Asaiの「Hot Wok」はお好き?

いたるところで見かけるようになった大人気のトップスを、ロマニー・ウィリアムズが考察する

    11月、アリーヤ(Aaliyah)、イマリ(Imari)、ブレスニャ(Blésnya)、エリベイディ(Elibeidy)という4人のモデルがAsaiの「Hot Wok」トップスで、『M le Monde』誌の表紙を3回飾った。そのひとつでは、全員がさまざまなカラーを繋ぎ合わせた「Hot Wok」姿で、互いに抱きついている。バーント オレンジ、ピンク、ウルトラマリン…。水平にカラフルな染色をほどこされたシアなファブリックが、パネル仕立てになっている。ヘムは、キャベツの葉先のように、緩やかに丸まっている。私は脱皮中のヘビ、あるいは、潮溜まりで催眠術のように触手を揺らせるイソギンチャクを連想する。伸縮性のあるファブリックが、優しく肌に寄り添う。袖は手首よりも長く、袖口はフレアに広がっている。タートルネックは、折り返してもいいし、クシュクシュっと折り畳んでもいい。まるでカメレオンみたいなトップスだ。まだ見ていない人は、葉や果実を落とす植物、皮膚や羽毛を換える動物を想像してほしい。

    そんな『M』の表紙は、1枚の服だけでメッセージが伝わる「衝撃の一瞬」に感じられた。メッセージというより、雰囲気と言えばいいだろうか。まだ2018年の夏が盛りだった数か月前から、私のInstagramのフィードには「Hot Wok」トップスの七色の波が押し寄せていた。オンラインで「Hot Wok」トップスを着ている人たちは、ほぼ例外なく、クリエイティブ関連の業界人だった。例えば、インフルエンサーでスタイリストのアレリー・メイ(Aleali May)、WAH Nailsを創業したシャーマディーン・リード(Sharmadean Reid)、ファッション エディターのジュリア・サー・ジャモア(Julia Sarr-Jamois)、Fashion Eastを立ち上げたルル・ケネディ(Lulu Kennedy)、モデルの水原希子。だが、「Hot Wok」トップスは、各誌のエディトリアルでもてはやされるだけでなく、ストリートを惹きつけるトレンドでもあった。写真につけられたコメントには、「どこで買えるの!?」、「どうすれば買えるの??」、といった悲鳴に近い問い合わせが並ぶ。何かが要る、それも今すぐ(!)という欲求は、時として、迅速かつ完全に満たされることを求める。さしずめ、ワードローブに必要な点滴だ。Instagramで「Hot Wok」に「いいね」を1回クリックした後は、どうしたものか、私の「発見」ページに繰り返し表示されるようになった。本当に何かを欲しいのか、単にパターンとして提示されるからそう思い込むのか、見分けるのはますます難しくなる。いずれにせよ、「Hot Wok」トップスは広がりつつあった。私の頭の中でも、もうコーディネーションは決まっていた。バギーなブラックのコーデュロイ、全天候型スニーカー、そしてウエストにカーディガンを巻きつける。そんな止むに止まれぬ欲求を掻き立てるのは、新進デザイナーが望みうる最高のシナリオだ。

    「Hot Wok」をデザインしたア・サイ・タは、中国とベトナムをルーツとするイギリス人であり、セントラル セント マーチンズの卒業生であり、優れた新進ロンドン デザイナーを支援することで有名なファッション イーストの出身でもある。ア・サイは、保守的なラグジュアリー業界の柱であった「稀少性」を新しい方法で利用する、次世代の一員だ。従来、Hermèsの「Birkin」に象徴されるような「超人気」アイテムは、特定の人々しか手に入れることができなかったが、次世代デザイナーのあいだでは、これまで取り残されてきた集団へ購買能力を移行させようとするコンセプトが育ちつつある。ブルックリンで活躍するレーチョ・オモンディ(Recho Omondi)、同じくセントラル セント マーチンズで学んだロンドン デザイナー仲間のモワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)など、同世代のデザイナーは、自分たちがデザインした服をどんな人たちが着ているのか、細心の注意を払っている。それは、ますます多くをデザイナーに要求する業界で、自分の創作を管理し、美学だけでなく倫理をも共有する新たなファッション集団を構築するための、数少ない手段のひとつだ。

