ファッションが語る2019年

AirPodsからTelfar トート、ヘイリー・ビーバーのOff-White ウェディングドレスまで2019年を象徴するアイテムを探る

  • 文: SSENSE Editors
  • アートワーク: Sally Thurer

SSENSE エディトリアル チームが今年1年を振り返り、もっとも強く印象に残っている10のアイテムを選んだ。誰が、なぜ、何を、どんなふうに身につけたかを見れば、その時どきの私たちの生き様と、これからの時代の方向性が鮮やかに浮かび上がる。

Telfarのショッピング バッグ

デザイナーのテルファー・クレメンス(Telfar Clemens)は、2014年の『Dazed』誌インタビューですでに公言していた。Telfarを至るところで目にするブランドにしたい、と。「ぞっとするほど大量に出回ってほしい、Michael Korsのバッグみたいに。誰もがMichael Korsを持ってるけれど、さらにその上をいく。あえてMichael Korsを目指す」。それから6年が経過した2019年、Telfarのショッピング バッグは、絶大な人気を誇る超目玉商品だ。手頃な価格のノンレザー トートは口コミで広がり、ファッションの影響力を書き換えるマスト アイテムになった。このシンプルに四角いビーガン バッグを、『Essence』誌はミレニアル世代の「バーキン」と呼び、『ウォール ストリート ジャーナル』は「ファッションのルールを破ったイット バッグ」と形容する。バッグとしても、手触りの柔らかさの点でも、もう手放せないと言うケレラ(Kelela)は、「安心するバッグ」だと言い切る。ライターであるマイケル・キュービー(Michael Cuby)の今秋の記事によると、魅力的な価格に設定された「Telfar ショッピングバッグは、銀行口座の残高に関わりなく、誰でも流行に敏感なファッショニスタになれるという仮定の上に成り立っている」。Telfarのショッピングバッグが今年の最優秀バッグであったことには、反論の余地がない。アクセサリーとしても最優秀であったかもしれない。昨今は、「インクルーシブ」やそれに類する語がむやみに振り回されるばかりで、真の行動を伴わない陳腐な決まり文句に成り下がっている。そして、このダメージを回復するためには、多大な労力を費やさざるを得ない。自己本位な利益を追求する傾向が顕著なラグジュアリー ファッション業界において、ファッションを超えて波及したTelfarの存在は、もっとも大きな意味を持つものは何かを思い出させてくれる。それはつまり、意識を共有する集団、発想の技、参加を可能にする手段が発揮するパワーなのだ。

ザイオン・ウィリアムソンの裂けたNike

YouTubeチャンネルのひとつであるBallislife.comは、ハイスクール バスケットボールで注目を集める神童プレイヤーを紹介し、メイン チャンネルでほぼ236万人の登録者を誇る。なかでも、ザイオン・ウィリアムソン(Zion Williamson)は、ハイスクール入学当時からウォッチングの対象だ。現在19歳にして身長198cm、体重129kg。私たちが冷蔵庫の上にポテトチップの袋を置くのと同じくらい簡単にダンクをこなせるウィリアムソンは、まさにパワーの塊だ。しかし、苦もなく空中へ舞い上がる驚異のスピードは、方向を間違えると、深刻な被害を生じる原因にもなりうる。それが、今年2月の試合中に起こった。試合開始から36秒後、大人気のルーキーがくるりと旋回した途端に左足がNike PG 2.5を突き破り、転倒して膝を捻挫。NBAドラフトの最優先指名候補が負傷する顛末に、Nikeの時価総額は一晩で11億ドル下落し、ファンと業界関係者はウィリアムソンがもうカレッジ バスケットボールでプレーしないことを切に願った。その後Nikeの株価は回復し、ウィリアムソンのために補強をほどこしたシューズまでデザインされたが、ウィリアムソン自身は、その後ニューオーリンズ ペリカンズから指名されたものの、さまざまな負傷が未だに完治していない。試合復帰の見込みは2019年末。聖書に出てくるシオンの山にちなんで名づけられたウィリアムソンは、新たな神話になりつつある。ともかく、片足を軸にする180度ピボットの成否はひとえに土台の強度にかかっているのだから、高品質のシューズを履くに越したことはない。さあ、すっかりウィリアムソンのキャッチ フレーズになった「レッツ ダンス」が幕を開ける。

