Jacquemusが「ガッジョ」でメンズウェア デビュー

ジャックムスのファッション観では、ウィメンズが姉、メンズが弟

  • インタビュー: Chris Black
  • 写真: Liam Goslett

今年の2月、プティ パレで開催された2018年秋冬ランウェー ショーの最後に、サイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)はキャメル カラーのフーディで舞台に登場し、観客に挨拶した。胸には「New job l’homme Jacquemus – 新しい仕事 ジャックムス メンズ」のプリント。メンズ コレクション デビューを発表する、いかにもジャックムスらしい茶目っ気のあるやり方だった。初のコレクションは、故郷に近いマルセイユのカランク国立公園で、先日披露された。

セーヌ川を見下ろす場所に、これという特徴のない白いビルがある。以前agnès b.が入っていたこの建物で、Jacquemusは40名の情熱的なスタッフと共に、プレタポルテのコレクションを作り出す。ブランドを立ち上げたのは19歳のとき。パリのComme des Garçonsストアで働いていたときの貯金が元手だった。28歳を迎えた現在、人を惹き付けて離さない個性といかにもフランス的なルックスで、ジャックムスはファッション界に煌く本物のスターだ。やることなすことが詩的で、無垢で、肩の力の抜けたユニークなセンシュアリティを放散する。デザイナーとしては、ほぼ独学に近く、大きな後ろ盾もない。ファッション業界コングロマリットの恩恵を受けることもなく、コンスタントに作り続ける。過密なスケジュールにもかかわらず、自由と幸福を何よりも優先してみせる。若くして成功したデザイナーにしては、珍しく新鮮な在り方だ。

そんなジャックムスをパリに訪ね、デビューを飾るメンズ コレクションについて話した。これは、数週間後にはまずSSENSEでローンチされる。6月中旬のよく晴れた日、待ち合わせたのはジャックムスのオフィスに近いレピュブリック広場のカフェ「Fluctuat Nec Mergitur」。時折りジャックムスが腰を下して、スケートボーダーを眺める場所でもある。間もなく、飾り気のないブルーのTシャツ、テクニカル性能に優れたDunlop社製の膝下丈ワークウェア ショーツに、足元にはきれいなNikeエア モナークという姿でジャックムスはやって来た。日の出に起床してボクシングの練習をこなし、短時間の昼寝から起きたばかり。フランス語でふたりの飲み物を注文してくれたが、僕がアメリカンを頼むとクスリと笑う。肉体を謳歌すること、愛する南仏、子供の頃から目にしてきた地中海の男たちの実直なスタイルを、ジャックムスは語った。とても寛いで自信に溢れたその様子は、世界に向けて「Jacquemus man」を見せる準備がすっかりできているようだった。先週末、リアム・ゴスレット(Liam Goslett)がマルセイユに飛び、ショーを控えたジャックムスを撮影した。

クリス・ブラック(Chris Black)

サイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)

クリス・ブラック:君が「Jacquemus man」として初めてシェアしたイメージは、ラグビー選手のヨアン・マエストリ(Yoann Maestri)が地中海から上がってきたところだったね。あの写真、君が撮ったんだって?

サイモン・ポート・ジャックムス:あの雰囲気、ああいうタイプの男性を、僕は表現したいんだ。自由で、海が似合う男性。コットンの白いシンプルな下着だけで、それ以外何も身につけていないミニマルなところが、アイデアとして気に入ってる。ヨアンはフランスでは有名なラグビー選手だから、もちろん僕も知ってたよ。でも話してみて、彼が単に肉体的に「Jacquemus man」なだけじゃなくて、精神的にも、正真正銘の「Jacquemus man」だとわかった。どういう写真にするか、そのイメージを彼に説明していた時「すごい好きな映画があってね、犬も出てくるんだ」と僕が言ったら、「ああ『グラツィアの島』のことだね。僕もその映画、大好きだよ」と即答したよ。

単なる肉体派のアスリートではなくて、教養もある。

トゥールーズに、アート ギャラリーも持ってる。素晴らしい人だ。逞しい肉体を謳歌しているだけじゃなくて、心も精神も美しい。だから、まさに「Jacquemus man」にふさわしかった。とてもいいやり方で、肉体を賛美することができたと思う。

Instagramを見ると、常に身体を動かしているみたいだけど、それは精神的にも役に立ってるのかな?