    「とても印象的な代表作だね。ジャン・ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のメッシュのトップスを思い出すな」と、『Allure』誌のファッション エディター、マリオン・ケリー(Marion Kelly)が言う。「レイヤードやミックス & マッチで、自分のスタイルを作れる。きっとクラシックになるよ」。昨年ロンドンに滞在していたとき、親友が着ていたのを見て、Instagramでア・サイにコンタクトし、直接代金を払う方法でケリーも1枚をゲットした。「『Hot Wok』を着ると、自由で挑発的な気分になるんだ。まさしく第二の肌みたいな感触だよ」

    「Hot Wok」は、去年の夏を席巻したBatshevaのドレスとは、正反対だ。植民時代、コスチューム感覚、「無知こそ至福」的要素は薄く、もっと私たちと普遍的な結びつきを感じさせる。デザイナー ファッションではほぼ絶対にありえない、矛盾した結びつきだ。タイダイ – 多くの場合は、タイダイを模した処理だが – は、あちこちに顔を出し始めている。例えば、 ProenzaPradaKwaidan。ファッション界全般が色彩と模様のトレンドへと向かう、ちょうどそのタイミングで「Hot Wok」は誕生した。私たちは、「ピース & ラブ」を掲げたかつてのヒッピーたちのスタイルで、自らを癒そうとしているのかもしれない。今の社会にはそのどちらも枯渇しているから…。「楽しくて、同時に逃避的」と、SSENSEのウィメンズウェア バイヤーのイスラ・リンチ(Isla Lynch)は「Hot Wok」を形容する。メッセージがなくては、現代の究極の「イット」にはなれないのだ。

    ファッションにおいて、カルト的な熱心さで何かを支持する行為は、実は、コミュニティを形成するためのコードに過ぎない。身に着けているブランドが、加わりたいと願う集団を指し示す。私たちは思っている以上に「ブランド過敏症」なのだ。ちなみに、ア・サイが経験を積んだのは、ラグジュアリー ファッションを代表するThe Row。The Rowのデザインだというだけで、ほとんどの人にはとても手の届かない値札がつく。ショーには慎重に厳選されたゲストが招待される。METガラと同じくらい、いや、それよりさらに細く扉は閉じられている。ア・サイは、新しいタイプの熱烈なファン集団を形成し、排他的ではなく「包含的」に影響力を発揮する新しいタイプのブランド ロイヤルティを象徴する。自分たちで形成し、メッセージを発信する、セルフメイドの集団である。

    雑誌を見るのが大好な子供だった私は、最新ファッションの広告を、テープでベッドルームの壁に貼り付けていた。Dior 2004年秋の「Rasta」キャンペーンは、耳あてのついた毛皮のウシャンカをかぶり、レッドとグリーンとイエローのビキニを着て、モノグラム模様のバッグとスノーボードを持ったジゼル・ブンチェン(Giselle Bündchen)。2003年の春は、パーフェクトなフローラル柄のドレスで、Miu Miuのバッグを抱きかかえているモノクロ写真のジェシカ・スタム(Jessica Stam)。私にとって、ハイ ファッションは、愛するけれどお返しに愛されることはない行為の演習だった。私の胸が高鳴ることは確かだったが、私のものにはならないこともまた、よくわかっていた。それらは単なるブランドを超えた「ハウス」であり、ロゴには当時の私に理解できる以上の歴史が託されていた。その世界に入りたかったけれど、扉の前には先ず、それなりの人種、それなりの階級、それなりの体、それなりの富という障壁が立ちはだかっていた。

    「最終的に目指しているのは、さまざまな文化の相違をとり上げるのではなく、それらの類似性を示すことです」と、『ニューヨーク タイムズ スタイル マガジン』のインタビューで、ア・サイは語っている。現在も支配的なラグジュアリー ブランドを支える伝統の観念は、一方で、倫理面での問題、旧弊なブランド基準でもある。ア・サイが目指す調和の感覚は、そんな伝統の観念よりるかに私たちの心を惹きつける可能性を秘めている。確かに、より多くの人々を反映した新しい伝統づくりを考えるほうが、ずっと楽しいに違いない。

    Romany WilliamsはSSENSEのスタイリスト兼エディターである

    • 文: Romany Williams