ラブホテルバンドのユッグ・ハーン:ウィーンからVetementsへ

ジャンルを自由に横断するミュージシャンの七変化の精神に迫る

  • インタビュー: Eva Kelley
  • 写真: Lukas Gansterer

ユッグ・ハーン(Yung Hurn)、またの名をK・ロナルド(K. Ronaldo)、あるいはラブホテルバンド(Love Hotel Band)のフロントマン。あまりに別名が多いために、彼の全作品を並べるとメソッド アクティングの例を見るかのようである。

Yung Hurn着用アイテム:セーター(Brioni) 冒頭の画像 着用アイテム:セーター(Brioni)

彼のキャラクターのスペクトラムは、1980年代のシンセから、聞き取れないようなつぶやき、オペラ風に演出された「フィガロ」、オートチューンの効いた反復まで幅広く、パフォーマンス上の必要性に合わせて変化する。

このオーストリア生まれのラッパー、歌手、多元的世界の住人の熱心なファン層は、ドイツでますます拡大を続け、それはヨーロッパのファッション界にも及んでいる。昨年6月にはVetementsのプレゼンテーションでも演奏した。ユッグ・ハーンになろうが、K・ロナルドになろうが、ラブホテルバンドで演奏しようが、甘く優しい声で語りかける一匹狼と挑戦的な反抗者の間をめまぐるしく行き来するという根底のスタイルは変わらない。その彼が今、チャンスさえあれば炎上を目論むネット荒らしを巻き込んで、世界中の人々に揺さぶりをかけようとしている。

ベルリンのレストランLe Petit Royalで、ラブホテルバンドのメンバーと肉をたらふく食べたユッグ・ハーン。彼の多面的な精神に対して、エバ・ケリー(Eva Kelley) が深層心理に迫る。

エバ・ケリー(Eva Kelley)

ユッグ・ハーン(Yung Hurn)

エバ・ケリー:子どもの頃にのめりこんでいたものは何ですか。

ユッグ・ハーン:グラフィティ。ずーっと描いてたよ。地下鉄の電車でよくやってた。ヨーロッパの地下鉄の全路線の制覇に挑戦するっていうゲームがあるんだ。本当にのめり込むと、おのずと友達の輪もすごく狭くなる。そのことを口外しないような彼女だっていた。万が一捕まったら、高額の罰金を払わされるからね。

ずっとミュージシャンになろうと思っていたのですか。

最初は古いスタイルのビートに合わせて遊びでフリースタイルをやってた。それから、あるときトラックの録音を始めたんだ。でも今考えると、笑っちゃうような代物だったよ。ただの遊びだったし。当時もそれをSoundcloudで公開したんだけど、結構反応が良かったんだ。いつもたくさんプレイされてた。不思議なことに、それでうまくいったんだ。俺たちはただつるんで、パーティーやって、薬やって、ハッパ吸って、家にいるときはいつも何かレコーディングしてただけなんだけどね。ほんと、それだけ。それが有名になった。

あなたは複数の異なる音楽パフォーマンスを行っていますが、音楽的にもキャラクター的にも、どのようにして違いを出しているのですか。

まずユッグ・ハーンから始めた。これの基本アイデアは、シンプルなビートと、終わってるラップっていうスタイルなんだ。でも、そこに時々ある種の叙情性を加えるようにしてる。ちょっと面白い要素を盛り込むんだ。ポイントは「終わってること」だったのに、ますます多くの人が聴くようになって、メインストリームになりすぎたんだよな。笑われるかもしれないけど、俺的には、たくさんの人に聴かれ過ぎたと思ってる。アングラ シーンの出だから、誰にも知られたくないんだよ。ベルリンやウィーンで街を歩いてたら、俺が誰か気づかれるんだ。ほんと、最悪。昔に戻って、もっと滅茶苦茶なものをまた作りたかった。それで「K.ロナルド(K. Ronaldo)やろう」って考えた。要は、もっと自由が欲しかったんだ。

俺だって、自分のことがわかってなかったら、俺の音楽が嫌いな人たちのひとりだったはずだ

YouTubeにあるそれぞれのミュージック ビデオの説明から、K.ロナルドはうつ病を抱え、麻薬中毒になり、ベティ・フォード クリニックの更生施設でリハビリに行った、ユッグ・ハーンの兄弟であると理解したのですが、これはまさにペルソナですね。これらのキャラクターを有意義な方法で内面化しているのでしょうか。それとも、新しい音楽性への移行をスムーズにするための、ネタ的な仕掛けといったものなのでしょうか。

