2018年もまた、激動の年だった。あまりに波乱続きなので、とても年末まで辿り着けないのでは、と危惧することもあった。だが、何はともあれファッション。アート、カルチャー、アイデンティティのもっとも浅薄な表現とみなされることが少なくないファッションだが、私たちの誰もが、1年を通じて毎日欠かさず(あるいは、ほぼ毎日)、ベッドから出て必ず何かを着るのだ。年末を迎えるにあたり、特に印象に残った2018年の12のアイテムをSSENSEのエディトリアル チームが厳選した。「誰が、どんな理由で、何を着たか」を考察して、その時々の社会の在り方を振り返り、今後の展望を探ってみよう。

カーディ・Bがニッキー・ミナージュに投げつけたシューズ

去年カーディ・B(Cardi B)が歌った喧嘩腰なラップの歌詞には「シューズ」が登場したが、 今年はそれが現実になった。『ハーパーズ バザー』が9月にニューヨークのプラザ ホテルで主催した「ICONS」パーティでの顛末だ。レッドのとてつもなく分厚いプラットフォーム シューズの片方をニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)に投げつけた後、会場を裸足で後にしたカーディ・Bは、同じく片方の靴を失くしたシンデレラとはちょっと話が違う。長らく互いにディスりあってきたカーディとニッキーの不仲がついに頂点に達した瞬間ではあったが、女性ミュージシャンが業界で非常に狭い領域を競わざるをえないという、より大きな問題の沸点でもあった。リル・キム(Lil Kim)、アゼリア・バンクス(Azealia Banks)、レミー・マー(Remy Ma)、レディ・リーシャー(Lady Leshurr)…。特にメディアやエンターテイメントなど、男性優位の世界では月並みな才能しかない男性に際限なくチャンスが与えられる一方、女性に対して開かれた扉はあっという間に閉じられてしまう。今に始まったことではない。ひとりの女性ラッパーがもうひとりの女性ラッパーに靴を投げつけたにせよ、本当の責任はどこにあるのだろうか? 何にせよ、この事件からなにがしかの教訓があるとすれば、それでなくても凸凹だらけの領域を裸足で歩こうとすれば新たな障害が生まれるだけ、ということ。2019年は、レッドのシューズを履いた足が常に地についているように願うばかりだ。

メラニア・トランプの「I REALLY DON’T CARE. DO U?」ジャケット

2018年6月、メキシコとの国境にある不法移民の子供たちの収容施設を訪問するため、メラニア・トランプはテキサス州へ向かった。よりによってそのときに着用したZaraのミリタリー グリーンのジャケットの背中には、グラフィティ風の書体で「I Really Don’t Care. Do U? – 私にとっては、本当にどうでもいい。あなたはどうなの?」というフレーズが入っていた。おそらく、不当な低賃金の労働者によって縫製された製品でもあるだろう。メラニアは最初、ジャケットを選ぶにあたって何ら意図はなかったと言い張ったものの、その後主張を変え、「フェイク ニュース」を流すメディアに向けたメッセージだったと説明した。本当のところはどうなのか知る由もないが、偶然にせよ、メラニアが安価な服を着たのは確かにこれが初めてだろう。もうひとつ、 アメリカ大統領夫人(First Lady of the United States)、略して「FLOTUS」ファッションとして初めてだったのは、感謝祭の夕食会に、以前着用したドレスで出席したことだ。数あるブランドのなかから選ばれたのは、人種差別的広告のために世界中でボイコットが起きているDolce & Gabbana。どうやら、メラニアは、本当にどうでもいいらしい!

ルース・E・カーターがデザインした『ブラックパンサー』の衣装

ルース・E・カーター(Ruth E. Carter)は、『スクール デイズ』や『ドゥ ザ ライト シング』から『マルコムX』に至るまで、スパイク・リー(Spike Lee)監督のほぼ全作品で衣装デザインを担当してきた。のみならず、『愛の魔力』、『ステラが恋に落ちて』、『シャフト』、『グローリー/明日への行進』、『ルーツ』、『ブラックパンサー』など、今や古典となった多数のヒット作でも衣装をデザインしてきたから、どの年も「ルース・E・カーターの年」ではある。だが今回のテーマである2018年に限れば、何といっても『ブラックパンサー』。数々のスーパーヒーローを生み出してきた巨大企業「マーベル コミックス」へ、史上最大級の貢献をもたらした快挙といえる。キャラクターの衣装デザインは、架空の国ワカンダに憧れる「ワカンダ ファッション」を生み、レッド カーペットから『GQ』マガジンのページ、2018年NBAダンク コンテストのコートまで、今年はあらゆる場所にアフロフューチャーの波が押し寄せた。

