2020年春夏のファッション黙示録

Marine Serre、Maison Margiela、Off-Whiteよりサステナビリティと破壊の6つの視点

  • 文: Romany Williams

異常気象による全地球的な危機感が私たちの集団意識に大きくのしかかる昨今、9月には世界各地で記録的な数の人々が環境保護を訴え、ポスターやシュプレヒコールがソーシャルメディアのタイムラインを席巻した。国連が主催した気候行動サミット2019では、行動を呼びかけるグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)の怒りのスピーチが大きな反響を呼んだ。ところで、9月はファッション月間でもあった。同時期に発表された2020年春夏ウィメンズ コレクションに、国際規模で盛り上がりを見せる新しい潮流が浸み込んだのは、当然と言えば当然の成り行きだろう。花をかたどった軽やかなアクセサリー、みずみずしい枝葉で編んだようなヘッドピース、全体に植物を散らしたプリントなど、「自然」に関連したモチーフがそこかしこに見てとれた。その一方で、不穏な現況から、世界の終末へ目を向けたデザイナーもいる。彼らのデザインが映し出すのは、石油の流出や汚染にまみれた時代だ。何らかの方法でサステナビリティへ取り組もうとするブランドは、確かに増えている。その多くが皮相的であるとは言え、やはり全体で見れば、ウィメンズウェアは2020年春夏シーズンで正しい方向に「ささやかな」一歩を踏み出したのだ。明らかに、終末は近づきつつある。それとも、始まりに過ぎないのか? ともあれ、世界の終末を警告した6つのコレクションをご紹介しよう。

1. Marine Serre:石油の流出

Marine Serreが選んだタイトルは、フランス語で「石油の流出」を意味する「Marée Noire (黒い潮)」。パリ ファッション ウィークでショーが開催された日は、折りしも、厚く雲が垂れ込めた雨模様だった。流れ出した石油を模して戸外に設けられた黒いキャットウォークは、自然界の完璧な演出で、文字通り黒光りする油膜に見えた。デザインの半数にアップサイクル素材を使用したショーは、地球を弔う葬列のように、黒づくめのデザインの行列で始まった。確かに重い。重いけれども、粛然たる現実を私たちに突きつける。マリーン・セール(Marine Serre)は、素材の調達から仕立てに至るまで、衣服の「作り方」がもっとも重要なことを理解している。それが何より大切だ。

2. Maison Margiela:軍隊

ジョン・ガリアーノ(John Galliano)は、軍隊をテーマに、兵士と看護婦を登場させた。Maison Margielaの軍服は、ブローチやリボンを留めた厚手の長いピーコートに、ベレー帽やヘルメットというスタイルだ。靴音を響かせてショーを締めくくったモデルのレオン・デイム(Leon Dame)は、思わず見とれる勇ましい足の運びと射抜くような目線で、ファッション月間でも指折りのバイラルを引き起こした。人類が地球に大きな影響を及ぼす人新世には、彼のような集中力と決意で環境問題に立ち向かうことが必要だ。

3. Off-White:隕石の衝突

ガリアーノが塹壕から過去を振り返ったとすれば、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は「隕石の衝突」と名付けたコレクションで宇宙を見上げ、宇宙の静謐と混沌に思いを馳せた。穴が開いたようなドレスやトップスを見ていると、地球の未来に待ち受ける大厄災の可能性が頭に浮かぶ。カットアウトのせいでまったく用をなさないように見えるバッグは、仰々しいステートメント アイテムであると同時に、破綻へと向かう世界の象徴でもある。時間切れは目前に迫りつつあるし、資源は崩壊しつつある。そんな現状を考えるなら、くり抜かれたバッグは、指の間から滑り落ちる砂のラグジュアリーな表現に他ならない。

4. Collina Strada:応援の輪

ヒラリー・テイモア(Hillary Taymour)がデザインしたCollina Stradaのショーは、「ファーマーズ マーケット」がテーマ。来客には、再利用できる買い物袋と環境フットプリントの減らし方をリストアップしたパンフレット『Ways to Help Me (私を応援する方法)』が手渡された。2018年のデビュー以来、テイモアの作品は、エディターからもインフルエンサーからも熱烈に歓迎され、今回のショーも、これまでで最高の集客と取材を記録した。テイモアの作品はすべて、スピードを落とすこと、見直してみること、デザインをめぐる対話に貢献する方法を見出すこと目標だ。しかも、あくまでポジティブに。これこそ私たちが待ち望んだ、歓迎すべき、そして見習うべき姿勢ではないだろうか。

5. Dior:森の世界

Diorは、「白雪姫」を思わせる舞台セットで、ショーを演出した。ランウェイの周囲に何百本もの樹木を配置した会場は、薄暗く、静けさに満ちた森の世界だ。これらの樹木は、パリを本拠地とする環境設計集団Colocoより提供されたもので、ショーの終了後、あちこちに移植されてパリの街づくりに生かされる。ハイ ファッションは以前から自然をショーの小道具に使ってきたが、短時間のために制作される途方もないセットが環境にもたらす悪影響は認識されていなかった。ファッション界が果てしなく植物にモチーフを求めるのは、私たちが自然界から乖離したがゆえの症状なのか? 失われた自然への郷愁なのか? ラグジュアリー ファッションに関する限り、「ファンタジーとしての自然」は今なお健在。ますます希望が失われていく現実を生きるための対処メカニズムなのだ。

6. Noir Kei Ninomiya:再生

2020年春夏コレクションは「始まりでした」と、二宮啓は言う。「僕は創造を見つめたかったのです」。ショーは、暗黒の奈落から登場する、ボリューム豊かなさまざまなホワイトのドレスで幕を開けた。優れた技術によって構成されたデザインの数々は、さながら積乱雲や巻雲だ。その後、繁殖力の旺盛な藻類がはびこったかのように、作品群は急速に色を失い、やがてブラックに変化する。だが続く第3幕では、鮮やかなグリーンが蘇る。モデルは、顔にも頭上にも、輝かしく復活した苔やシダや前史時代の植物を纏う。生気溢れる緑が、頭からつま先まで流れ落ちる。このコレクションで、二宮啓は人体を原初の姿に回帰させ、忍耐が勝利を収める感動のストーリーを語ってみせた。間違いなく、消費主義を超越した繋がりこそ、私たちが進むべき道だ。

  • 文: Romany Williams
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: October 31, 2019