ネタ的な仕掛けではまったくないよ。俺もちょっと同じような心境だから。それをいいって言う人がいるなら、それはクールなんだと思う。それが嫌いだと言う人がいれば、それはそれで俺たちの音楽に応えてるってこと。「なんだこれ?」っていうことを俺たちに伝えてるんだよ。

人々から反応を引き出したいんですね。

そう。何かが起こるようにね。ユッグ・ハーンが窮屈になって、限界を感じ始めたんだ。わかってほしいのは、俺はミュージシャンになるための教育を受けたわけでもなく、音楽を作ってるってことだ。これだけでも、すごい才能だろ。何か本当に滅茶苦茶なことがしたいと思ったら、それをあっちこっちのパフォーマンスに加えればいい。その意味では、ラブホテルバンドは、この先もっと色々なことができる気がしてる。

着用アイテム:シャツ(Kiko Kostadinov)

歌詞については、自分をミニマリストだと思いますか。

ミニマリスト?まちがいないね。それがクソだと思ってる人も多いよ。俺だって、自分のことがわかってなかったら、俺の音楽が嫌いな人たちのひとりだったはずだ。

この時代、スピードは新たな質を決める要素であると思いますか。

俺自身と俺の音楽について言えば、そうだな。歌詞を書くのだって、俺は本当にすぐだし、速い。頭の中ではほとんどフリースタイルみたいになっていて、その中でいちばんいいのを書き出すんだ。質問は何だったっけ?

スピードは質を左右する特徴なのかどうかです。

答えられねー(笑)

どういう経緯でVetementsのためにLove Hotel Bandであなたがライブを行うことになったのですか。

ただ声をかけられたんだ。最初はなりすましかと思ったけどね。だってなんでVetementsが俺たちに声をかけてくるんだよ。だけど、その後でFaceTimeで話して、デムナからチューリッヒに招待された。Vetementsのためにライブができたのは本当に光栄だよ。

ファッションは、バンドが意識して連携したいと考えていることなのでしょうか。

俺たちは全員ファッションを重視してると言っても、バンドメンバーの誰も異存はないと思う。クールなコンサートばかりやってきたしね。Vetements、有名なギャラリー、ベルリンのファッション ウィークでもやった。

バンドの他のメンバーについて少し聞かせてもらえますか。

ダメ。神秘的な方がクールだから。

了解です。では、たとえば「Blumé」のミュージック ビデオではファッションの要素を際立たせていますね。ビデオの中で四つんばいで動き回る女性が手袋のようにつけているのはVetementsの靴ですし。ですが、最近のミュージックシーンでは、ロゴのシャウトは非常に多くみられるものでもあります。ファッション ブランド名を歌詞に取り入れることは、ある意味でストリートウェアの音楽的解釈ともいえる。ロゴを身につける代わりに、ロゴを歌うわけです。音楽の形になったストリートウェアですね。

本当のところ、ファッション ブランドについてラップするのにはすごく反対なんだ。きちんとファッション ブランドを歌詞に出したのは前回のアルバムが初めてだった。Vetementsを1回、Louis Vuittonを1回、ひとつのトラックの中で使っただけ。韻を踏むからね。

実際、賢いやり方だと思います。 ブランド名を出せば、ターゲットの観客がファッション的に価値があると考えているものに、直接触れることができますからね。

その辺はうまく合わせる必要がある。アルバムを買ってくれるのは、そいつらだから。

あなたはご自分の仕事に対してかなり戦略的のようですね。

戦略的であれたらいいんだけどね。今アルバムを作っているところだけど、その様子を見たらびっくりするよ。すごく汚いから。

以前、人々は音楽にお金を払う必要はないと思うという発言をしておられますが、今でもそうに思いますか。

個人的には今でもそう思ってる。でも今は、現実問題としてそうじゃないから。そうだったらいいなとは思うけど。お金を稼ぐ必要なんてなければいいのに、とも思う。

YouTubeに、男が、あなたが画家のダニエル・リヒターと対談したときの動画を分析して、あなたの心理分析を行う動画があるのですが、知っていましたか。その中で彼は、あなたは自分の感情に触れているのであって、非社会的などではないと言っています。この動画、見ましたか。

見たよ。

Eva Kelleyはベルリンのマガジン『032c』のライターでありコーディネーティング エディターである

  • インタビュー: Eva Kelley
  • 写真: Lukas Gansterer
  • スタイリング: Nadia Kanaan
  • 写真アシスタント: Andreas Knaub
  • スタイリング アシスタント: Melis Yildirim
  • ヘア: Agnes Klosinska Pfützner
  • 撮影場所: Le Petit Royal