ハイディ・ビヴェンスと
リアルな衣装

ハリウッドの衣装デザイナーが、キャラクター作り、スケーターのスタイリング、HBOの新作ドラマを語る

  • 写真: Paley Fairman

ファッション界と映画界は微妙で、いわば、対立する意見を出し合いながらそれらを統合してより優れた案を見出そうとする弁証法のような関係にあり、衣装デザイナーのハイディ・ビヴェンス(Heidi Bivens)は、この関係を正確に理解している。ここ数年、ファッション業界に大きな反響をもたらした映画は、どれもハイディの功績によると言っていい。今年の春、『ザ・ビーチ・バム』の公開とともに、醜悪なバケーション シャツを始め、あえてみすぼらしくした「スリーズコア」な美意識の波が押し寄せてきたが、この映画は、先手を打って「2019年、もっとも重要なファッション映画」と喧伝されていた。

ハイディは感受性が高く、好奇心旺盛で、イメージの固定化には耐性があるとはいえ、ハーモニー・コリン(Harmony Korine)の映画『スプリング・ブレイカーズ』で過激な女の子たちのスタイリングを担当し、ジョナ・ヒル(Jonah Hill)の映画『ミッド90ズ』でスケーターたちのスタイリングを行うなど、現時点では熱狂的支持を集める、成熟期のスタイリストといえる。そして次は、ドレイク(Drake)が製作を手がけ、サム・レヴィンソン(Sam Levinson)が監督を務めるHBOの学園ドラマ『Euphoria』で、コンプレックスを抱え、複雑な高校生たちのスタイリングを行なっている。ドラマの主役を演じるのはゼンデイヤ(Zendaya)で、今週日曜日に放送がスタートする。

私は、ロス フェリスのカフェでハイディと会った。音がうるさくて、私たちはすぐに、撮影中にハイディが滞在している、ある往年のハリウッドのプロデューサーの孫娘の家に移った。中に入ると、パールがかけられたマネキン人形がダイニングに並んでおり、長テーブルには服やバッグや箱が散らばっている。キラキラと輝く首輪をつけたバグジー・マロンと名づけられた猫が、まるで演出のようにニャーンと鳴いた。古き良きハリウッドを受け継いだ家で、ハイディに、人生と現在のハリウッドでのキャリアについて聞いた。

The Beach Bum 2019

『ザ・ビーチ・バム』2019年

オリビア・ウィティック(Olivia Whittick)

ハイディ・ビヴェンス(Heidi Bivens)

オリビア・ウィティック:コスチュームの仕事を始めたきっかけは?

ハイディ・ビヴェンス:私は高校卒業後、すぐにニューヨークに引っ越したの。そして、大学に在学中に、『W』、『WWD』、『Paper』といった雑誌に興味を持ち始めた。これらの雑誌で撮影の仕事をして、ジャーナリズムにも興味を持ったのだけど、すぐにジャーナリストとして良い暮らしをするのは難しそうだとわかった。当時で1ワード10セントくらいだったと思う。

うわ。

でも私は映画の衣装にも、映画全般にも興味があった。ニューヨーク市立大学ハンター校の映像制作の学校に通っていたから。それが私の専攻だった。雑誌の仕事をする中で、私はファッション スタイリングが衣装デザインにも関係していて、知識が役に立つ可能性があると気づいたの。このふたつは完全に異なる世界ではあるけどね。90年代にニューヨークで暮らすのは楽しかった。当時が本当に懐かしい。

映画の製作者や映画を作りたい人たちなど、クリエイティブな人たちの集まりにあなたも加わっていたんでしょうね。

映画業界とファッション業界は、まったく別だったから、両方に関わっている人なんて私は誰も知らなかった。だけど、私は、ワシントン スクエア公園のドッグ ランによく自分の犬を連れて通っていて、そこで衣装デザイナーのエイミー・ロス(Amy Roth)と知り合ったの。彼女は、最も著名な衣装デザイナーのひとり、[『真夜中のカーボーイ』、『SAFE/セイフ』や多くのブライアン・デ・パルマ(Brian De Palma)の映画で衣装を手がけた]アン・ロス(Ann Roth)の姪でね。それで私は彼女に色々と質問をするようになった。実際に私の前に可能性が開き始めたのは、ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)の映画、『エターナル・サンシャイン』の仕事をするという幸運を掴んでからだったわ。

では、ハーモニー・コリンと仕事をするようになったきっかけは?