うん、運動しなかったら、僕は集中できないだろうな。

子供時代はスポーツをしてた? スポーツはしないけど、活動的だった?

たくさん踊ってた。バレエ、ヒップホップ、ミュージカル コメディ…ありとあらゆるダンスをやったよ。学校では、まったく集中力のない出来の悪い生徒だったから、ダンスに助けられたし、今も助けられてる。

ウィメンズ コレクションにはいつもストーリーがあるけど、メンズ コレクションのストーリーは?

最初のコレクションのタイトルは「ル ガッジョ」。南仏では、ロマの男たちがよそ者を「ガッジョ」と呼ぶんだ。それは例えば、全身をブルーで決めた男。財布もブルー、トラック スーツの上下もブルー、帽子もブルー。頭の先から爪先まで、殆どやりすぎのスポーツ ルック。あるいは、開いたシャツの胸からもじゃもじゃの胸毛をのぞかせて、ゴールドのチェーンをじゃらじゃらつけたスーツ姿のおじさん。「これ一体、誰?」って感じのスタイル、それが「ル ガッジョ」。

やりすぎがひとつのスタイルになって、うまくいくこともある。

僕にとっては、地中海的なスタイルを追求することがとても大切だった。マチス(Matisse)っぽい花が描かれたスイムスーツもある。ネクタイやバッグ、ジュエリーも作った。

大々的なスタートだな!

すべてが一緒になって意味が生まれるから、あらゆることをきちんとつかまえておく必要があったんだ。僕が伝えることを理解するには、すべての表現の意味を知ってもらうことが大切だ。

その点で、君自身がいわゆる原型だったのかな? それとも、君以外の男性を頭に描いてデザインしたの?

僕はある男性と恋に落ちたのをきっかけに、このコレクションを始めたんだ。恋して、恋人のためにコレクションを作る、それがもともとのインスピレーションだった。

その関係は現在進行形?

いや、ショーのことを発表したときは、もう終わってた。そういう意味でも、いつもその瞬間を大切に楽しまなくちゃね。でも、もういいんだ、そのことは。

メンズのコレクションは、ウィメンズのコレクションと何らかの繋がりがあるのかな? それとも、まったく別物として考えてる?

ウィメンズはもっとシックだし、もっと複雑に入り組んでいる。メンズは、ウィメンズの弟みたいなもんさ。ちょっと成長する時間が欲しいな。

つまり、思春期から始めて、成長していく。

それが僕のストーリーだよ。単なるファッション ブランドじゃない。僕がJacquemusを立ち上げたのは19歳、母が亡くなったときだった。僕はずっと母を頭に描いて女性のためのデザインをしてきたから、そこには伝記的な要素があった。メンズを始めなかったのは、売れることが大切だったから。でも、恋する人が現れて、男性についても表現したくなったんだ。

コレクションを始める理由としては、とても純粋だな。今回のコレクション、あるいは今回のコレクションへの視点には、君の子供時代のどんな体験が取り入れられているんだろう?

沢山あるよ。だって、それが僕が男性を見る見方だし、ずっと前から、男性は僕のインスピレーションの源だったから。地中海辺りの男性は、とても純朴な感じがする。ある意味で、とても素朴なコレクションになるはずだ。

メンズのコレクションに取り掛かっているとき、どんな音楽を聴いてた?

リュック・ベッソン(Luc Besson)が監督した『グラン ブルー』のサウンドトラックをよく聴いた。大音量でね。僕のオフィスでは、みんながいつも音楽を聴いて、歌ってるんだ。僕たちは皆若いし、第一、Jacquemusだもの。

今回のショーに大きな期待が集まってるけど、君自身はどんな気持ち?