トランプとLouis Vuitton「ネオノエ」

Louis Vuittonにとっては実り多い年だった。MET ガラに出席したインディア・ムーア(Indya Moore)をはじめ、2019年でもっとも輝いたスターたちのドレスを手掛けた。リアーナ(Rihanna)やカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)がビンテージをお披露目したおかげで、再販価値が急騰した。160年におよぶ有名アーティストとのコラボレーションを記念して、大規模な回顧展を開催した。テキサス州アルバラードに新設された工場の落成式に、今のアメリカでもっともダサい有名人、ドナルド・トランプを招待した。「ロシャンボー ランチ」と命名された新工場からは今後5年間で1500人以上の雇用創出が期待され、テープカットでは大統領とLVMHグループの会長ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)が肩を並べ、笑顔を交わし、手を握り合った。トランプは、焼きたての熱いジャガイモみたいに「ネオノエ」バッグを抱え持ち、スピーチでは、世界でもっとも有名な高級ブランドを「ルーウィー・ヴーターン」と発音した。

このメディア向けイベントに対するネットの反応は、気の抜けた失望にとどまったが、これは延々と続く馬鹿らしさに大衆が辟易して、もはや気にも掛けないことを示している。確かに私たちは、政治家がブランド的存在であることは受け入れた。それでもなお、相対的に、政治家がオシャレなものから距離をとることを期待する。同時に、高級ブランドがカネで動くことは承知しているものの、たとえ錯覚に過ぎなくとも、その錯覚の原則を誇示する程度のことはしてほしい。トランプのために資金集めのパーティを開催してボイコット運動が起きたフィットネス クラブ「エクイノックス」と同じように、Louis Vuittonのボイコットを呼びかける人もいたが、ラグジュアリー商品を購買する人々は政治に対してもっとも無関心な人種に属することを、知らないのだろうか。ロビン・ギバン(Robin Givhan)が『ワシントン ポスト』紙に書いたように、「このもっとも異常な時代にありながら、企業にとっての正常を恥ずかしげもなく平然と宣誓してみせたという意味で、不愉快なテープカットだった。片や、移民やLGBTコミュニティのみならず、女性全般を、敵に包囲されたような気持ちにしてきた大統領。片や、まさにそれらの人々から途方もない利潤を吸い上げる億万長者の大立者。両者が関わったゲームに、果たして中立の地帯は存在しえるだろうか?」。もうひとつ、面白いことがある。トランプの娘ティファニー・トランプ(Tiffany Trump)の名前は、ジュエリー ブランドのTiffany & Coにちなんでつけられたものだ。今年、そのTiffanyがLVMHに買収されたのは偶然…だろうか? 2019年は、油断できない繋がりがせっせと形成された年だった。

ヘイリー・ビーバーのOff-White ウェディング ドレス

ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のシグネチャとなった大文字のアルファベット使いは、ファストフード チェーンのロゴと同じくらい随所に現れ、コピーされるようになった。唯一手付かずの市場のひとつがブライダル衣装だったが、それも、ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)がOff-Whiteの特注ウェディング ドレスを着た2019年までのこと。Off-Whiteのロゴが刺繍され、ベールに「TILL DEATH DO US PART(死がふたりを分かつまで)」の文字が躍ったドレスで、ヘイリーがますますパワフルなインフルエンサーになったのは当然ながら、何はさておきベールだけでも、誓いの言葉のスペルにまつわる白熱の議論を巻き起こすに十分だった。人生を商業化してミームとして繁殖させるというますます白熱化する競争と、人生におけるもっとも記念すべきプライベートな節目を、ひとつに組み合わせたのがこのドレスだ。ストリートウェア ブランドが成し遂げた究極の連携は、インフルエンサーの時代、クールな巨大教会とカニエ・ウエスト(Kanye West)の日曜礼拝に膨大な数の信者が押し寄せる時代ならではと言える。消費主義がキリスト教の仮面をかぶる。Instagramの人気は衰えを知らず、オンラインとオフラインでの選択が今なお「いいね」の数に左右される現在、私たちは自問せざるをえない。これは2019年だけを象徴する総括なのか、それともこれが現代人の生き方なのか?

