題じゃないと思うんだけど、今のメディアは関係性を象徴化させてしまう。常に変化しているから。幸福な社会のためには、ただ単純に、本物の人間的なつながり、つまり現実を忘れずにいることが、貴重でかけがえのないことなんだ。その上で、僕は「人間である」ことにフォーカスを当てて、それを見せたい。経験というのはすごく多角的で、けっして退屈にならないからね。最近「私はあまりに多くの旅をした故に、今では陳腐なものにしか興味を引かれない」というフレーズについて、よく考えてるんだ。どんな人を見てみても、必ず、その人の中に馴染みのあるものや新しいものが見つかる。そういう関係性が、アートを突き動かしていると思うな。
最近、「Hey, I like you」という展覧会を開催しましたね。ある時点で、モデルたちが手をつないで、輪になって歩いていました。どんなインスピレーションからあのコンセプトが生まれたんですか?

「Hey, I like you」の3度目のショーには、30点をデザインして、Free Actionとサウンドトラックを制作して、シルク フラッグの新しいシリーズと映像と歌を発表して、ランウェイのプレゼンテーションを監督したんだ。みんなが手をつないで輪になるアイデアは、喜びや、僕たディが実現できる状態や、美を表現するためにやったんだ。ファッション ショーをやりたいと思った理由のひとつは、サンディエゴで何か本当に特別なものを作りたかったから。サンディエゴでは正しく評価されて存在していない何かを、サンディエゴの人たちに手して欲しかった。ファッションショーや経験に対する僕の考えを、この場所で意味のある形に転換してみたんだ。だから、モデルがそれぞれ8の字を描いて真面目にウォーキングをした後で、フィナーレに手をつないで輪になるのは、緊張感をぶち壊すすごく良い方法だと思ったんだ。ここでやっているのは楽しいことで、喜びは大切な感情だし、あなたも笑わなくちゃダメだって思い出してもらうためにね。
たぶんいちばん大切なのは、僕にとって、手をつないでただ遊ぶために走るという経験が、とてもいいヒントだし、普遍的な経験を象徴してることなんだ。誰でもできることだし、僕の知り合いのほとんどが子供時代にやったことだと思う。つながりをすごく直接的に示すものだしね。そう思わない? それがあの演出のすべてだよ。

あなたが出演した「JOURNEYMEN」の3度目のインスタレーションを見ましたが、その中であなたは「最も高尚なアートは、見る者は違う場所に連れて行かれて、そこで恋に落ちる」と言っていますね。あなたをそんな気持ちにさせるのは、誰の作品ですか?

それは僕が今までに経験したことで、みんなが同じように感じるかどうかは分からないけど。でも見てくれてありがとう! パティ・スミス(Patti Smith)の言葉は、そういう気持ちにさせてくれるね。ギルバート・アンド・ジョージ(Gilbert and George)の「To Be with Art is All We Ask(「私たちが求めるのは、アートと共にあることのみ」)」、「Sans Soliel(サン ソレイユ)」という映画、それから友人のジェーン・マッチャーク(Jane Matchak)の書いたものやフィリップ・グラス(Philip Glass)の音楽。
インタビューの中で、今のユースカルチャーに対して、自分が大人の意見を持てるとは思わないと言っていましたね。それは、あなたがスケート コミュニティという自由な環境にいるからでしょうか?

単に、大人になるって何なのか、僕がまだ分かっていないだけだと思うよ。でも、必ずしも子供だとも思ってない。特に「ユースカルチャー」について真剣に考えているわけでもないし、その点に関しては「大人の文化」でも「中年の文化」でも同じことだ。そのテーマには大いに興味があるけど、僕にとっては一番重要なことじゃないな。 僕の関心は、人間の経験。人間の経験は世代を超えると思ってる。
僕より若い世代のキッズ達が、よく行き詰まってることに気付くんだ。年齢のせいで、到達したい地点に到達できないとか、成し遂げたいことが実現できないとか。経済状況によっては自由になるリソースが制限されるし、人生経験のせいで自分の直観をつかめなくなることもある。でも、30代でも、40代でも、50代でも、60代でも全く同じことが言えると思うんだ。例えば、もう何かを始めるには年をとりすぎてるとか、世界が変わったとか、何かひとつの分野で経験があっても他の分野を試す保証にはならないとかね。両方を比べても、そこに大した違いがあるとは思わないけどね。だから、僕がどんな立場からユースカルチャーについて話しても、ちょっと知識不足だったり、机上の空論になると思う。大切なのは、何歳でも、自分のベストの状態になること、そして努力することさ。

VHSだと、常に最高の画が取れる保証はありませんよね。それには、どう向き合っているんですか?

僕のモットーは「上手くいくように、ただし、何事も神の意志のままに」だよ(笑)。いや、どうかな。他の事と同じで、素晴らしいものを得られることもあるし、何も得られなかったり、ベストな部分を逃すこともある。撮影が終わる頃にいつも思うんだけど、素晴らしいものをカメラに収めることは奇跡だよ。僕は、終始、最高の瞬間を逃しているように感じるもの。

誕生日前後に、達成すべき目標リストを作ることは有名ですが、誕生日はいつですか?

8月31日。正真正銘の乙女座

2017年の目標はなんですか?

みんなが確実にスペシャルと感じられるように、時間をかけることだね。

インタビュー: Katrina Lainsbury

写真とビデオ: Julian Klincewicz