禁断の果物:
レザー パンツの陳腐なアップグレード

ジム・モリソン、ジェーン・フォンダ、Pyer Moss、カウボーイ、Mowalola、アダムとイブ、ヴァージルと馬を、ケイトリン・フィリップスが繋ぎ合わせる

    「レザー ピープル」…トム・ウルフ(Tom Wolfe)が『虚栄の篝火』で使った呼び名である。もし同書を読むようなことがあれば、さまざまな都市生活者を分類した書物と考えるのが一番いいだろう。さて、ウルフが描写した「レザー ピープル」とは、「男は、くすんだ色合いで、つやがなく、きめの粗いレザーのトレンチ コートを着ていた。多分、象の皮だろう。肩幅が非常に広くカットしてあるので、巨人のように見えた。女は、同じように大ぶりな黒いレザー ジャケット、黒いレザー パンツ、海賊のように膝の下で折り返した黒いブーツ。 三人が三人とも、見えないものをよく見ようとするかのように、目を細めている。滑るように前へ進んだかと思うと、引きつるように体をくねらせながら後ずさる動きを繰り返す。それにつれて、着ているレザーが擦れる音やきしむ音を立てた」。これ以外の描写はまったくない。要は、どんな主人公であっても、「レザー ピープル」には必ず目がいくということだ。千人もの人間がそれぞれの性格に合った服を着て登場するような超長編であっても、それは例外ではない。

    レザー パンツは、贅沢な毛皮のコートと並んで、視線を吸い寄せる古典的で高価な投資アイテムだ。スタイルの年代と品質の程度は、お好み次第。いずれにせよ、人目をひくことは間違いない。結婚式でも、就職の面接でも、怪しげなバーでも、必ず注目を浴びる。レザー パンツにいたっては、乗馬ズボンのように膨らんでいようが、腿の部分がレースアップだろうが、フリンジがついていようが、一切関係ない。ただし、ぴったりフィットが特徴のレザー パンツは、脱ぐのが大変だし、特に中年男性やメラニア・トランプ(Melania Trump)のような「大衆の階級敵」にとっては、非常に着こなしの難度が高い。「いちばん親しい男性の友人を頭に思い浮かべて、彼がレザーのパンツを履いたところを想像してみよう」とは、けだし、チャック・クロスターマン(Chuck Klosterman)の名言といえる。

    レザー パンツを履くことは、崇拝するファンに埋め尽くされた劇場のステージに立つのと同じ体験だ。ポップ カルチャーの分野でレザー パンツを目にすることがとても多いのは、そのためだ。ジム・モリソン(Jim Morrison)、その他のロック スター、死刑執行人、S役、レザー バーのウェイターなど、観客が前提にあり、その面前で定められた役割を演じてみせるエンターテイナーのあいだでは、さながらレザー パンツが共通の制服である。肥満になる前のモリソンの恋人だったイブ・バビッツ(Eve Babitz)は「彼はレザーとアルコールとナイトクラブの匂いがしたけど、大理石の彫像のような盲人に見えた」と書いている。

    コンドーム並みに密着するレザー パンツを履く行為は、素敵なセックスと同じで、熟慮した入念さと経験を積んだ奔放さを伴う。最初からうまくはできない。アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)は、個人的にはレザーを「不潔」と感じていたが、レザーという素材を巧みに利用してフェティシズムの対象に変えてしまう行為者の熱意は、冷静に評価している。「ああいうレザー男たちは、レザーに身を固めてバーへ赴く。やることなすことのすべてが、ショー ビジネスだ。縛るのに1時間、卑猥な数語を発するのに1時間、鞭を持ち出すのに1時間…見せることが前提のパフォーマンスである」

    アルマーニが、レザー パンツを80年代の「ナルシシストのトラウザーズ」と呼んだのは、まったく正しい

    Devon Aoki、『ワイルド・スピードX2』

    わざわざ出かけなくても、自分の寝室にいながらにして観客を招集できる現代において、レザー パンツの復活は至極当然の成り行きだ。退屈なほどに延々と時間をかけてじらせるレザー バーのパフォーマンスは、モデルかつ万引きの前科持ちかつ『スラッシャー』年間最優秀スケーターのガールフレンドでもあるサラ・スナイダー(Sarah Snyder)が、ポーズをとりながら、体の一部をひとつずつゆっくりとオンラインで見せていくのと似ている。ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が、レザー パンツを80年代の「ナルシシストのトラウザーズ」と呼んだのは、まったくもって正しい。

    ライターのモリー・ヤング(Molly Young)は、ドナテッラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)に会ったとき、彼女が「林檎の皮より張りつめた」レザー パンツを履いていることに気づいた。だけど考えてみれば、そもそも禁断の果実の話には、内部に巣くった虫のように、レザー パンツの歴史が埋め込まれているのだ。林檎を食べるという罪を犯した後のアダムとイブ、つまり人類で最初のナルシシストとなったふたりは、エデンの園の片隅で身をすくめ、イチジクの葉を使っておどおどと秘部を覆っていた。それを見つけた神が彼らのDIY精神に感心しなかったのは、言うまでもない。原罪は、とても数枚のちっぽけな葉っぱで隠しおおせるものではなかった。そこで神は人類史初のスタイリストとなり、動物を犠牲にして、彼らに皮のコートを着せたのである。神の目から見れば、もじもじと恥じ入るアダムとイブは、元祖「レザー ピープル」であった。レザー パンツとは、人類の起源に遡るスタイルなのだ。