フェリシティ・ハフマンの囚人服

ワークウェア ブランドDickiesのシャツとパンツ、運命の皮肉を感じさせる大衆的なスニーカー、野暮ったいおじさんみたいな野球帽。インフルエンサーが発信する「#今日のコーデ」ではないが、これが、今年の10月、カリフォルニア連邦矯正施設で14日間の刑期に服していた女優フェリシティ・ハフマン(Felicity Huffman)の出で立ちである。有名セレブを含め、富裕な親たちが何としても我が子を入学させようと名門大学へ賄賂を支払った事件は、多数の逮捕者を出す大スキャンダルへと発展した。ハフマンは、実刑判決を下された最初の33名のひとりだ。収監期間は取るに足らない日数だが、往々にして事件の影響を免れるエリート集団が重大な責任を問われたことは、社会の耳目を集めた。いみじくも「バーシティ・ブルース作戦」と名付けられた捜査が改めて明らかにしたのは、由緒ある機関の多数が、看板に謳っているほど実力の世界ではないことだ。すでに過去10年間、数多くの詐欺事件が暴かれた。今回は大量逮捕者を出した。しかし、エリート層はこれからも長期の刑罰を逃れ続けるだろう。「地獄の沙汰も金次第」は、依然として有効な社会のルールだ。同じく前科があり、何かとお騒がせな話題を提供するマーサ・スチュワート(Martha Stewart)は、ここでもディスりの一言。ハフマンはもう少し身なりに気を使うべきだと、言ってのけた。

Moncler Genius

今年のMoncler Geniusは、相次ぐコラボレーションを展開し、あくまでアート志向なパファーの可能性を追求して、パーカー シーズン到来前の懸念を雲散霧消した。スタートは2月。シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)、Valentinoのデザイナーを務めるピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)らが、イタリアの高級アウターウェア ブランドが長きにわたって提供してきた定番に、それぞれ独自のシグネチャを組み込んだアイテムを発表した。そして、注目を維持できる期間が短くなる一方のファッション界で、たちまちカルト的な人気を獲得したのである。成功に貢献したのは、ソーシャル メディアを賑わすセレブと、「新しいもの」を求めるミレニアル世代のニーズに対応したビジネス モデルだ。CEOのレモ・ルッフィーニ(Remo Ruffini)は、ビジネス オブ ファッションのインタビューで「顧客に対して、6か月毎に発信するわけにはいかない。毎日、発信する必要がある」と語っている。ファッション誌のエディトリアル、レッド カーペット、もちろんInstagramの随所に姿を現したMoncler Geniusは、おそらく実用には無理があるだろうが、着用可能な寝袋のようなCraig Greenのデコンストラクトなジャケットや、斬新なフォーマル ウェアで、季節限定のウィンター ウェアを提供する競合他社を見事に打ち負かした。「新しい男性像」がテーマの『GQ』先月号は、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が表紙を飾ったが、「An Exploration of Identity, Culture, and Style in 2019 (2019年のアイデンティティ、カルチャー、スタイルを探る)」という見出しと、イエローのMoncler Genius x Pierpaolo Piccioli パファー ガウンが、見事に調和している。