懐古的にロマンティックなBATSHEVAドレス

オンライン マーケットプレイス「Etsy」で売られているLaura Ashleyのビンテージのドレスは、平均して約1~2万円の価格帯、それ以上のことは滅多にない。そこはかとなくシャイでロマンティックな英国風デザイン、あるいはプレーリーを想わせる花柄、繊細なシダの葉のプリント、スクエアなカットの胸元、細かいピンウェール コーデュロイ、柔らかなフランネルや膨らませた袖…そんなスタイルが好きなら、必ずこれはというドレスが見つかる。さてここで150年早送りして、人々に愛されたウェールズ出身デザイナーのローラ・アシュレイ(Laura Ashley)を、カルト的なファンを持つアッパー イースト サイドのデザイナー、バットシェバ・ヘイ(Batsheva Hay)と置き換えてみよう。2018年を舞台にした『大草原の小さな家』を想像してもらえればいい。インガルス・ワイルダー(Ingalls Wilder)よりは、どちらかと言えば「イット ガール」に近いこのスタイルを表して、『ニューヨーク タイムズ』は「アーバン プレーリー ガール」、略して「U.P.G.」という新語を造り出した。突如としてInstagramに溢れたファンタジックなエプロン、こしのあるシルクのモアレ、そしてコットンのキャリコ、キャリコ、キャリコ。ラッフルとスニーカーを組み合わせ、アフター パーティにハイ カラーを着て、レッド カーペットをパッチワークで歩く慎みのアイロニー。シンディ・シャーマン(Cindy Sherman)、コートニー・ラブ(Courtney Love)、勿論ローラ・アシュレイ、そして現代女性ヘイのユダヤ正統主義ライフスタイルに刺激されて、レナ・ダナム(Lena Dunham)、ヘイリー・ゲイツ(Hailey Gates)、ジリアン・ジェイコブス(Gillian Jacobs)など、Batshevaのファンになったセレブも数多い。ヘイは米国ファッション協議会(CFDA) のファイナリストにも選ばれ、『ニューヨーカー』の「プロフィール」で紹介され、無数の「イット ドレス」でトレンドを生み出した。それらすべてが、ひとつの大きな疑問に収斂する。すなわち、次に来るのは何か? 一つ覚えのプレーリー ドレスの後には、何が続くのか?

グレートフル デッドのタイダイTシャツ

2018年のグラフィックを制したチャンピオンは、文句なく、グレートフル デッドのタイダイTシャツだ。この愛すべきアイテムが広く出回った結果、「デッドヘッズ」と呼ばれるグレートフル デッド愛を掲げるトライブは飛躍的に数を増した。果てしなきノスタルジア、あるいは単純明快な時代への憧憬…流行の理由をどこへ求めるにせよ、タイダイとオルタナ クールの結びつきは見事に時代精神を捉えた。量販スーパーのウォルマートでも在庫が追い付かなかったほどだし、流行の兆しが見え始めると、ハイプなメンズウェアを貫く『GQ』マガジンでさえ飛びついて、「タイダイなしに、今年の夏はまともに過ごせない」と宣言した。インディー系ブランドOnline Ceramicsは「デッド」派スタイルで大きく売り上げを伸ばし、新たなスタイル アイコンになったジョナ・ヒル(Jonah Hill)は、グレートフル デッドがスポンサーとなり、アーティストのグレッグ・スピアーズ(Greg Speirs)がグラフィックをクリエイトした1992年リトアニア バスケットボール チームのレアなウェアで注目を浴び、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh) は、カジュアル ファッションとレッド カーペットの両方にふさわしい定番アイテムとしてタイダイを取り入れた。グレートフル デッドのキャラクターだった「ジェリー ザ ベア」、別名「デッド ベア」をあしらったTシャツ姿の大衆は、果たしてグレートフル デッドの音楽のファンでもあるのだろうか? どうもその点は確信できないが、忠実なデッドヘッドたちは気にしないようだ。同じグッズが、手を変え品を変え登場することこそ、グレイトフル デッド グッズの本質。誰でも歓迎して、ちょっと遊ばせてくれるのだ。

