CDを焼いていた頃のファッション復活

Tバック、ブレストプレート、シルクハットが蘇る

  • 文: Rebecca Storm
  • イラストレーション: Skye Oleson-Cormack

今月サンタモニカで開催された放送映画批評家協会賞の授賞式に、ゼンデイヤ(Zendaya)は鮮やかなフューシャ ピンクのブレストプレートで出席した。もとはといえば古代に遡る甲冑が起源だが、そんな歴史的由来など、Tom Fordの2020年春夏コレクションで話題をさらった作品の前では出番がなかった。だが実のところ、ブレストプレートは、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)、三宅一生(Issey Miyake)ティエリー・ミュグレー(Thierry Muglerアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)など、数々のデザイナーをインスパイアしてきた長い歴史がある。繰り返しリメイクするだけの価値がある美的要素として、今や揺るぎない座を占めているのだ。2000年代に一世を風靡したジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)も、「What goes around, comes around (去ったものは、必ず戻って来る)」と予言したではないか。

新たな千年紀が幕を開けようとした20年前。やがて私たちを思考から切り離し、スマートフォン頼りにしてしまう技術革命が、目前に迫っていた。インターネットはダイアルアップ接続で、入力語を予測してくれるテキスト入力ソフト「T9」が画期的だった時代。選択肢は限られていたものの、その限られた選択肢の先には無限の可能性が広がっているように思えた。Facebookに先駆けたMSN メッセンジャー、ICQ、Myspaceでチャットやソーシャル ネットワークが進展し、Napster、Limewire、Kazaaなどに幇助され、あるいは教唆されて、誰もが軽犯罪に手を染めた。インターネットが特権とみなされていた時代、インターネットはまだ人類の脳の代わりになっていなかった。私たちは、今よりもっと主体的に自分を生きていた。ファッションは、自由にはばたくインスピレーションから生まれた。「www」の世界は必要なリソースを提供してくれる一方、美的な嗜好や個人の好みが客観的な意見によって明確に説明された。そう、まだCDを焼いていた頃の話だ。

この創作者の精神は、新世紀初頭に高まった自己表現の気運に極めて重要な役割を果たし、生活の他の部分へも波及した。CD書き込みドライブは1980年代後半に誕生したが、当初は何千ドルという高額で、価格が安くなり始めたのは1990年代後半。2000年代初めに、CD書き込みソフトがパソコンにあらかじめインストールされるようになった。さまざまなジャンルの音楽を集めたコンピレーション アルバム『Now』やロックだけを集めた『Big Shiny Tunes』は何百万枚も売れたが、何と言っても、完璧なミックスを作るには自分でCDに焼くのがいちばん確実だった。ラジオが当てにならなかったことも、自己表現に拍車をかけた。

新世紀の最初の10年は、テクノロジー時代に向けて、駆け出しアーティストたちが育った時期でもある。彼らはトレンド セッターでもあった。その中には、今でも最大級の知名度と収入を誇るスターたちが残っている。ビヨンセ(Beyoncé)、リアーナ(Rihanna)、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopezジェイロー)。心に訴える音楽より売上げに関心がある人々に商品化され、操作されるポップ ミュージック界の闇を象徴するかのごときブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)でさえ、今なお何百万人ものファンとサポーターがいる。そして、ファッションは無限ループを辿り続ける。今回は、2000年代に現れ、過ぎ去り、2020年に蘇ったものをまとめてみた。