    ともあれ、神がアダムとイブに罪の衣服だけを与えてエデンの園を追放したことは、その後に続く遍歴の運命を暗示した。レザーは、永遠に、放浪と結びついたのである。「アンタ、どこにも長居はしないタイプみたいね」。キャスリン・ビグロー(Kathryn Bigelow)のバイカー ギャング映画『ラブレス』 (1981年)で、食堂のウェイトレスが、ウィレム・デフォー(Willem Dafoe)演じるバイカーに言う台詞だ。彼が、レザーを着ているのは、路面に擦って怪我をしたり熱くなったバイク マフラーで火傷することを恐れているからでないことは、一目瞭然だ。動物自身の体液や血液を使う「脳漿なめし」という手法が象徴するように、レザーには「死」が織り込まれている。煉獄のごとく、あるいは地獄のごとく、単調にしか聞こえない毎日を、バイカーは「アスファルトがオレの永遠の恋人さ」とうそぶく。

    今年は、見た目は野暮ったいがバイカー ギャングにとっては重宝なブーツ カットで、厚みのあるレザーを使ったパンツが、メンズウェアでもウィメンズウェアでもランウェイに登場した。全体のフィットに関しては下品なところは一切なかったが、カラーは明確に定義するのが難しく、レザー パンツを履いているのか、ストレッチ マークのある生足なのか、にわかに判別し難い。「コンピュータで作ったサルサ ソースの画像みたいな色だな」とは、Gucciのオレンジのラムスキン ブーツカット トラウザーズのスクリーンをショットを見た私のボーイフレンドの感想。「自動車を塗装するときの、レッド オキサイドの下塗りと同じ色だ」

    Olivier Theyskens、2019年春夏コレクション

    ドナルド・バーセルミ(Donald Barthelme)言うところの「タイトでセクシーな『西部開拓史』的トラウザーズ」は却下され、とり立てて必要のないフリンジや、さしたる根拠もない流用が付け加えられている。モワローラ・オグンレシ(Mowalola Ogunlesi)は、テンガロン ハットをかぶったナイジェリアのカウボーイを登場させた。レッドとオレンジのレザー パンツは、032cによれば、「ラゴス辺りの片田舎のガソリン スタンドで見かけそうな、かさばった時代物の機械」を連想させる。シェル石油のブランド カラーが混ざり合ったすじは、自動車工がパンツに手を擦り付けて汚れを落とした痕を演出している。

    Mowalola、2019年春夏コレクション

    ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が、レポーターをつかまえては馬を買った話をしたと聞いて、彼はもしかして本当の天才かもしれないと、私は思い始めた。 Off-Whiteの「ブラック クロック レザーワイド パンツ」は、ディスコのミラーボールみたいにシークインで埋め尽くした鎧のようなトップと組み合わせられ、ピストルが放つシルバーの煌めきはガンメタル トーンのハードウェアといった装飾に置き換えられている。

    Pyer Mossも、黒人カウボーイのコンセプトをランウェイで表現した。何よりも、アイシャ・A・シディキ(Ayesha A. Siddiqi)が書いたように、「ジョン・ウェイン(John Wayne)は、軍隊関連の賞を受賞した人種差別主義の徴兵忌避者である」ことを思い出させてくれるのが嬉しい。コレクションは、「平凡な黒人の生活はどんなふうに見えるのか?」という、いたってシンプルな疑問への回答であった。答えは「クール」。米国ファッション協議会のCFDAアワード受賞という栄誉に輝いたデザイナーのカービー・ジーン=レイモンド(Kerby Jean-Raymond)自身も、「If you’re just hearing about Pyer Moss, we forgive you – Pyer Mossの名前を今まで知らなかったとしても、許してやるよ」という売り文句で、ロデオ並みに国際舞台へ躍り出た年だった。いくつかの賞の記念ディナーには、とても滑らかなレザーを使った、直線的なカットのレザー スーツで出席している。 パンツは厚みのあるブラックのレザーで、ブーツ カット。それに、スニーカーとゴールドのチェーン ネックレスだけのシンプルなスタイリング。ジャケットは魅力的なクロップ丈で、胸にベイビー ブルーのポケット、サイドに肩から手首まで卵の黄身の色のレーシング ストライプがほどこされている。そう、現代は、スーパーヒーローの作者でさえ、原色の色使いはアメリカ国旗のイメージが強すぎることをちゃんと認識している時代なのだ。