ジェレミー・O・ハリスのThom Browne スカート スーツ

1年の終わりが近づくにつれ、ひとつの名前がどんどんリストを浮上してくる。ジェレミー・O・ハリス(Jeremy O. Harris)だ。脚本家、シナリオ ライター、Gucciのミューズ、俳優、そして『Out』誌が言うところの「演劇界に必要なクィアな黒人の救世主」は、早い話が、神のごとく遍在している。まず、『Garage』はロー・エスリッジ(Roe Ethridge)、『M le mag』はペトラ・コリンズ(Petra Collins)が撮り下ろした写真など、数々の雑誌の表紙を飾った。リアーナ(Rihanna)やミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)のインタビュー記事を含め、署名入りの記事も書いている。メル・オッテンバーグ(Mel Ottenberg)、ハリス作のブロードウェイ演劇『Daddy』に出演したハリ・ネフ(Hari Nef)と親しく付き合っている。Twitterでは、ナターシャ・リオン(Natasha Lyonne)から、批評家の面々、ブロードウェイで大ヒットしたハリス作『Slave Play』のチケットを直前になって手に入れようと躍起になっている観客まで、あらゆる人にメンションを飛ばしている。だがハリスは、単なる演劇界のスーパースターにとどまらない。彼の煥発な才気は、深い洞察に裏打ちされたスタイル感と強く結びついている。ファッションを超えるスタイル、人を惹きつけて止まない魅力を発散するスタイル、ブロードウェイ ショーと何の繋がりも感じたことがない観客と呼応できる作品のスタイルだ。ハリスはブロードウェイを永久に変えた。

だがここで、ファッションも語らずにはいられない。斬新で強烈なインスピレーションをもたらした2019年突出のファッション アイコンと認めずして、彼の多大な影響力と驚くべき磁力を正しく評価することはできないからだ。頭の天辺から足の爪先まで、彼が身に着けなかったブランドがあるだろうか? Gucci、Telfar、Bode、Givenchy、もちろんThom Browne。ハリスが着てみせた数々のThom Browne スーツときたら、次回のショーでThom Browneが上客に配る豪華本かお洒落なジン(Zine)に使えるほどだ。何と言っても、「ハリス & Thom Browne」が巻き起こした大旋風の集大成は、自作のブロードウェイ ショーのために舞台照明を活かした写真だろう。上から下までThom Browne、ランウェイに登場したそのままのスカート スーツだ。この瞬間と、写真に添えられた「牧師が警告する黒人男性の女性化を画策中」というツイートこそ、(純粋に楽しいときも確かにあるだろうが) これまでの10年と同程度に見通しの暗い、来たるべき10年に繰り越したい唯一のエネルギーだ。ジェレミー・O・ハリスほど、注目を集め、歴史的な意義を持ち、お洒落に、美しく、幅広い影響を及ぼした新星はいない。これが結論だ。映画監督ジャニクザ・ブラヴォー(Janicza Bravo)と共同で脚本を書いた『Zola』も前評判は高く、サンダンス映画祭のコンペティションに出品されるから、要注目。『アートフォーラム』誌の2019年12月号で、クリストファー・グラゼック(Christopher Glazek)は予言している。「業界では冗談で言う人もいるが」、ハリスが「Netflixと数十億ドル単位の契約を結ぶ第1号になるのは、もはや運命の定めだ」

New Balance 990 V5

世界のランウェイと都市郊外で暮らすベビーブーマーのFacebookのタイムライン、その両方にスニーカーの入荷が影響を及ぼすなど、毎日あることではない。それどころか、毎年だってありえない。ミーク・ミル(Meek Mill)、リル・ヨッティ(Lil Yachty)、カワイ・レナード(Kawhi Leonard)、なんとジェニファー・ガーナー(Jennifer Garner)まで、多種多様な人々から同じスタイルの靴に人気が集まるなどということは、さらにありえない。ところが、1982年にオリジナル版が発売されたNew Balance 990にかかると、これまでフットウェアを左右してきた消費者構成の境界が無意味になってしまう。過去数シーズンはおじさんが履くようなダッド スニーカーがもてはやされ、目も眩むばかりのネオン カラーを使ったキングサイズのシルエットが果てしなく続いた。そんなトレンドから脱却したNew Balance 990の5番目のバージョンは、ひたすらシンプルであることが成功の秘訣だ。2019年に発売された990v5は、控えめなシルエット、ファブリック、グレーを主体とした色使いを取り入れ、非常に地域限定的なキャンペーンを展開して、「競争の上をいくカット」や「秘密の優れモノ」といったコピーを謳った。消費者動向を示すベン図の重なり部分が大きくなった時代にふさわしいフットウェアだ。なぜなら、現代にふさわしい新たなビジネス モデルとは、アイロニーとバイラルに焦点を絞り、競合のコースから完全に外れることだから。延々と同じトラックを周回するのは、もう止めだ。

