AGRのカーニバルはセーター日和

イギリスの新進ニット ブランドのデザイナー、アリシア・ロビンソンが語る、ロンドンと編み物の世界

  • インタビュー: Helene Selam Kleih
  • 写真: Stefy Pocket

今回、AGRの世界について聞くため、アリシア・ロビンソンにインタビューを行い、その数週間後、ロンドンの「ノッティング ヒル カーニバル」で彼女のクルーを追った

AGRのアリシア・ロビンソン(Alicia Robinson)は、編み物が持つ「おばあちゃんのイメージ」の破壊者だ。新進のニットウェアブランドを立ち上げた、典型的なロンドンのデザイナーであるロビンソンは、編み物という昔ながらの技術を定義し直す一連の新たなデザイナーの1人である。インタビューの中で、ロビンソンはふざけ調子だが、その姿勢が、今人気を集めているAGRの、エレガントでありながらケバケバしいデザインに通じるところがあるのは明白だ。

2019年2月、『イブニング・スタンダード・マガジン』の表紙を飾った際、ロビンソンはブレグジットから着想を得て、AGRのニットを特別にデザインした。あえてロイヤル ブルーの旗を全面に押し出し、そこに重なった英国のストライプと一緒に、堂々と黄色のEUの星を編み込むことで、時代遅れな内輪のルールを勢いよく打ち破った。ブランドの知名度が一気に高まったこの決定的タイミングで、AGRは、ブレグジット後のボリス・ジョンソンによる終末の時代において、ロンドンと英国が切望している、ひとつのビジョンを提供したのだった。

ロビンソンは、ロンドン芸術大学のチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ出身で学び、4年間のフリーランスを経て、昨年6月にAGRを立ち上げたばかりだ。コミュニティの縮図のようなブランドは、Instagramの影響がまだ蔓延しておらず、ネットワーキングがまだパブで行われていた懐かしい時代を思い出させてくれる。ロビンソンの仕事でも特に重要なのがコラボレーションで、NikeA-Cold-Wall*、ロンドンの新進デザイナーのAhluwalia Studio、ニットの老舗ブランドMissoniのために特注アイテムを作っている。AGRが持つ、虹色に輝く複雑な構造とDIYの魅力は、すでにロビンソンの友人の間で熱心なファン層を築き上げており、グリーンティー・ペン(Greentea Peng)やジョルジャ・スミス(Jorja Smith)といったアーティストたちが、AGRのニットを披露している。

私はショーディッチの中心地でロビンソンに会い、クロイドンを拠点にするこのデザイナーから、2019年におけるニットウェアの可能性やノッティング ヒル カーニバルの重要性、そして、ブランドを設立してもなお、寝室の床に座って生地サンプルの裁断作業をする片手間に、好きなクラブでチケットもぎりのバイトをしている理由について聞いた。

エレーヌ・セラム・クレイ(Helene Selam Kleih)

アリシア・ロビンソン(Alicia Robinson)

エレーヌ・セラム・クレイ:今年のカーニバルに向けたカスタム デザインのプロセスについて聞かせてもらえますか?

アリシア・ロビンソン:今年のカーニバルのアイテムは本当に色々と混ざってる。SSENSEの限定カプセル コレクションを発表するだけじゃなくて、工場のプログラミングで残った廃棄物を使い切るように頑張ったの。2017年には、グリーンティー・ペンが初めてカーニバルでAGRのニットを着て、昨年は私の仲間がすべてAGRを着たんだけど、今年は、さらにその上を行くものになる予定よ。

あなたにとってノッティング ヒル カーニバルとは?

私にとってカーニバルっていうのは、まさに徹頭徹尾、正真正銘のジョークなの。いちばん良いのは、断然、月曜日ね。エネルギーがすごいのよ! 週末を通して、ロンドンの最高にかっこいい姿を見られる。そこに参加できることを誇りに思ってるわ。カーニバルの背後にある歴史がとても需要だし、ひとつの巨大なコミュニティーとして、ここまで来れたという点も忘れてはいけないと思う。

昨年のカーニバルにおけるNikeとのコラボレーションは、あなたがニットウェア業界でデザイナーとして注目を集めるようになった、極めて重要なポイントになったと思うのですが、あなた個人は、どのような人たちの影響で大きく変わりましたか?

ステファン・クック(Stefan Cooke)のカットアウトのニットがすごく好きなのだけど、彼のように、限界を広げるような人たちね。言うまでもなく、LV (Louis Vuitton)はスゴイ。チャールズ・ジェフリー(Charles Jeffery)のニットも、特に彼の色使いは大好き。それにすごく美しいアイテムを出してるKeplerも。

当初は、ニットウェア デザイナーのあなたに対して、人々はどういう認識でしたか。

ニットには「おばあちゃんのイメージ」があるから、直感的にすごく従順なんだろうと、思い込む人が多いみたい。私のニットを見た人から、その数日後にDMやメッセージが届くことが多いんだけど、送ってくる人は、どれほど私の作品が狂ってて、表情豊かなものかに驚いてる。そういう風に、勝手に思い込ませておいて、後で驚かせるのは好きよ。私が作業している様子を見て、どれほどの忍耐が必要か、そしてそれを私がやっていることに、友だちがいつも仰天するの。他の一切に対して、私は全然忍耐強くないし、編み物には計算も必要なんだけど、普段は計算にも弱いから。でもね、だからこそ、この世には電卓があるのよ。

Instagramのプロフィールでは、「ロンドンのニットウェア デザイナー」と高らかにアピールしていますよね。ロンドンはあなたのデザインにどのような影響を?