サイバー エモ

音楽界のメインストリームへ進出したオルタナティブ ロックのヒット曲には、セックス、死、再生の全領域に作用する冥王星のエネルギーがあった。エヴァネッセンス(Evanescence)の「Bring Me to Life」やリンキン・パーク(Linkin Park)の「In the End」が歌ったのは、同じディストピアの異なる局面にすぎない。CGIを使ったミュージック ビデオのイントロは、コジマプロダクションが作り出すような暗鬱な現実逃避の世界の、粗削りな原型と言える。このように光と闇の二元的な音楽世界では、ベーシックなワークウェア、実験的なヘアスタイル、薄く柔らかなスリップ、インダストリアル ジュエリーが定番だった。さて雨に濡れそぼったサイバー エモの種子からは、SoundCloudのエモ ラップ、そして多分ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)が発芽した。ルースなユーティリティ ウェア、シルバーのボールチェーン、バケット ハット、カラー チョーカー…。サイバー スペースにもストリートウェアにもあまり繋がりのないシルエットは、外見より、実存にまつわるテーマを強く感じさせる。光と闇を往復する世界であれば、コスチュームはどうあっても多用途でなくてはならない。ブレストプレートの唐突な再登場は、人生が明暗どちらの面をもたらそうと、常に態勢を整えておく必要性を暗示している。ゼンデイヤのように心弾むフューシャ ピンクを選ぶにしても、だ。Rick Owensのランウェイが、私たちの多くが、現実とサイバーとオカルトが溶け合った世界観へと向かう傾向にあることを反映しているなら、音楽そして音楽と共に蘇り続けるトレンドは、二元的世界が私たちを魅了するテーマで在り続けることを裏付けている。

露出度高めのウェスタン

リル・ナズ・X(Lil Nas X)以前、ラフ・シモンズ(Raf Simons)のCalvin Klein デビュー コレクション以前、オーヴィル・ペック(Orville Peck)以前、カウボーイ ファッションは多かれ少なかれカウボーイのものだったし、2000年代初期にはその要素を薄める実験で遊ぶことができた。例えばマドンナ(Madonna)の2000年は、機械仕掛けの牛型まで登場する「Don’t Tell Me」のミュージック ビデオでスタートした。その翌年、ブリトニー・スピアーズの「Not a Girl, Not Yet a Woman」のミュージック ビデオに現れたカウボーイ スタイルは、もう少し非実用的だった。大きなバックルのベルト、カウボーイ ブーツ、フリルと、ウェスタン定番の要素は勢揃いなのだが、それ以外はほとんど身につけていない。同じくウェスタンながら、ボタンを外したボタンアップ、ブーツカットのジーンズ、カウボーイ ブーツだけでいちばん微妙にトレンドを演出したのは、「Again」のミュージック ビデオのレニー・クラヴィッツ(Lenny Kravitz)だろう。ウェスタン ウェアは何より実用性本位であるのだから、露出は無防備を意味する。それはつまり、いざとなれば安全策を講じられる人々のみに許される贅沢。無防備に突き進むのは、豪胆であると同時に愚かな行為なのだ。でもきっと、それこそがウェスタンの気風なのだろう。我が道を行く一匹オオカミの生き様だ。しかし過去20年、音楽の世界でもファッションの世界でも、ウェスタンはメインストリームへ浸入を始め、その流れは大きくなるばかりだ。2020年秋冬シーズンのコレクションでも、ウェスタンをリメイクする傾向は続く。Amiriのタッセルであれ、Alyxの煌めくデニムであれ、ウェスタンは必ず居場所を見つける。ファッションは無法者の放縦な精神に抗えないようだ。

Tバック

フィットとローカットが売りもののDorinhaジーンズから発生した残念な現象が、意外にも、2020年に蘇った。「Tバック見せ」である。ヘイリー・ビーバー(Hailey Beiber)、アレクサ・デミー(Alexa Demie)、もちろんランウェイとプライベートのベラ・ハディッド(Bella Hadid)など、あちらこちらのヒップやバックに姿を現す現在、「ソングを見せてよ」と懇願する歌詞はもはや不要と思われる。2000年にリリースされたシスコ(Sisqo)の「Thong Song」は、まったく恥ずかしげもなくTバック、別名ソングへのフェティッシュな執着を歌う「ソング ソング」。着る物に捧げた歌としては最高の悪評を誇る。Tバックが見えることには、一体どんな意味があるというのだろうか? Tバックが選ばれる主な理由は、フィットしたパンツやスカートには嵩ばるファブリックが邪魔になるからだ。そのような実際的な理由を考えれば、セクシーというより、むしろ、堅苦しくフォーマルにさえ思える。シェイプウェアがブームの昨今、アンダーウェアを見せることに、私たちは以前ほど抵抗を感じない。事実、2020年春夏シーズンのコレクションで、VersaceとHeron Prestonのモデルは、Tバック、もうひとつの別名「ホエール テール(クジラの尾)」を振りながらランウェイを歩いた。かつては思わせぶりに見せていたものが、今や実用を兼ねたアクセサリーになった感がある。だからシスコ、安心して。思う存分Tバックを見られるよ。