バイク用のデザイナー ショーツ

2018年に押し寄せたバイク ショーツ大洪水の最初の一滴は、故ダイアナ妃へオマージュを捧げたOff-Whiteの2018年春夏コレクションで、80年代のエッセンスを凝縮した純白のスカート ブレザーとバイク ショーツでランウェイを歩いたナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)だった。このトレンドは次シーズンにかけてピークに達するのだが、2018年を席巻したのは何と言ってもカーダシアン一家、ジェンナー一家、ハディッド一家であり、エミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajowski)、ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber、旧姓ボールドウィン)、リリー・ローズ・デップ(Lily Rose Depp)らのセレブ ファミリーが、デザイナー バイク ショーツの存在感を最大限に高めた。そして9月を迎え、Fendi、Chanel、Maryam Nassir ZadehMarine SerreMartine Roseのランウェイには、またしてもバイク ショーツが舞い戻ってきた。何ともアクロバティックな動きを見せるこのトレンドは、まだ続くのかもしれない。いずれにせよ、 2018年は確かにフィジカルな1年だった。

PYER MOSSの「STOP CALLING 911 ON THE CULTURE」Tシャツ

Pyer Mossのデザイナー、カービー・ジーン=レイモンド(Kerby Jean-Raymond)がこのTシャツに託した意図に少しでも疑問を感じているなら、 『ニューヨーク タイムズ』で紹介された女優ニエシー・ナッシュ(Niecy Nash)の素晴らしくウィットとユーモアに富んだ風刺を見てほしい。記事によると、10月現在で、正当な理由もなく黒人を警察に通報した事例が39件も記録されている。2018年だけでこの数だ。「calling 911 on the culture – カルチャーの違いを警察に通報する」現象に関して、ファッション界は特殊な立場にある。FUBU、Timberland、Poloをはじめとするアパレル ブランドは有色人種のコミュニティで人気を得て、それがトレンドへと発展したにもかかわらず、多くの場合、文化という背景を全く理解することなくスタイルだけを作ってきた業界だからである。今年を振り返れば、「アーバン」と「ストリートウェア」の2語が濫用されて、もはや意味を失ってしまった。一方で、「ゲットー」は軽蔑的で非常に人種差別的な言葉であることも認識されず、何であれ、望ましい水準以下を示す、十把ひとからげの総称としていまだに広くまかり通っている。現在も有色のモデルは差別され、十分なサポートや認知を得ることができない。同様の人種差別は枚挙にいとまがない。ファッション業界にはとてつもない偽善があるのだ。11月、ジーン=レイモンドは権威ある米国ファッション協議会(CFDA) を受賞した。今後も、ファッションは政治的であり常に政治的であるという事実を社会が忘れないためにも、そのことを認識されてくれる作品を期待しよう。

530万円で転売されたRAF SIMONSのボンバー

今年の初め、中古品を引き受ける委託販売店「スタジアム グッズ」に、LVMHグループの高級品企業から新古品が持ち込まれた。数量は明らかにされていない。10月には、ロサンゼルス・レイカーズのカイル・クーズマ(Kyle Kuzma)がスニーカーの再販マーケットプレイス「GOAT」とパートナーシップ契約を結んだ。それによると、今後は試合でもプライベートでも、見た目は斬新だが基本的には中古のシューズが、クーズマ選手に提供される。どうやら2018年は、再販カルチャーが大ヒットした年と言えそうだ。中古品や売れ残りは当然ある程度「難アリ」商品であり、いかに稀少であっても、新品の価値を上回ることはこれまでめったになかった。スポーツのように、意図された本来の機能が、製品の状態に大きく左右される分野では、なおさらだ。であれば、2018年は「目新しさ」の年、すなわち誰も持っていない、あるいは非常に少数の人しか 持っていないものを所有し身に着けようとした年だったと言える。この説にまだ納得しない方は、 転売サイト「Grailed」で47,000ドル、約530万円で売れたこのRaf Simonsのライオット ライオット ライオット ボンバーをご覧いただきたい。唯一無二であることには、途方もない値札がつくのだ。

セリーナ・ウィリアムズがフレンチ オープンで着たキャットスーツ

歴史は繰り返す。言い換えれば、旧態依然たる組織はいつまでも頑固な態度を繰り返す。今年のセリーナ・ウィリアムズは、フレンチオープンで着用したNikeのブラックのキャットスーツで、お叱りを受けた。セリーナによれば、あのタイトなスーツを選んだのは、血液が凝固しやすい体質の改善に役立つし、前述したワカンダのスーパーヒーローの気分にもなれるから。念のために言っておくと、セリーナが試合に着て現れるファッションはいつも長老たちを動揺させたし、2002年のPumaのショートスーツでも恥辱を味わされた。実際には、バブルガム ピンクのスウェットバンドとコーディネートしたショートスーツ姿のセリーナは、とても素敵だった。キャリアを通じて数々のスタイルを披露してきたのだから、もしまだ実現していないなら、『セリーナ・ウィリアムズ スタイル チャンピオン』なる豪華写真本を作るべきだ。フレンチ オープンは、元来、白人だけのウィンブルドンに比べてまだしもファッションに寛容だが、セリーナのキャットスーツが禁止されたことや、ウィリアムズ姉妹がキャリアを通じてファッションをうるさく取り沙汰され続けることは、「有色」に対する不快感が根強く存在していることを示している。そう考える人は、決して少なくない。

