クマに夢中!

今シーズン大人気のコートと、クマにも優しい美意識の関係

  • 文: Erika Houle
  • アート制作: Nathan Levasseur

1997年、ファッションにおける「体験としての実店舗」という販売モデルがまだ一般的になるはるか以前、マキシン・クラーク(Maxine Clark)は、ビルド・ア・ベア・ワークショップの第1号店をオープンした。ここは、自分の好みに合わせたクマのぬいぐるみを作ることができる体験型ストアだ。20年以上の時を経た今、ショッピング環境はますます感情移入型の空間へと変わってきており、それに伴い、私たちのおしゃれに対するアプローチも変化してきている。ワークショップの「詰め物ステーション」など目ではない。今シーズンのランウェイでは、すべてのクマちゃんの組み立てがそこで行われていた。ソーシャルメディアは、フリースやマスコットのようなシルエットや、子ども時代のレファレンスで溢れんばかりだった。フカフカで心地く、思わずぎゅっとしたくなるテディベア。私たちが夢中になるには理由がある。自分自身をクマのような存在としてブランディングするのは、人々の琴線に触れる方法のひとつなのだ。 人々が心地よさを探し求めるこの時代、やわらかさや寛大さを表現しつつ、善良さも失わないという点で、子グマはコスチュームとして万能だ。

ストリートウェアやラグジュアリー ブランドのデザイナーたちは、どういうわけか、突如としてテディベアに夢中だ。あのPalace × Polo Ralph Laurenのコラボレーションでは、クラシックなPolo Bearが、スケートボーダー仕様のテディのセーターとして新たに登場した。またお揃いのぬいぐるみもセットになっている。ちなみにぬいぐるみは、Grailedで600ドル以上出せば、まだ手に入れることが可能だ。Moschinoは2019年春夏の「テディシューズ」の プレビュー動画を公開した。この華麗な足さばきとバレリーナのジャンプの動画でクマを全面にあしらった柔らかなソールのシューズを紹介している。Max Maraは、テディベア スタイル真っ盛りで、抱きしめたくなるような、新作のキャラメル色のコートをいくつも出している。各シーズンごとに、至るところで見かける「イット」アイテムが登場するというのが本当なら、テディベア ジャケットがまさに今シーズンのそれだ。人気が低下しつつあるシャワーサンダルとサイクリング パンツに代わる、理想的なアイテムだ。ベーシックと紙一重のところにありながら、これには、ウールのベレー帽やエナメル レザーのブーツにも通じる、洗練されたカワイさがある。健全でありながら、同時に少しだけな仰々しいイメージだ。パパラッチに撮影された、ホッキョクグマのようなコートに、水玉のタイツとブローグ シューズを合わせた格好のジュリア・ロバーツ(Julia Roberts)のように。あるいは、スウェット パンツとネオン ピンクのブラトップにBalenciagaのシアリング ジャケットを羽織り、ヒールを履いて着飾ったキム・カーダシアン(Kim Kardashian)のように。注意を引きつつも、やりすぎないところで、うまくバランスをとったスタイルだ。

さらに、テディベアのアウターにとどまらず、私たちは全身テディベアの服を作り上げつつある。バービー人形の服ならぬ、クマのぬいぐるみ用の服の実寸大コレクションのようなものだ。ボリューム感のあるニット セーターや、子どもっぽいスニーカー、コーデュロイのパンツ、ポーチに折り上げたビーニー。要は、元Hypebeastメンバーたちのユニフォームだ。過去数シーズンにわたる、飾り気のない疲れたおじさん風の「ダッド」スタイルに続き、今度は、幼児のように着こなすことが、うまくやり過ごすための新しいアプローチになっている。大人の消費者と子どもの消費者の差異をなくしてしまうのだ。今日のファッション リーダー、ジョナ・ヒル(Jonah Hill)、シャイア・ラブーフ(Shia Labeouf)、ミスター・モート(Mister Mort)など、権威とダサさを同時に醸し出す彼らのクローゼットを想像してほしい。役には立たないのだが、それでも、レイヤーを重ねたり、ハイテク素材を使っていたり、ヘリテージ ブランドだったり、ファッションの王道を行っている。あるいは、The North Face、Patagonia、Sandy Liangなど、フリース人気の上昇と凋落に対して同時に承認しているということなのだろうか。

