絶対読む 絶対持つ

ナターシャ・スタッグの知的なアクセサリー術

  • 文: Natasha Stagg
  • 写真: Brent Goldsmith

あなたのお気に入りの本は、往々にして、あなたとあなたのお気に入りのバッグの非常に象徴的な関係を共有する。読みかけの間はバッグの中が住居になり、柔らかい革のサッチェルに包まれて街を引き回され、イブニング バッグに入ってひとりぼっちのディナーにお供する。読み終えて本棚に戻した後でも、感銘を受けた良い読み物はあなたの中で永遠に生き続ける。ナターシャ・スタッグ(Natasha Stagg)は、ファッションライターであり、昨年にはデビュー小説「Surveys」がSemiotext(e)から出版された作家でもある。鋭いスタイル センスを持ち、大の読書家でもあるナターシャがお薦めする、現在のお気に入りの本と、それぞれの本に似合うお気に入りのバッグ。これは、知的なアクセサリー術である。

NICOLA, MILAN

Mansur Gavriel
ネイビー スエード
バックパック

Semiotext(e)から2014年に出版されたルドヴィコ・ピニャッティ・モラノ(Lodovico Pignatti Morano)著「Nicola, Milan」は、ミラノの夜の世界を完璧に把握しているニコラという男を、その世界とは関係が薄そうな語り手の視点から追う。正面から魅力的だと認めるのはきまりが悪いが、次に起こることを知るためだけでも、ついつい後を追ってしまう。ニコラはそんな男だ。人の形を借りたファッション ブランディングだ。「Nicola, Milan」の語り手は、刺激的で痛切なほど詳細な描写によって、鉄壁の使い捨て代名詞「カリスマ」の背後に存在しうる現実を説明しようと試みる。読者がニコラの後についてミラノを駆け巡るように、ニコラもまた、美意識の塔の狭間に意味のある何かを追い求める。街に飽き、排他性ゆえに価値を保持する高級品市場に飽きることを期待しつつ。だが、合成されたヒエラルキーや目に見えない境界に関する語り手の鋭敏な観察によって、それとは反対のことが起こる。とても飽きることなど不可能だ。

SING THE SONG

Issey Miyake
ブルー リニア ニット
リュックサック

Future Tense Booksから2016年に出版されたメレディス・アリング(Meredith Alling)のデビュー小説集「Sing the Song」を読むと、夢の記憶を掴もうとする気分になる。エネルギッシュで、おかしくて、時に吹き出してしまう散文体。2ページの短編の数々を、筆者が、書店ではなく前衛的なコメディ ショーでが朗読する姿がたやすく想像できる。激しく変化する言葉遣いは、構造の断定をむしろ疑問のように感じさせる。ほとんど印象派的と言える手法で形成される話の筋は、狭い家の内部のあちこちにぶつかって、跳ね返り、ぼやける。見慣れた場所が奇妙な場所になり、知っているはずのキャラクターが異星人になる。そして読者は、相互作用がくねりながら進行する緩んだ時系列、すべての生の瞬間の柔軟性を擬態に取り残される。

RELIEF MAP

Building Block
ブラック
バックパック

Tin Houseから2016年に出版されたロザリー・ネクト(Rosalie Knecht)のデビュー小説「Relief Map」は、典型的な成長物語。穏やかな小さな町の登場人物、近所に住む若者同士の緊張に満ちた初恋、広大ながら限定された風景が、記憶していることすら覚えていないラジオの単調な繰り返しのように、毎日苦もなく過ぎていく。だが、斜陽化した工業地帯ペンシルべニアの眠気を催すような町は、ジョージア共和国からの逃亡者が潜伏していると伝えられるや、存在感を増すと同時に小さくなる。町がバリケードで包囲されている間、ふたりのティーンエージャーと彼らの家族の抱く切望が浮き彫りになる。逃亡者が発見されるに至って、大人への変容はさらに複雑になるだけだ。ネクトによって現代的に書き換えられた「アラバマ物語」のブー・ラドリーのようなひねりは、ヤング アダルト小説が倫理的に単純化される必要はないこと、そして「Relief Map」に描かれたように、時として正解へ通じる明確な道は決して見つからないことを証明している。

Farrar, Straus & Girouxから2016年に出版された「The Selfishness of Others: An Essay on the Fear of Narcissism」で、著者クリスティン・ドンベク(Kristin Dombek)は正直に認めている。すなわち、部分的にであれ、彼女の研究の対象者が飲み込まれたと同じいくつかの罠に落ちることなく、「ナルシズム」という言葉の最近の人気について書くことは難しい。他人のナルシズムを描写することは、時に、偽善的な気がする。ドンベクによれば、それは自己陶酔的な傾向に対する私たちの基本的な理解が、不当に見捨てられたという私たち自身の苦い感情に組み込まれているからだ。結局、「ナルシスト」に対する批判は、大抵、エゴが予期せぬ打撃を被った後に発生することが判明する。しかし、十分なリサーチに基づいて書かれたこの痛烈なエッセイが気付いたように、ナルキッソスのギリシャ神話とその名を与えられた障害の歴史は、「ナルシズム」の意味に対する今日の曖昧な理解の先例だ。ナルシズムは、インターネット時代に広がりを見せているのか? それとも、ナルキッソスがいつまでも目を離せなかった鏡のような池の役割りを、インターネットが果たしているのか? この点やその他の関心を考察するためにドンベクが選んだ数々の例は、どうしても引き込まれるほど極端であると同時に、身に覚えがあって目から鱗が落ちる。