『スプリング・ブレイカーズ』について耳にして、私のエージェントにミーティングを設けてもらえないか頼んで、他の数人にも推薦してもらったの。ハーモニーと私は育った環境が似ていたから、すぐに意気投合した。それに彼は、いったん、心地良く一緒に働けそうと感じる人を見つけたら、そのあと、他に20人もインタビューするようなことに、まったく関心がないタイプの人だから。

彼の映画はキャラクター主導で、風変わりな人物によって物語が進むので、ファッションを通して物語るには、すばらしい機会ですよね。

難しいけれど楽しいわ。ハーモニーは、映画の中で厳密な意味での流行のスタイルを使いたがらないの。私が既存のブランドやデザインを含むアイデアを提案しても、彼は決して関心を示さなかった。自分がやることが流行になるのだから、すでに存在するものを最初から使うのは嫌だと、彼に言われたことがある。

それはかなり当てはまってるんじゃないでしょうか? 『GQ』のエディター、レイチェル・タシジャン(Rachel Tashjian)は『ザ・ビーチ・バム』を「2019年で最も重要なファション映画」と評しています。

炎のプリントを考え出したのは私じゃないわ。Pradaは、もう長い間アーカイブでやっているし。でも時々、こういうふうに、流行にばっちりタイミングが合って、そこで色んなことが浸透していくことがある。そして、何もかもが同時に大当たりする。『ザ・ビーチ・バム』で起きたのは、そういうことだった。

映画のキャラクターが、ある種オーセンティックなものを伝え、それが最終的に、例えばファッションのキャンペーンよりもっとアイコニックなものになるというのは、可能だと思いますか?

キャラクターの背景を考えているとき、そこに存在するひとつひとつの要素について考えて、なぜそこなのか、なぜそれなのか、どのようにしてそうなったのか、それぞれに理由を与えていれば、オーセンティックなものを実際に作り出すことは可能よ。

オーセンティックであることは、あなたが携わった映画の多くで重要な役割を果たしている気がします。特に『スプリング・ブレイカーズ』や『ミッド90ズ』のような、懐かしさを強く感じさせる映画では、あの時代をきちんと捉えることが、かなり重要だったかと。どんなリサーチをしたのか、いくつか教えてもらえますか?

『ミッド90ズ』では、ほとんど学術的レベルで、正確であることが重要だった。私もあの時代を経験して育ってきたわけだし、観客の大半がスケーターで、彼らが細部まで検証するはずだとわかっていたから。映画の中で使うものはすべて、確実に94年と95年に手に入るものになるよう、かなり長い時間をかけたわ。ネットに、Skately.comというすばらしい検索エンジンがあるんだけど、そこではどの時代のどのブランドでも調べられて、当時の広告も見られるのよ。撮影のコンサルタントを務めたのはアーロン・メサ(Aaron Meza)。当時、たくさんのスケート動画を撮影した人よ。私たちはブランドのリストを作って、誰が何を着るかについて話し合った。今も覚えているのは、あるとき、レイがChocolateのTシャツを着て、その上にWorld Industriesのスウェットを着ていたときのこと。これは両方ともカリフォルニアのブランドだった。でも当時このふたつのブランドが対立関係にあったのを私は知らなかった。だから、当時は誰も両方を一緒には着ていなかったはずだということに、アーロンが気づいたのよ。それから、カメラ テストを見たスパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)に、「ジーンズはもっと大きめじゃないと」と言われたわ。

この映画は、当時を正確に再現した小道具やスタイリングの評価がとても高いですよね。

当時のスタイルを知っている人なら誰でも、とても特別な時代だったことをわかってる。人があるブランドを着ていたのは、それが世界に対して自分が何者か、自分は何にはまっているかを伝えるための手段だったから。すごく大事なことだったのよ!