劇場への回帰

昔々、Simone RochaやMolly Goddardがチュールをふんだんに使う前、Charlotte Knowlesがコルセットを復活させる前、Charles Jeffrey Loverboyが豪勢な独創性を発揮する前、Maison Margielaがシルクハットを登場させる前の2000年代に、思いがけず、時代の美学が劇場へ向いた時期があった。ヴォードヴィル、バーレスクの華麗なコルセット、白粉をはたいた化粧、ベール、シルクハットの世界だ。2001年に公開された『ムーラン ルージュ』は、トレンドをスタートするオードブルの役目を果たした。主題歌「Lady Marmalade」を歌ったのは、リル・キム(Lil Kim)、マイア(Mya)、ピンク(P!nk)、クリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)という、音楽界メインストリームの先頭を走るスターたち。いずれも個性豊かな4人が、ラインストーン、カールが波打つヘアスタイル、サイハイのプラットフォーム ブーツで誇張したバーレスクを作り出し、大ヒットになったものだ。『ムーラン ルージュ』の世界は、ザ・キラーズ(The Killers)がブレイクを果たした2003年リリースのシングル、「Mr. Brightside」のミュージック ビデオにも反映されていた。奇妙なことに、同じ年、ブリンク 182(Blink 182)までもが劇場トレンドに乗った。「I Miss You」のミュージック ビデオには、フランス風の美しい調度に囲まれた個室の雰囲気が濃厚に漂う。当時はタブーなトレンドであった脇毛も見せる。これらクラシックで古風な劇場的表現は、新世紀の幕開けと同時に現れた近未来的ビデオからの訣別だった。そして2020年、ランウェイは私たちを再び劇場へ連れ戻す。Palomo Spainの2020年コレクションは、あでやかなピンク サテンとブラック レース、硬質なボディス、サイハイのプラットフォーム ブーツで、劇場世界へオマージュを捧げた。フランスならではの美意識を表現するJacquemusのサイモン・ポート(Simon Porte)は、ラベンダー畑と麦わら帽を離れ、ラッフルとエレガントなコルセットのコレクションをデザインした。ファッションの無限ループが常に前へ回転を続けるとき、トレンドをこれまでにない斬新なものと考えるのは、どのカードがエースかを知っているいかさま師を相手に勝負するのと同じくらい、無邪気なことだ。だが、ファッションに新しいものは何もないと嘆くのは、客引きに話が違うと文句をいうのと同じくらい、無益なことだ。かぶれるうちに、シルクハットをかぶっておこう。

ソフトフォーカスなビーチ グラム ボーホー スタイル

フィルターがかったInstagramのストーリーが登場する前、ビーチを舞台にしたセピア色でソフトフォーカスのミュージック ビデオがあったものだ。2000年から2005年にかけて人気のあったスタイルは、多様な要素の集合体であったとはいえ、かなり「お約束」だった気がする。胸に密着したホワイトのトップス、凝ったイヤリング、パールのアイシャドウ、しっとりと滑らかな肌。そうやってアシャンティ(Ashanti)の「Rock Wit U」、リアーナ(Rihanna)の「If It’s Lovin’ That You Want」、アリーヤ(Aaliyah)の「Rock the Boat」は、奔放な誘惑や挑発を演出した。一方、ジェニファー・ロペスの「My Love Don’t Cost a Thing」は一味違っていた。ビーチへ向かう途上で、バッグやアクセサリーを投げ捨てていくのだ。それから20年を経て、ローライズ ジーンズ、薄いサテンのホルター トップス、縁なしのサングラスというジェイロー スタイルをベラ・ハディッドが贅沢に再現し、ビーチ グラムなボーホー スタイルへの敬意を表している。縁なしサングラスに関しては、Chrome Heartsとのコラボレーションで、彼女自身の限定コレクションを発表したばかり。かつてもっと多くを欲しがったスタイルは進化を遂げ、欲しいものはすべて手に入れたことを宣言する視覚イメージになった。Louisa Ballou、Louis Vuitton、Unravel、Christopher Esberが共存する、グラムな世界である。

  • 文: Rebecca Storm
  • イラストレーション: Skye Oleson-Cormack
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 7, 2020