Palomo Spainのメンズウェアはクイーンにこそふさわしい

アレハンドロ・パロモとマイケル3世の対話

  • インタビュー: Michael the III
  • 画像提供: Palomo Spain

「今、何を着てるの?」と、僕は電話越しに尋ねる。相手は、もはやアイコン ブランドとなったPalomo Spainのデザイナー、アレハンドロ・ゴメス・パロモ(Alejandro Gómez Palomo)。雨降りのマドリッドにいる。僕の質問に、アレハンドロはものすごく丁寧に答えてくれる。第一、記憶力が半端ない。例えば、彼が着ているYves Saint Laurentのデニム ジャケットが発表されたシーズンまで正確に覚えているんだ。ずばり、2007年春夏コレクション。そこから僕たちの話は1960年代後半、ウッドストック、モノクロ写真が当たり前だった出版物、ステファノ・ピラーティ(Stefano Pilati)がYSLのアーカイブから復活させたコレクションへと流れていく。

目立ちたくないという人に、Palomo Spainは向かない。エレガントなアイテムでさえ、大胆という形容詞を外すことはできない。控え目であっても、ほぼ例外なくセクシーだ。抑えた色使いであれば、シルエットが主張する。テクスチャや模様が見落とされることはない。チラチラとコケティッシュに煌めいているかもしれない。透けてアンダーウェアが見えるかもしれない。どのアイテムにも、絶対に驚かされるだろう。そして必ず魅了される。

アレハンドロは、早くからファッションへの関心に目覚めたという。2017年のLVMHプライズでファイナリストに選ばれたほどの腕は、先ず故郷のポサーダス(スペイン、アンダルシア州)で、バービー人形の服作りに発揮された。今年は、パリ国立オペラのバレエ衣装をデザインした。ファッション分野の人材を発掘するテレビのオーディション番組「Maestros de la Costura」では審査団の一員を務めるが、僕たちが話したのはシーズン2の番組収録が中休みの日だった。今年のラテン グラミー賞では、最多部門でノミネートされた女性アーティストのロサリーア(Rosalía)が、Palomo Spainを着てステージに立った。同じドレスを着て出席したヨーロッパ ミュージック アワード(EMA)では、昨年、リタ・オラ(Rita Ora)がPalomo Spainを着た。そのほかにも、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)、コルトン・ヘインズ(Colton Haynes)、トロイ・シヴァン(Troye Sivan)など、これまでにPalomo Spainを選んだセレブは枚挙に暇がない。だがPalomo Spainがいちばん世界の注目を集めたのは、現代世界の女王ビヨンセ(Beyoncé)が双子をくるんで佇んだドレスだろう。

最新コレクション「Wunderkammer」に、パープルのタフタを使ったルックがある。パンツも袖もゆったりと大きく、羽毛がシルエットを取り巻く。それを着て歩くモデルは、後光に包まれた別次元の存在に見える。アレハンドロ自身、この作品が好きだという。ホテルをコンセプトにした「Hotel Palomo」コレクションには、羽ぼうきを手にしたメイドが登場した。襟のあるブルーのシャツを結んで、平らなおなかと太陽に口づけされた褐色の胸を見せている。ローウエストのベルトには、大きさの違う鍵がいくつもぶら下がっている。きっと、すごくお洒落な今日の当番で、お掃除をしてまわる部屋の鍵だ。ホテルの宿泊客はシアなガウン姿で現れる。もしかしたら本当にバスローブなのかもしれないけど、豪華なイブニングウェアにインスパイアされていることは間違いない。体を露出していない部分は、ビーズが花の模様に縫いつけられている。モデルの動きにつれて、手首にほどこされたオストリッチのフェザーがスローモーションで揺れ動く。2000年にジェイローことジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez) が超フェミニンなシルエットで世界を唖然とさせたVersaceのドレスを連想させるが、それを上回るくらいセンシュアルな装い。

だが、果たしてPalomo Spainのファッションは男性的か? 女性的か? 感じ方次第で、答えは違うのか? ファッションの決まり事に関して、アレハンドロは言う。「何を着ようと、100%自由さ」

マイケル3世(Michael the III)

アレハンドロ・ゴメス・パロモ(Alejandro Gómez Palomo)

僕が今までに着たPalomo Spainの中で好きなのは、2018年秋冬コレクションの、お尻にフラップが付いたトラウザーズ。ボタンを外すと開いちゃうあのフラップは、すごくセクシュアルだよね。