自信はあるよ。ショーの前にストレスを感じることはまったくない。ひとつ、とても楽しみにしてるのは、南仏に人を連れて行けること。それも、綺麗な邸宅とか人気のある場所とか、そういうものとは無関係。カランクという、僕が世界で一番美しい場所のひとつに挙げるところへ人が集まるんだ。僕の夢だったよ。国立公園だから、最初は実現できそうになかったけど。

どうやって実現させたの? 色々と、たくさん規制があっただろうに。

大筋では、マルセイユの市長が尽力してくれたんだ。僕が以前からマルセイユのことをあちこちで話してるのを知ってて、「よし、応援しよう」という気になってくれた。音楽をかけるのが、国立公園では一大事なんだ。悪夢だよ、今も続いてる悪夢。細い小道を通って200人が大挙して押しかけるのも、かなり問題だけど。

マルセイユには、しょっちゅう帰るの?

そう、しょっちゅう。パリはそれほど好きじゃない。

本当に?

多少なりとも魅力的ではあるけどね。

僕と同じようなことを言うんだね。

パリの人がいつも笑顔になったら、好きになるかもしれないけど…。

ニューヨークは好き?

ニューヨークのエネルギーは大好きだ。実は、ボーフレンドはニューヨークの出身だったから、去年は何度も行ったよ。実際ニューヨークで暮らすのも悪くない気がした。

暮らす?

暮らせたと思うよ。彼とは終ったから、暮らすことはもう考えてないけど。また行きたいとも思わない。今回のショーは、本当は、ブルックリンで彼を驚かせるつもりだったんだ。川のそばに大きな遊び場があるんだ。

その場所、知ってるよ。じゃあ、このショーはもともとあそこで開催予定だった。

そう、最初はね。だけど、その後全面的に変わった。でも、とてもニューヨーカー的な要素も、いくつか残ってるよ。例えば、見たらきっと「ああ!」と思うパンツがある。

「ああ、ニューヨークのパンツだ!」とわかるわけだ。ところで、いつかは故郷へ戻ると思う? そういう可能性はある?

生まれ故郷の町じゃなくて、マルセイユならね。夢だよ。今現在、そういう方向に持っていこうとしてる。週に1回パリに来るようにすれば、実現できるはずだ。チームがついてきてくれるかどうかだな。みんな、マルセイユは日の光が溢れてて、家賃がパリの3分の2だということは知ってるけど。

実現したら、素晴らしい暮らしだな! 優秀な人材がついて行けば、問題はないと思うよ。仕事以外にも、君はスタッフと一緒に過ごす時間が長いの?

うん、僕たちはとても仲がいい。辞めていったスタッフはひとりもいない。

とても良い職場みたいだね。

若いデザイナーとか、辞める人が多いのは、仕事場があまりにクレージーだからだよ。怒鳴ったり、叫んだり、けんか腰になるデザイナーが多過ぎる。僕はいつも笑顔。僕の笑顔が消えると、スタッフは仕事をやりにくくなる。僕だっていつも最高にフレンドリーなわけじゃない。集中する時は集中するし、自分の考えていることをはっきり口に出すけど、感情的になることはないよ。

小売店で働く経験は僕にとって、とても大きな意味があった。あらゆる人に対処することを学べた。君の場合はどう?

僕にとっても役に立つ経験だったけど、僕の場合、週末は家族といっしょに野菜や果物も売ってたからね。だから、別に違和感はなかったんだ。売らなきゃどうしようもないし、そのことについて悪びれる気持ちはない。

メンズ コレクションはリスクだと感じてる?

独立デザイナーとしては、確かにリスクだ。最初のコレクションが売れなかったら、次のコレクションを作れない。でも、あえて歓迎するリスクだ。それに、作ったものが売れない日がきたら、その時は止めて他のことをやるさ。

君の次なる段階は?

ファッションの領域とは関係ない、大きな目標があるんだ。今、それに取り組んでる。僕の人生最大のプロジェクトのひとつになるだろう。

Chris Blackはライターであり、ニューヨークのPublic Announcementのパートナー。また『T: The New York Times Style Magazine』、『Vogue』、『GQ』、『Architectural Digest』などでも執筆を行う

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