でしょうね。

『Euphoria』と『ザ・ビーチ・バム』については、リサーチのために私は実際の人々の写真をたくさん探したり、街を歩いている人々のスナップ 写真を撮ったり、何でもいいから、有名人じゃない人たちの写真を見たり、リアルな社会の人々の実例を見つけようとした。

人をリアルに見せるのが大変だというのは興味深いです。

時には、実際の人の写真を見つけるのですら大変なこともあるわよ! 『Euphoria』で、ハンター・シェーファー(Hunter Schafer)の演じる役がトランスジェンダーなのだけど、ほんの1年前ですら、おしゃれなトランスの10代の女の子の写真はネット上ではあまり見つからなかった。ハンターはモデルだから、現に私がネットで見つけた写真の大半は、彼女の写真だった。実社会の人々を参考にできるというのは、本当に重要なことよ。

こうした若い俳優は、衣装の決定にどの程度関わるのですか?ハンターの場合だと、年齢やジェンダー アイデンティティという点では、彼女の実体験はジュールのキャラクターにかなり近いですよね。

最初の取り掛かりの段階では、私はジュールをアニメのキャラクターのような人物として思い描いていたの。脚本の描かれた方がそんな感じだったから。彼女はセーラームーンが大好きだから、カラフルなアイテムや、テニス スコート、大きな靴みたいな、可愛い見た目がいいはずだと考えていたの。ドラマの序盤、実際に、彼女のキャラクターは男たちに認めてもらうことを期待していた。彼女にとって男から注目を集めるのは重要なことなの。でも話が進むにつれ、彼女は、男たちにどう思われるかをあまりに気にしなくなっていく。そして、異なる方法で恋愛を経験する。思うに、彼女はその経験に驚いて本来の自分になり始めるのね。そうなると、もう可愛いアニメっぽい見た目ではなくなる。

物語の横糸に合わせてキャラクターがどんな服を着るかが変わっていくって、とてもいいですね。実際、さまざまな感情的を経験する中で、誰もが人生の異なる時期に、異なる服装をしているわけですから。

最初の衣装合わせのときは、彼女はキュートな服を着るのをただ喜んでいたんだけど、ひとたび役になりきると、もっとジュールの感情が理解できるようになって、ジュールが何を着ているべきか意見も言うになった。

『スプリング・ブレイカーズ』 2012年

キャラクターと俳優がシンクロし始めるなんて、すごいですね。

ゼンデイヤの場合は、彼女のスタイリングのためにこれまでやってきたような準備はしなかった。最初のミーティングで、彼女は白のタンク トップにRe/Doneのジーンズか何かを穿いていたの。「あなたは今のままですごくいい」と思ったのと、彼女のルーというキャラクターに対するインスピレーションがたくさん湧いてきたのを覚えてる。いろんな意味で、私にも彼女はノンバイナリーな感じがするんだけど、その点は、ドラマの中で掘り下げられていくわ。

これほど若い人たちとこれほどたくさん仕事をして、人々の服装について研究しているわけですが、ファッションにおける次の大きなトレンドは、どういうものだと見ていますか?

次の流行については、私はほとんど知らないのよ。トレンドを追うのではなく、人々が自分自身のために服を着るという考え、新しいタイプの突飛さという考えみたいなのは感じるけど。人々は、自分自身のスタイルを作り上げ、自分で自分のトレンドを作り出してる。いや、それ以上ね。個性そのものを作り出してる。

あなたのキャリアの中で、いちばんスタイリングが楽しかったのはどのキャラクターですか?

ムーンドッグは楽しかった。『Euphoria』のジュールとルーも。彼らに対するアプローチには、実質、ルールがなかったから。自分のクリエイティビティが無限に広がるとき、どんな方向に向かって頭の中でアイデアを探り出しても構わないときが、何よりも面白い。

最後に『Euphoria』について何か教えてください。

この作品は他のテレビ ドラマとはまったく違う。見たら、みんな本当に驚くと思うわ。

Hunter SchafeとZendaya、『Euphoria』より

Olivia WhittickはSSENSEのエディターであり、「Editorial Magazine」のマネージング・エディターも務める

  • 写真: Paley Fairman
  • インタビュー: Olivia Whittick
  • ヘア&メイクアップ: Jason Murillo / Art Department
  • 翻訳: Kanako Noda