そう。僕はいつも洗練された感覚を表現したいと思ってるけど、あのパッチはちょっとユーモラスだろ? 茶目っ気があって。

インタビューで読んだけど、君はジェンダーをテーマにしてるつもりはないそうだね。君にとっては、もっと、自然に生まれる表現だと…。

ジェンダーを考えて服を作ったことは一度もない、ってことだよ。男性が何でも好きなものを好きなふうに着られる、そういう自由が原点なんだ。僕たちは、あらゆるものがとても厳しく制限された時代に育ってきた。ファッションだけじゃなくて、全般的にね。「これは女性用、これは男性用」みたいに…。何ていうか、そういう先入観を取り除けるんじゃないかと思うんだ。

豪華なイブニング コートでも柄物のスーツでも、男性が何でも好きなものを着ることが許されるべきだと思う。フェザーのコルセットだって大きなシルクの帽子だって、いいじゃないか

実は、以前、空想してたことがあるんだ。もしも僕がアカデミーで「ディズニー映画最優秀悪役賞」みたいなのに選ばれたら、授賞式には何を着て行こうかな?って。まだ君の最初のコレクションが発表される前で、そのとき、男性にはセクシーなフォーマルウェア、それどころかクリエイティブなフォーマルウェアさえ、選択の余地がほとんどないことに気がついたんだ。

スーツしかないもんね。

男性のエレガンスやセンシュアリティを表現する場合、許される表現方法が既定されてることとすごく関係があるんじゃないかと思った。

僕たち男性だって、ドレスアップしていいはずだ。タキシードだけに縛られる必要はない、そうだろ? 仕事関係でもパーティでも、タキシードだけを着ていったことは、僕は一度もないよ。豪華なイブニング コートでも柄物のスーツでも、男性が何でも好きなものを着ることが許されるべきだと思う。フェザーのコルセットだって大きなシルクの帽子だって、いいじゃないか。そうできる時が、少しずつだけど、実現すると思う。多少は実現してる部分もあるけど、もうちょっと時間がかかりそうだな。

歌手のロサリーアのステージ衣装をデザインしてるよね。そういうふうに注文を受けて作る場合、デザインのプロセスは違ってくる?

すごく違うよ。ロサリーアの場合は、動きを考慮したカットでなきゃいけない。安心して自由に動ける衣装。彼女は、ステージでたくさん踊るアーティストなんだ。とにかくショーの間じゅう動き続けるから、着心地よく動けることが先ず最優先。それから、ロサリーアが表現しようとしていることを、理解する必要がある。アルバムで、彼女は何を語っているのか? それから、彼女が好きなもの、感じていること、着たいもの、着たい色、唄う歌。とても複雑で難しいプロセスだけど、僕のデザインを着てステージで輝いてる姿を見ると、すごく綺麗だし、満足感も大きい。強い女性なのも、制作の刺激になってる。とにかく、デザインするプロセスはまったく違うね。

Rosalía 着用ブランド: Palomo Spain

Rosalía 着用ブランド: Palomo Spain

創作意欲を刺激するという点では、母国が大切なインスピレーションの源だと繰り返し言ってるよね。ブランドの名前にも「Spain」を入れたくらいだし。君のデザインで、とてもスペイン的な要素なのに、僕みたいな外国人がそうと気づかないものってある?

そこがロサリーアと僕の結びつきだと思うよ。自分が生まれた国を意識して、堂々と正面に出す。スペインを出ると、スペインで生まれたことを明言しない場合が多いんだよ。スペイン出身のデザイナーは国際的なデザイナーになって、ちょっとパリ風やちょっとベルギー流のデザインを作ろうとする。スペインにあるもの、他所とは違う個性をきちんと見ようとしない。「これがスペイン流儀のファッションです。スペインではファッションをこう考えます」って言えることが、すごく大切だと僕は思うんだけどね。

世界中、場所が違えば手法も違う。だからファッションが面白いんじゃないかな。僕の場合は、何から何までスペインでやる、制作も製造も全部スペインでやることに意義を感じるし、それを守り続けるのが僕独自のやり方だ。スペインの職人やスペイン独自の技術をたくさんとり入れてるし、僕が生まれた村の出身者だけで作ったチームとも共同作業してるんだ。それが、僕自身を表現して僕の個性を育てる、とても素晴らしい方法だと思ってる。

でも、自分が望むものを探すためには、いつか故郷を出ることがとわかってた?