    ブラック パンサーは、全身、深い海を思わせるパープルに覆われていた。ちょっとズレた皮肉を連発するアンチ ヒーローのデッドプールは、アリザリン クリムゾン カラーのスーツを着せられた。アリザリン クリムゾンとは、アカネ科の植物から抽出される赤い染料由来の名称である。どんなものであっても「オシャレ過ぎる」ということはありえないHermèsでは、2018年秋 プレタポルテコレクションのランウェイにデッドプールのスーツと同じ色調の砂利を敷き詰め、その上をダーク ブルー、ホワイト、オレンジといったカラーのラムスキン パンツを履いたモデルが歩いた。ブラッド ムーンについた傷痕と同じカラーの砂利は嫌でも目につくし、嫌でも昨今の株式市場の暴落を思い出させる。まさに、流血にまみれた街路ではないか! 少なくとも銀行関係者がレザー パンツを脱げるときは、まだ到来していない。

    一方、銀行家の妻やパーティ好きな女性たちが、レザー パンツを愛用した時代もあった。ただし、当時は「ホット パンツ」と呼ばれていた。ワークアウト ビデオが火付け役となって巷に広がったホット パンツは、もっとも低俗で最高にセクシーなレザー パンツ現象だった。ブルーミングデールズのハーレー ダビッドソン ブティック – 今でいうポップアップ ショップ – で、後ろ座席に相乗りする女性用に販売されていたレザー製品をファッション ジャーナリストが「ホット パンツ」と呼んだのが、そもそもの始まり。大抵、「ボディ シャツ」と組み合わせて着用された。時は1992年、トランプの黒札と赤札が入り乱れるかのごとく、ブラックやレッドのレザー パンツの流行の兆しが見られた年である。カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、1992年秋冬プレタポルテコレクションの最後を、もぎ立ての林檎を思わせる背徳の真紅のレザーで埋め尽くした。ハイウェストなレッドのレザー パンツ、腰に当てた手にはマットなレッドのスエード グローブ、Cカップの胸を持ちあげるレッドのレザー ホルター トップ。レッドのレザーのロング ダスター コートが、同系色で統一したアンサンブルを、さらに強調している。

    Jim Morrisonのレザーパンツ

    Christy Turlington、Versace、1992年秋冬コレクション

    同じシーズン、ジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace)は黒づくめのクリスティー・ターリントン(Christie Turlington)をランウェイへ送り出した。厚みのあるミッドナイト ブラックのレザー パンツはシームにパールが並び、ノースリーブのレザー ベストには何列もフリンジがあしらわれた。ショーのタイトルは「ミス S&M」。この頃には、レザーはゲイ コミュニティの顔ともいうべきアイテムとなり、ミュージシャンたちは、スパンデックスやライクラや合成レザーへと軌道修正せざるをえなかった。これらの伸縮素材はステートメントとしてのパンツを大衆化し、ショッピング センターに出回る商品に変えてしまった。

    1992年は、チャールズ皇太子とダイアナが別居した年でもある。ミネソタでは、全米最大級のショッピング センター「モール オブ アメリカ」がオープンした。不況が終わったところで、ワイン カラーのシルク シャツ、ゴールドのチェーン ベルト、『Playboy セクシー バンパイア』マガジンなど、80年代の奢侈逸楽的名残りが突如として息を吹き返したのもそのせいだろう。誰もが陳腐なグレードアップを渇望したのだ。さて2019年を迎え、私たちが戦うに値するのは、ネクロパンツにまで遡るレザー パンツの「ヴェブレン的」含意である。アイスランドには、昔、他人の下半身の皮を剥いで履くと、とめどなく金が手に入るという言い伝えがあった。そう信じて作られたのがネクロパンツである。経済学者のソースティン・ヴェブレンは、消費とはいわば「他人への見せびらかし」にすぎないという『有閑階級の理論』を著した。ラガーフェルド式のツイードやゴールドのベルト、あるいはシルクやワッフル ニットのカシミアといった裕福なニュージャージー風との組み合わせには向かない、不恰好なブーツ カットのレザー パンツを目にするのは嬉しいことだ。有閑夫人が減り、カウガールが増える。

    言うなれば、こういうこと。ファッション イラストレーターのゲイル・カベイカー(Gayle Kabaker)がスタイル愛を物語った一説を引用しよう。「ゴールデン ゲート ブリッジの料金所で車を停めたときのことよ。私は1000ドルもしたレザーのパンツを履いていたのに、料金を払うだけのお金を持ち合わせてなかったの」。貧乏がどうのこうのという話ではない。パリで行われた前夫ロジェ・ヴァディム(Roger Vadim)の葬式に、ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)がブラックのレザー パンツで参列したのと同じことだ。彼女との結婚生活がいかに素晴らしかったかを本に書いた男性の葬式で、ブラックのレザー パンツ以外に弔意を示せる方法があるだろうか? 事実、そんな状況下では、大勢が集まるなか、さっそうと別れのシーンにカウボーイのようなパンツで登場するしかないのだ。

    Kaitlin Phillipsはマンハッタン在住のライター、SSENSEのコントリビューティング エディターである

    • 文: Kaitlin Phillips