ロンドンは、他でもないロンドンなの。ロンドンのすべてが大好き。これ以上の街はない。ここでは、ファッションであれ音楽であれ、楽しみ方であれ、何もかもがすごくいい。冗談の言い方さえ、他とは違う。ちょうど先週、ショーディッチ ハイストリート駅のところを歩いていて、駅の外の橋の下で、(UKグライムのMCやラッパーの)JMEとワイリー(Wiley)、ジャマー(Jammer)とショーティー(Shorty)が全員はちゃめちゃになって録音してた。ロンドンでクリエイターをやるのは本当に大変。チャンスはすごくあるけどね。だから私は、ここにいるクリエイターひとりひとりにすごく感謝してる。ロンドンに集まる才能の数は莫大だから、コラボレーションをするにはパーフェクトな場所なの。そこが私の一番好きなところかな。過去のWavey Garmsとのプロジェクトであれ、Ahluwaliaと一緒にやった数多くのニットのひとつであれ、仲間とやる、ごく自然なプロジェクトだった。

音楽やナイトライフ、こう呼ぶことができるとして「ストリート カルチャー」は、AGRの根底にどんな影響を与えているのでしょう? もっと言えば、あなたのカルチャーとはどういうものですか。

私にとってストリート カルチャーというのは100%オーセンティックなものなの。自分自身であること。何であれ自分の好きなようにやって、好きなものを着ること。自分の感情を表現して、本当の自分でいること。ミュージシャンからスタイリスト、デザイナー、建築測量士までね。私はファッション スノッブじゃないし、あらゆる職種の仲間がいて、それが私のカルチャーとファミリーを作ってる。豪華なパーティーに行くより、仲間と裏通りの酒場で飲んでる方が私はいい。ロンドンのアフターパーティーはとても活気があって、誰に会うかわからない。そういうパーティーで、いちばん良いアイデアやデザインが生まれるのよ。めちゃくちゃ酔っ払って、どこの誰かも知らないような人と話してるときに。

家でお母さんから編み物を教えてもらって、今でも一緒に仕事をしてるんですよね。お母さんはAGRの未来に欠かせない存在ですか。

母から手編みと機械編みを習って、今でも彼女の編み機をいくつか使ってるわ。彼女は完璧主義者なところもあって、時々、そのせいで頭にくることもあるけど、ここ数ヶ月、お母さんが重要な鍵になっていたのは間違いない。私の制作をちょっと手伝ってくれたし、当然だけど、私がひどい態度のときでも全面的に支えてくれる。彼女は、裁縫から刺繍、ドローイングまで、とってもクリエイティブなのよ。あらゆる面で、彼女が私のクリエイティブな側面を開花させてくれたのは確か。

あなたの有名ブレグジットとEUのデザインのセーターは、お母さんとの共同制作なんですよね? ニットウェアを通して政治について語る、あるいは美学以上のものを表現する意図が?

自分のニットウェアで特に政治について語りたいというわけではないけど、単なる美学以上のものを語りたいと思ってるのは確か。際どいことをやるのも、ニットウェアに自分の考え語らせるのも怖くない。私は、中立的な立場で、金儲けのためにあらゆる人にアピールしたいと思うようなデザイナーでは、決してないの。私は自分の考えをじかに表明するし、服を通してもそうするつもり。

こうしてあなたと話して、街に対する考えを見ているだけでも、あなたにある種のエネルギーがあるのがわかります。純粋に、とてもオープンなスタンスでいることで、そのエネルギーが多くの人を安心させてきたんですね。人生の指針としている信念が何かありますか。

涙が出るまで笑うっていうのと、どんな状況でも自分の直感を信じることを指針にしてるわ。それから他人に自分や自分の作品をどう思われようが気にかけないことも学んだ。そんなこと気にしたって、スピードダウンして、自分を疑うことになるだけだから。それに、たまに、自分は人間なのだから、間違ってもいいんだということも忘れないようにしてる。

Hélène Selam Kleihはライター、出版者、モデル。男性とメンタル ヘルスに関するアンソロジー、『HIM + HIS』の創設者でライターである

  • インタビュー: Helene Selam Kleih
  • 写真: Stefy Pocket
  • スタイリング: Jake Hunte
  • キャスティング: Troy Casting / D+V Management
  • スタイリング アシスタント: Emily Davies、Stormy Haughton
  • ヘア: Mike Mahoney、Carlo Avena
  • モデル: Bryan Badu、Greentea Peng、Jerome Brown、Jake Hunte、Louis Hartley、Michelle Johnson、Nylo Mian、P.Honey、Santa Rekatanskyte、Taniel Rave
  • 協力: Nike & Ninety Fly
  • 翻訳: Kanako Noda
  • Date: August 29, 2019