グレタ・トゥーンベリの「科学に基づいて団結を」航海スタイル

今年は、刻一刻と強まる地球の終末感を反映するかのように、世界滅亡の日に備える「プレッパー」のスタイルを選ぶ人たちが増えた。ハーネス、クリップ、ベルト バッグ、ポケット、ストラップ、分厚いVibramソール、ふんだんなGORE-TEX使い、あご紐つきの帽子、ゴーグルのようなメガネ。とにかく実用本位。そのうちBalenciagaの緊急照明弾、Diorのキャンプ用汚染水煮沸ストーブが登場しても不思議ではない。無力感と不安を背景に、サバイバルを視野に入れたタクティカル ファッションがどのように領土を拡大しつつあるか? グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)を見てみよう。未来への希望に溢れ、走り書きのつたないプラカードを掲げ、世界を変える一助になれると信じていた2018年頃のグレタは、陽光を思わせる明るいイエローのレインコートを着ていた。次に、大気中への二酸化炭素排出量を増加させないカーボン ニュートラルな航海で、15日かけてアメリカへ向かった2019年。船体に「UNITE BEHIND THE SCIENCE」と大書きした太陽光パネル搭載のレース用ヨットに乗り込み、風に顔をしかめるグレタは、全身黒づくめのタクティカル ウェアだ。ファッションの動向は嘘をつかない。タクティカル ファッションが急増した理由は、タフな対決姿勢、弱さを隠すための誇示、そして地道で細心の備えのはざまにある。受け入れようが、否定しようが、2019年は、異常気象の緊急性が現実味を帯びた年だった。

AirPods

「ちょっと待って。ジョナ・ヒル(Jonah Hill)は、去年の年末のエディトリアルにも出てなかった?」と気付いたあなた、あなたは間違っていない。今年、人気が沸騰したAirPods熱にも、毎度おなじみのデジャヴ感がある。おまけに、2019年を代表する商品とも言えるAirPodsは、実は発売が2017年、今年1年よりはるかに長い歴史を持つ。200ドルを超えるワイヤレス ヘッドフォンの価格は、笑えるほどの金満で、かなりのレベルのハイテク通な持ち主の趣味を暗示する。事例研究として、ジョナを取り上げてみよう。ある朝、ソーホー地区をそぞろ歩いている写真がある。ユーカリとゼラニウムの香りが漂うフィットネス クラブ「エクイノックス」を背後に、片手にタバコ、片手にコーヒー、両耳にAirPodsで歩く姿は、まるで苦労などないようだ。シンプルで便利なAirPodsは、長閑な絵になる。だが魅力的な見かけに誤魔化されて、陰湿な真実を見落としてはならない。実は、AirPodsの性能は徐々に低下し、18か月前後で使い物にならなくなるのだ。原因はリチウム イオン電池の劣化。ところが、当然ながら電池は接着されているため、交換もできないし、適切に処分することもできない。2年足らずの寿命に対して、分解には人間寿命の倍の年数を要する。まさに、計画的陳腐化の最たるものだ。時として、ラグジュアリーという幻想には無常という欠点がある。いずれにせよ、AirPodsもジョナの穏やかな朝も、使い捨てコーヒー カップという「弱み」によって、いずれは糾弾される運命ではあった。恥ずべき秘密はいかにも2019年を象徴するが、露骨な環境無視は1年限りの問題ではない。

  • 文: SSENSE Editors
  • アートワーク: Sally Thurer
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: December 30, 2019