DOUBLE TEENAGE

See by Chloé
ブルー デニム
パッチワーク
アンディ トート

Book Thugから2016年に出版されたジョニー・マーフィー(Joni Murphy)のデビュー小説「Double Teenage」は、ニューメキシコで成長するふたりの少女の厚い友情を背景に、若さと暴力とメディアについて、時にエッセイ風に物語る。開放的な夕陽の下、だが熱い空気に包まれて、セリーヌとジュリーは、その後人生に永遠に重なり合うことになる舞台公演で、演劇と悲劇に開眼する。馴染み深い残忍な物語を通じて、無関心と固執を理解する。日夜目の前で展開する様を見続けるうち、時間はスクリーンに分割される。「Double Teenage」は、若い女性の友情に秘められた力を描き、そして、現実と同じく、友情というテーマを衰退するに任せる。交代に登場するのは、下手な演劇と同じように些細で途切れたメディア記事だ。

WHEN THE SICK RULE THE WORLD

Prim by Michelle Elie
ブラウン ウッド
E1027 バッグ

Semiotext(e)から2015年に出版されたドディー・ベラミー(Dodie Bellamy)の「When the Sick Rule the World」は、刺激的に瓦解するエッセイ集である。例えば、口笛に性を当てはめたりやアイリーン・マイルズ(Eileen Myles)の詩の複雑な構造など、テーマの解体を目にするうち、ベラミーのエッセイのフォーマット自体が分解し、代りにストーリーが登場する。「書き、思い出すベラミー」のストーリーだ。同時に、彼女が本書で取り組んでいるテーマに単純なフロイド流の答えはない、と読者は気付く。風刺さえ、解答は見当たらない。しかし、これらの動きから、もっとも大きな衝撃を生み出す。 ベラミーが口笛を嫌悪するのはトラウマが原因か、あるいは、ポップ カルチャーを遡って理由を追跡できるか。そんなことを、一体誰が気にするだろう? 友人と話すときのように、ちょっとそれについて考えて、興味を失って、例えばフロリダから中西部の大学へ車で帰る旅に話題を変える。それは楽しい。マイルズの仕事の方法を考えるのは面白いが、マイルズの家の詰まったトイレの話を聞くほうが、もっと面白い。ベラミーは、テーマを変えることで、ひとつのテーマを追うより多くを語る。なぜなら、いつもテーマは「書くこと」だから。

SWING TIME

Mansur Gavriel
ブラック レザー
サン トート

Penguin Pressから2016年に出版された、ゼイディー・スミス(Zadie Smith)の5作目の小説「Swing Time」は、これまででもっとも自伝的な作品だと言われている。身体的特徴、興味、家族環境、故郷をスミスと同じくする主人公の少女が、成長の苦しみに必ず潜む体験をを辿る。揺るぎない友情、ロンドンにおける人種の意味合いに関して深まる理解、セレブリティが果たす役割りの本質的な初体験。エイミーという架空のポップ スターが登場し、少女がパーソナル アシスタントになるあたりから、物語は充実してくる。何げないシーンから次の何げないシーンへと展開するスミスの才能が発揮され、後から振り返って初めて、全ての断片が完璧に配置されていたことが分かる。登場人物は、マイケル・ジャクソンとダンスしたと噂され、役者が黒人に扮した映画に心を奪われたり、ヒト型爬虫類の陰謀を信じていたり、自分たちの金で貧困に終止符を打てると考えたりする。そのすべては、先ず何より、スーパースターに間近な場所の磁力を物語る。

PROBLEMS

Kara
シルバー タイ
トート

Coffee House Pressから2016年に出版されたジェイド・シャーマ(Jade Sharma)のデビュー小説「Problems」は、悲しいよりはおかしく、そしてひどく悲しい。語り手のマヤは、ヘロイン中毒。彼女を取り巻く問題は、ほとんどがこの事実から派生している。しかし、ヘロインの存在は、ロマンティックにも圧倒的にも描かれていない。その代わり、我慢するしかない蛍光灯の甲高いノイズのように、あらゆる場面の背景で微弱な振動を継続する。実際のところ、喉から手が出るほど子供が欲しいのに、夫への愛が冷めつつある痛切な実感と同じ程度に、中毒は日常的だ。マヤの危機はひとつ残さず、不快な状況に内在するユーモアも含め、動機の暗部がくまなく暴露されるまで、接近し引き伸ばされる。マヤの中毒は、シャーマの新鮮な洞察力という万華鏡を通して、読者の頭からも離れなくなる。いつ止めることができるのか。一方で、物語は異様な領域へ展開していく。マヤが援助交際サイトで出会う男たちのもの悲しいホテルの部屋のように。そして、中毒は欠かせないものになる。

  • 文: Natasha Stagg
  • 写真: Brent Goldsmith
  • スタイリング: Juliana Schiavinatto / P1M
  • ヘア&メイクアップ: Susana Hong / P1M
  • モデル: Carly Moore / Elite Models