リアーナのSAVAGE X FENTY

2018年の只中、新しい人間をこの世に誕生させるにあたり、リアーナ(Rihanna)を引き合いに出す以上に、世間の注目を集める方法は、なかなか見つからないだろう。リアーナのショーで出産当日にランウェイを歩いたモデルのスリック・ウッズ(Slick Woods)は、その出産のわずか数時間後にInstagramへアップした写真に、「I CAN DO WHATEVER THE FUCK I WANT WHENEVER THE FUCK I WANT AND SO CAN YOU – いつだって、何だって、私はやりたいことができる。だから、あなただってできる)」とテキストを添えた。アップされた写真はリアーナのランジェリー コレクション「Savage X Fenty」の最新作を着た姿だ(ちなみに、「Savage × Fenty」のショーでストラップを使ったトップレス ボディスーツで出演中、陣痛が始まった)。同じくリアーナがプロデュースする化粧品ブランド「Fenty Beauty」でメイクもばっちり。さらに、「Fenty ファミリー」全員へのシャウトアウト付き。過去10年間、毎年そうであったように、2018年もリアーナの年だった。あらゆる雑誌の表紙を飾り、境界線を突破し、手掛けるすべてのプロジェクトで独自のルールを定める。Victoria's Secretの時代はお終いだ。精力的な仕事ぶりと偽りのない思考で、リアーナは稀にみるビジネスウーマンへ生まれ変わった。さて、そろそろ次のアルバムを出してもいい頃では?

ジョナ・ヒルが着たものは何でも

「ハイプ」と称される巧妙なマーケティング戦略には、思いがけないヒーローが登用される。そしてこの記事が考察したとおり、今や伝説となったジョナ・ヒル(Jonah Hill)のストリート スタイルの歴史は2015年、人気のテレビ番組『サタデー ナイト ライブ』にPalaceのTシャツで出演したときから始まった。以後、俳優から監督に転じたジョナのファッションには非常に説得力があり、ほぼ万人に注視されるようになった。ここ2年は徐々にファッション界との関わりが強まってきたが、2018年にはその軌跡が頂点を極めた。Netflixで放映されたキャリー・ジョージ・フクナガ(Cary Joji Fukunaga)のダークなコメディ シリーズ『Maniac(邦題:マニアック)』への出演や、監督を手掛けたデビュー作『Mid 90s(邦題:未定)』が好評だったことも一因かもしれない。『Mid 90s』は、既成のスタイルにとらわれない在り方を象徴するスケーターの物語だ。だが果たして、ジョナはトレンドの仕掛人なのか、あるいはトレンドのバロメーターなのか? 2018年に注目を集めたスタイルを知ろうと思ったら、ジョナのスタイルを紹介した一連の写真、あるいはそんな写真だけを集めたInstagramアカウント を見ればいい。Acne StudiosからOnline Ceramics、実に多数のPrada、そしてWacko Mariaのボーリング シャツに至るまで、2018年のジョナのファッションは、「ニワトリ」であり「タマゴ」でもある。彼が先駆けなのか、追随したのか定かではないが、ジョナ・ヒルにとって今年が大当たりの年だったことは確かだ。ハイプに拍手!

RIMOWAのスーツケース

「ペテン師の年」をもっとも完璧に象徴するのは、Rimowaのスーツケースだろう。ステータスを誇示するホイール付きのスーツケースに全財産を詰め込んで、どこへでも持ち歩く。FBIの尾行のごとく常にRimowaが背後を追うさまは、さながら『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の世界だ。SupremeやOff-Whiteとのコラボが登場してからというもの、目立ちたがり屋にはローラー スーツケースが必須の小道具になった。引きずって歩けば、いかにも多忙なクリエイティブ ディレクター風。ただの「みせかけ」だったとして、構わない。「にせもの」を代表するに相応しい、可愛い癖毛の詐欺師アンナ・デルビー(Anna Delvey)の記事にも、彼女がいつも中身がぎっしり詰まったRimowaを持ち歩いていたと書かれているではないか。