そうだね。生まれた町から出たいと、ずっと思ってたよ。何にも見るものはないし、すごく退屈だったから。世界と出会ってみたかった。僕自身を表現して、たくさんの人に出会いたいと思ってた。多分14歳か15歳の頃だったと思うけど、「ロンドンで勉強したい」と友達に言ったのを覚えてるな。

君の作る服にはセックスが欠かせない要素だけど、服でセクシーに感じるのは何?

鎖骨が見えてるのが好き。だから、デザイナーになりたての頃から、17世紀の服のネックラインみたいに、襟ぐりがすごく広くて深いんだ。小ぶりなジャケットとかちょっとフェミニンなコルセットで、普段は隠されてる体の一部がちょっと見える、っていうのがすごくセクシー。セクシーって、その人の在り方にも関連してると思うよ。かっちりした仕立てのコートで、体のどの部分もまったく露出してなくて、完璧に正統派のスタイルでも、着てる人次第で最高にセクシーになるからね。

さて、君がディナー パーティを開いて、5人を招待するとします。もちろん全員がPalomo Spainを着るんだけど、どんな人を招待する?

マイケル3世。

うわ、ありがとう。喜んで。

それから、ハミッシュ・ボウルズ(Hamish Bowles)。ディナー パーティに招待したら面白そうだから、マノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)。あとは、強い女性がふたり要るな。先ずマドンナ(Madonna)。彼女のことはよく知りたいし、本当にすごい女性だと思ってるから。

大賛成。彼女、スペインが大好きだし。

うん、僕たちゲイの男性には絶対必要なタイプの女性だよね。あと、同じタイプでもっと若い女性がいいな。誰か、隣に座ってほしい人、いる?

僕は、ソフィア・ローレン(Sophia Loren)に君の服を着せてみたいんだ。

それ、いいなぁ。

単に、僕の好みだと思うけど。

僕がデザインした服には、面白い特徴があるんだ。ファッションなんかに関心があるトレンディーな若い男の子に人気があるけど、年配のマダムもお好みみたいで、よく買ってくれる。とっても不思議な組み合わせだよね。パロモ ガールは、パロモ ボーイのガールフレンドというより、母親みたいな感じ。わかる? Palomo Spainを愛してくれる女性は、母親像に近いの。

僕たちが崇拝する「母」の象徴。

そのとおり。

ところで、ミニマルなコレクションが誕生する可能性は?

ミニマルであろうとしてるんだけどね。 心がけてはいるんだ。この前のコレクションは、意図的にミニマリズムを目指したし…。ただ僕の場合、ミニマリズムというコンセプトはあっても、色々な要素を使うのが好きなんだ。わかるだろう? ディテールが大好きだし、テクスチャやファブリックでも表現したい。どんどん着て、着てるうちに擦り切れて、何かとてもミニマルなもの、とてもシンプルなメッセージを伝えるものに変わる…そんな服がいいな。シンプルでエレガントな服は作れるだろうけど、本当にきれいさっぱり何もないミニマルは、僕には絶対無理。

初めて君のコレクションを見たときは、感動したよ。君が作ってくれたようなデザインを着たいと思ったら、それまではウィメンズウェアしかなかった。でもそれだと、もちろんサイズが合わない。自分が着たいと思う服が見つからなくて、僕と同じように感じてる人、僕よりもっと切実な気持ちを感じてる人は、どのジェンダーにもいると思う。そんななかで、君のコレクションは新しい可能性の世界を作ってくれた。君のデザインを着ると、着た人が一種の変容を遂げる…そういうのを目にすることはある?

もちろん、もちろん。僕の服を着ることで、感じ方がまったく違ってくるんだ。ちょっと冒険だとか、どうも落ち着かないだろうとか、最初は感じるかもしれない。だけど、いざ実際に着た人の反応は、とても素晴らしい。ほとんど魔法を見てるみたいだ。僕の服は、着る人の感覚を変えられる特別な服だよ。高揚して、美しくて、華やかな魅力に溢れた気持ちになる。人生に対する姿勢を根こそぎ変えるんだ。

Michael the IIIはモントリオール出身のライター兼フォトグラファー。『Gayletter』、『Document Journal』、『THEFINEPRINT』など多数に執筆を行う

  • インタビュー: Michael the III
  • 画像提供: Palomo Spain