Emojipediaのサイトによると、昨年秋に公開されたテディベアの絵文字は、普通のクマの顔の絵文字とは区別されている。はにかんだ笑顔を浮かべる人間のように、だらんと座ったこの絵文字が、最近ではトレンド上位に上りつつあるという。2018年に大評判だった映画『パディントン2』の物語は、全体を通して、この擬人化したクマの純真さが前提となっている。今年は、カウズ(Kaws)からセサミストリート、ユニクロ、そしてディズニーまで、子どもたちに人気のものが、次から次へとブランドのコラボレーションの中に登場した。エシカルな姿勢やモラルに対する配慮が、かつてないほど高くなっている社会において、私たちはテディベアの無邪気で優しい性質に引き寄せられているのだ。Burberryのクマのキーホルダーから、Ambushのゴールドの テディベアのチャームがついたネックレス。Online Ceramicsのグレートフル デッド(Grateful Dead)のテディベアのタイダイT シャツまで、テディベアは良いことをした記念にもらえるトークンのように見える。テディベアの起源自体、そもそも「優しさ」に端を発する。セオドア・ルーズベルト大統領がハンティングに出かけた際、心変わりしてアメリカグマを撃つのを拒み、それにちなんで、かわいい子グマのぬいぐるみが「テディのクマ」と名付けられたのだ。そしてファッション界も動物愛護の方向に舵を切り、フェクファーが増加してアートのインスタレーション作品にまでなった今、私たちはクマたちと連帯して、立ち上がるようになったのだ。

だがテディベアはダークな一面も持ち合わせている。テディベアは、ブランドのロゴを通してこっそりと私たちに忍び寄り、ソーシャルメディアの企業広告という形で、あれやこれや売りつけようとするのだ。ピーナッツバター サンドイッチについて1度でもメンションすれば、Kraftの不気味なクマがブラウザーの至るところにしょっちゅう出没するようになる。広告主たちは、メッセージの背後にこのモコモコの「お友だち」を仕込むことで、消費者の心をつかめると考えているようだ。そして、それは実際うまくいっている。ファーファ、コカコーラ、SugarBearHair、Gund、Klondikeを思い出してほしい。記憶に残っている愛らしいクマたちはたくさんいる。そして、今となっては、私たちはこのクマからありふれた商品を連想するようになっている。テディベアには、いちばん平凡な行為さえ、チャーミングにしてしまう能力がある。Charminのトイレットペーパーのキャラクターのクマがトイレに行ったり、『テッド』ではマーク・ウォールバーグ(Mark Wahlberg)のクマのお友だちをセス・マクファーレン(Seth MacFarlane)が演じ、ビールを飲んだり、マリファナを吸ったりしたように、テディベアは非情であるのと同じくらい、愛らしくもある。そして、これこそ、テディベアがこれほどまでに共感を得る所以なのだ。

1957年のヒット曲、「(Let Me Be Your) Teddy Bear」の中で、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)は「俺の首に鎖をつなぎ、どこにでも連れていってくれ」と歌った。キングの「テディベア好き」という評判を肯定するように、ロマチックともやけくそ状態とも言えない心情を歌ったこの歌詞が進化した結果、私たちの時代のファッションにおける愛するモットーのひとつになった感がある。おそらく、これがもっともわかりやすい形で表れているのが、ビルド・ア・ベア・ワークショップでの象徴ともいえる、ハート型の心臓を入れて「お友だちに命を吹き込む」ための「ハートセレモニー」のステップだろう。このハート型の心臓を入れる前、持ち主は、この赤いシルクの生地を擦って温め、考えのつまった頭に当てて動かしながら幸せを願う。そして最後に愛情を込めてキスをして、そのハートをテディベアの中に封印するのだ。私たちが着る服にも感情を高める力が秘められているのなら、服を、昔から純粋な喜びと安らぎを提供してくれたテディベアに変形させるのは、十分道理にかなっている。心を込めて縫われたものだから、満足は保証済みだ。

Erika Houleはモントリオール在住のSSENSEのエディターである

  • 文: Erika Houle
  • アート制作: Nathan Levasseur